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07 提案
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その後も楽しく話が続き、二人は月明かりの中、生垣越しではあるが気楽な時間を過ごした。
ふと時計を見たフェリチアーノは、会場を抜け出してからかなりの時間が経っている事に気が付き、そろそろこの楽しい時間を終わりにしなければならないと、少し寂しさを覚えてしまう。
「どうかしたのか?」
「その、随分と話し込んでしまったのでそろそろ戻らなければと……」
急な沈黙にテオドールが声を掛ければ、そう返答が返ってきてしまい、テオドールもまた身分を考えなくてよい気楽な会話が終わってしまう事を残念に思ってしまった。
「そうか……せっかく楽しかったんだけどな」
「本当に、楽しすぎてあっという間でしたね」
お互いに名残惜しさを感じ取り、二人して笑い合ってしまう。
そこでふと、フェリチーノは面白い事を閃いてしまった。
「そう言えば、僕達はお互い似た事で悩んでいましたよね?」
「そうだな、面白い偶然もあるもんだよ」
「そこで提案なんですが、もし貴方さえよければ、僕と期間限定で恋人ごっこをしてみませんか?」
「期間限定で……恋人ごっこ?」
余りにも突拍子も無い提案に、テオドールは相手が見えない生垣の方を振り返って目を丸くしてしまう。
「僕は愛する人を見つけられないし、見つけたとしても家の事がありますから、所帯を持つつもりが無いのですよ。迷惑をかけるので恋人を作るつもりもありません。貴方も二年後には婚約なさるのでしょう? でしたらその間だけでも、割り切った状態で恋人ごっこをしてみませんか?」
「面白い提案ではあるが……君は良いのか?」
「僕から提案している事ですよ? それにごっこ遊びでも、愛し愛される体験が出来るならきっと楽しいと思いません? お互い多少なりとも諦めきれないわけですし」
フェリチアーノの言う通り、ごっこ遊びだとしてもその提案は魅力的ではあった。従者のロイズに期間限定で恋人を作ってみてはどうかと提案されたが、相手に悪いだろうと恋人を作る気はなかった。
だがしかし、お互いが完全に割り切った”ごっこ遊び”という枠組みの中なら、それはとても魅力的な提案に思えた。
「お互いに魅力的な話だな」
「そうでしょう? それと契約書でも書きましょうか、そうしたらお互い遺恨も後腐れも無いでしょう」
「なんだか手馴れている気がするが?」
「あぁ、期間限定の愛人……みたいな事をやっていた事があるので……そのお陰で思いついたのですけど」
なんとも言いにくそうに話したフェリチアーノの言葉に驚きはしたものの、逆にそういった経験があるのならば、余計に向こうは割り切っていられるのだろうし、お互いに気を使わなくて良いのではないかとテオドールには思えた。
それは本来求めて居た物ではないが、多少なりとも残り少ない時間で、僅かにでも疑似体験がお互い同意の下でお互いが出来るのならば、それはとても運がいい事ではないだろうか。
「はははっ楽しそうじゃないか、恋人ごっこ! 俺で良ければ喜んでごっこ遊びをしようじゃないか」
面白そうに笑うテオドールの声に、突拍子も無い提案をしたフェリチアーノ自身、安堵した。
閃いたままに提案をしてしまい、変な人扱いされても可笑しくは無かったが、テオドールは快諾してくれた。ふと家族の事が心配になるが、相手もごっこ遊びと割り切っているので、今まで通りに上手く隠せるだろうと考えた。
そこまでいって、フェリチアーノとテオドールは相手が誰だか判らずに話し続けていた事を思い出したのだった。
ふと時計を見たフェリチアーノは、会場を抜け出してからかなりの時間が経っている事に気が付き、そろそろこの楽しい時間を終わりにしなければならないと、少し寂しさを覚えてしまう。
「どうかしたのか?」
「その、随分と話し込んでしまったのでそろそろ戻らなければと……」
急な沈黙にテオドールが声を掛ければ、そう返答が返ってきてしまい、テオドールもまた身分を考えなくてよい気楽な会話が終わってしまう事を残念に思ってしまった。
「そうか……せっかく楽しかったんだけどな」
「本当に、楽しすぎてあっという間でしたね」
お互いに名残惜しさを感じ取り、二人して笑い合ってしまう。
そこでふと、フェリチーノは面白い事を閃いてしまった。
「そう言えば、僕達はお互い似た事で悩んでいましたよね?」
「そうだな、面白い偶然もあるもんだよ」
「そこで提案なんですが、もし貴方さえよければ、僕と期間限定で恋人ごっこをしてみませんか?」
「期間限定で……恋人ごっこ?」
余りにも突拍子も無い提案に、テオドールは相手が見えない生垣の方を振り返って目を丸くしてしまう。
「僕は愛する人を見つけられないし、見つけたとしても家の事がありますから、所帯を持つつもりが無いのですよ。迷惑をかけるので恋人を作るつもりもありません。貴方も二年後には婚約なさるのでしょう? でしたらその間だけでも、割り切った状態で恋人ごっこをしてみませんか?」
「面白い提案ではあるが……君は良いのか?」
「僕から提案している事ですよ? それにごっこ遊びでも、愛し愛される体験が出来るならきっと楽しいと思いません? お互い多少なりとも諦めきれないわけですし」
フェリチアーノの言う通り、ごっこ遊びだとしてもその提案は魅力的ではあった。従者のロイズに期間限定で恋人を作ってみてはどうかと提案されたが、相手に悪いだろうと恋人を作る気はなかった。
だがしかし、お互いが完全に割り切った”ごっこ遊び”という枠組みの中なら、それはとても魅力的な提案に思えた。
「お互いに魅力的な話だな」
「そうでしょう? それと契約書でも書きましょうか、そうしたらお互い遺恨も後腐れも無いでしょう」
「なんだか手馴れている気がするが?」
「あぁ、期間限定の愛人……みたいな事をやっていた事があるので……そのお陰で思いついたのですけど」
なんとも言いにくそうに話したフェリチアーノの言葉に驚きはしたものの、逆にそういった経験があるのならば、余計に向こうは割り切っていられるのだろうし、お互いに気を使わなくて良いのではないかとテオドールには思えた。
それは本来求めて居た物ではないが、多少なりとも残り少ない時間で、僅かにでも疑似体験がお互い同意の下でお互いが出来るのならば、それはとても運がいい事ではないだろうか。
「はははっ楽しそうじゃないか、恋人ごっこ! 俺で良ければ喜んでごっこ遊びをしようじゃないか」
面白そうに笑うテオドールの声に、突拍子も無い提案をしたフェリチアーノ自身、安堵した。
閃いたままに提案をしてしまい、変な人扱いされても可笑しくは無かったが、テオドールは快諾してくれた。ふと家族の事が心配になるが、相手もごっこ遊びと割り切っているので、今まで通りに上手く隠せるだろうと考えた。
そこまでいって、フェリチアーノとテオドールは相手が誰だか判らずに話し続けていた事を思い出したのだった。
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