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第1章
40.今いない天使へ
しおりを挟む「僕がハーフ?」
『そうだ、お前は人族と悪魔族のハーフで間違いない。俺が人族だったばかりに、純血の悪魔族に生んでやれなくてごめんな』
「そんな、僕はお母さんが生きてただけで…うれしくて…うぅ、ぐず……」
『!!泣くな…泣かれるとどうしたらいいかわからない…」
声しか聞こえないけど、それだけでもわかる優しいお母さんの声。僕が泣き出してオロオロしてる姿がなんだか見えるようでこう言うのってすごくくすぐったい。
「ふふふ…」
『笑ってるじゃないか、まったく、これだから子どもはわからない…。まぁ、お前が笑ってくれるならなんでもいいよ』
笑った僕に少し呆れた様子のお母さんはでも僕を嫌いなんて言わなくて、むしろ大切だって言葉の端々から見て取れる。
優しいなぁ
僕のお母さんは
もう会えないとなんとなく覚悟してたお母さんに会えたこと、こうして僕を愛してくれてたこと。ほんとにほんとに嬉しくて。
このままずっといたいな、なんて思ったりしてしまう。
『俺も、お前と一緒にいたい。声だけじゃなくて、直接逢って抱きしめて。お前は俺の息子だって何度も何度も言ってやりたい。お前が自分に自信が持てるように。
って、難しいなぁ…こんなに近いのに遠い。
悔しいな。何一つ思い通りに行かない』
「お母さん…」
そう出来ない理由が母にはあるのだろう。
魔族の父のことも。
知りたいこと、知らないことはまだまだ多い。
『ベル、苦しいこと、悲しいことは生きていればたくさんある。だけど、前を向いて立ち向かうんだ。何があろうとも、俺はベルの味方だよ』
まっすぐに応援してくれる母。
うれしい、うれしい、うれしい
お母さんの言葉が胸に響いて胸からじんわりと熱が広がっていく。
冷たかった体にゆっくりと熱が伝わっていくように。
誰からも期待されず、愛されず、見向きもされない。
そんな毎日がつらかった。
本当は苦しかった。
僕は僕だと認めて欲しかった。
出来損ないの悪魔でも、悪魔らしくない悪魔でもない。
僕はベルゼビュートだって。
だから初めて僕を僕だと言って認めてくれたカマエルのこと嬉しくもあったけど怖かった。
天使のくせに悪魔の僕といたいだなんて。
物珍しさで僕といてくれてるんじゃないかとか
いつかはみんなみたいに僕に見向きもしなくなるんじゃないかなんて心の中では常に恐れや不安が渦巻いていた。
だから強がって、でも心を許しかけてることを認められなくて、突き放した。
いずれ失うなら、自分から手放した方がいい。気を許した後で失うなんて耐えられない。僕は壊れてしまうと思った。
自分勝手だってわかってる。
でも、臆病だったんだ。
嫌われたくない、そばにいて欲しい。
いつのまにか生まれていた想いが僕の不安を加速させた。
僕だけみて
僕だけにその笑顔を見せて
僕だけーーーーーーーー愛して
あぁ、僕はあいつのことがこんなにも好きなんだ。
会いたい、会いたい、会いたい
会って、ちゃんと好きだと伝えたい。
気持ちを伝えるのは怖いけど、でもやっぱりカマエルだけは失いたくない。
ずっと一緒にいたい。
「お母さん、僕、あいつに好きだって伝えるよ」
『うん、お前ならできる』
突然の僕の決意はお母さんにはバレバレだったみたいで。
誰になんて言わなくてもお母さんは全部わかってるみたい。僕ならできるなんて、くすぐったいな。
『まぁ、俺の息子を泣かしたやつだからまだ許してはいないけど、ベルはあいつがいいんだろ?』
「うん、あいつじゃなきゃだめなんだ」
『そっか、ベルはちゃんと後悔のないように伝えるんだぞ』
「うん!」
お母さんの心配ってこんなに暖かいものなんだ…。知らなかった。
お母さんはちゃんと伝えなくて後悔したことがあるんだと思う。
寂しいって言葉にはしないけど、多分。
いつかお母さんもその人に気持ちを伝えられるといいな。
僕の大切なたったひとりのお母さんだからね。
カマエル、僕の気持ちちゃんと伝えるから
まってて…。
今、会えない天使を僕は想う。
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