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02 招待状

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 その日デュシャン家の面々は、王宮から届く手紙をリビングで今か今かと待ち侘びていた。
 年に一度、王宮で開かれる大規模な夜会は、ウルキアーガ王国の貴族達が一堂に会する物であり、年頃の子息や令嬢達の婚約者探しの場でもあった。
 故にこの時期は婚約者が定まっていない子息や令嬢達が居る家では、どこの家でも同じ光景が見られる。

「アガット、少しは落ち着いたらどうだ」
「まぁお兄様ったら、余裕ですのね! これは戦争ですのよ!」

 落ち着きなく部屋を行き来するアガットに、長兄であるマティアスは煩わしそうに顔を顰めるばかりだ。そしてアガット同様落ち着きが無いのは母であるカサンドラも同じであった。
 娘には良い条件のお金持ちの家へと嫁いでもらわなければ困るのだ。ともすれば母親も娘同様気分は狩りに出かける戦士そのものだ。

 そうこうしているうちに、王宮から使者が手紙を携えやって来る。その手紙を恭しく受け取ったアンベールだが、扉が閉まるや否や、カサンドラとアガットにひったくられてしまう。
 やれやれと苦笑しながらリビングに戻れば、手紙は既にテーブルに放り投げられており、夜会の日付を確認した女二人はすぐさま仕立て屋を押さえる様にと声高に従僕へと言いつけていた。

「毎年の事ながらよくやるよ」

 呆れた様に言うマティアスに同意しながらも、お前も少しは気合を入れて探せとアンベールは息子の肩を叩いた。

「お父様、噂では今年は第四王子殿下が帰国なさるとか? どんな方かしらね!」
「なんだ、アガットは殿下狙いなのか?」
「そんな高望みはしないわよ、王族入りなんてとんでもなく面倒そうじゃないの。うちと同格の伯爵家の方が良いけれど、お金持ちで贅沢させてくれるなら爵位が多少落ちても良いわ」
「へぇ、お前もちゃんと考えているんだな?」
「何も考えてないお兄様と一緒にしないでくださる? お兄様は持参金をたっぷり持ってきてくれそうな御令嬢を頑張って落としてきてくださいな。お顔は良いのだからそれくらい簡単でしょう?」

 アガットの発言に容易く言ってくれるなと思いマティアスから深い溜息が出た。
 整った顔立ちをし、女に対して甘く囁く事を躊躇わないマティアスは、確かに女達にモテはする。故にこれまでも女に関しては特に不便を強いられた事は一度として無かった。
 しかしそれは伯爵以下の爵位の家に限られる。高位貴族達は皆容姿端麗な者が多く、全てが洗礼されている。いくら整った顔立ちだと言っても、上の人々の足元レベルでしかないのだ。

 持参金を多く持ってくる令嬢となれば、同格か更に上の爵位になる。しかしそんな家の令嬢達はマティアスなど目にも留めないのだ。
 だがマティアスも持参金が少ない、要は家が援助をしてくれないような女を娶るのは嫌だった。一度染みついた贅沢を手放すなど到底無理な話なのだ。
 今でも貢いでくれる女は居るが、それでは物足りない。やはり金がある女を娶り、父と同じように愛人を囲う生活が一番良いと考えていた。
 それにマティアスは結婚適齢期である、あまり遊び惚けても居られないのは事実だった。

「お兄様、女が無理なら男はどうです?」
「そっちは範疇外だ」
「どうせ愛人を囲うつもりなのでしょう? だったら妻は男でも良いじゃない。選択肢が多いのは良い事だわ、ねぇお母様」
「そうねぇ、持参金があるなら問題ないわね?」

 好き勝手を言い出した二人に、お手上げだと言わんばかりに肩を竦めたマティアスが部屋から出て行くのに続いて、アンベールも部屋を出た。
 廊下にまで聞こえて来るはしゃぎ声には心底うんざりしてしまう。

「マティアス、二人はあぁ言ったがね、お前は好きなようにして良いんだからな?」

 その言葉に首を傾げる息子に対し、アンベールはニヤリと口の端を上げいやらしい笑みを浮かべる。

「うちには金の卵を産むガチョウが居るのだから、お前達が苦労する事は無いのさ」
「あぁ確かに」

 父によく似た笑みを浮かべたマティアスは、気分が幾分か晴れたのを良い事に、お気に入りの女に会うべく意気揚々と出かけて行った。
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