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第1章
35.もう一人の僕
しおりを挟む勢いで出てきたしまったせいで僕は薄着だ。
外はまだ冬が開けたばかりでまだ冬と言えるほどの寒さを残している。
そんな中薄着の僕。
何…してるんだろうな。
僕はカマエルへの恋心を自覚した。
でも、あいつは天使で僕は悪魔。
人畜無害な悪魔だと言っても、天使からすれば決して馴れ合うことのない宿敵。
魔力も合わない、性格も、生態系も何もかも天使と悪魔は合わない。だからこそ争うし、仲良くなんてできない。
僕たちはたまたま、僕の魔力の波長がカマエルの聖力の波長と合うもので、価値観も似てて、気の合う友達みたいな関係になれた。
これはとても奇跡的なことで、他ではこおり得ないほどの確率だってわかってる。魔力や聖力の質や波長は一人一人少しづつ違う。
全く同じものはないと聞く。
だから僕たちでしか友達になり得ない。僕たちでしかこんな関係になることはないと言える。
もし、みんなの質や波長が同じだったら、もっと天使と悪魔は仲良くなれて僕たちの関係も諦めず一歩先へ進められてたのかな。
そもそも、カマエルが僕に興味を持ったのはあいつの聖力と交わる稀有な僕の魔力が元で、みんな同じならあいつが僕に興味を持つこともなかったわけで。
こんなに距離が近づくことはなかっただろう。
あーあ、どんな過去未来を考えても全然ダメで。僕はもうどうすればいいのだろう。
簡単に諦められなくて、この想いは消えてくれなくて、苦しい。
胸が痛い。
(…………だ、い…………か………する…)
何かがざわめいてる。
胸から熱が体全体に広がって熱い。
これは何?
何かが身体から溢れ出そうな感じがする。
でも、これはダメな…やつ
「ここら辺か、妙な巨大な波動が検知されたのは」
「はぁ…すごいわね、天界の時空間転移装置は。許可が降りることが稀だから初めて使ったけど一瞬で魔界についたわ。だからここがちゃんと魔界か疑っちゃう」
「ここは魔界だ。ちゃんと周りを見ろ動植物全て天界と違うだろう」
「むぅ、それはそうだけど、せっかくあなたと任務になれたんだから少しくらいいいじゃない」
あれは…誰だ?
声がするから咄嗟に近くの岩場に隠れてしまった。
カマエルと…女?
それも天使の。
スタイルが良くてすっごく美人。
キラキラのカマエルのそばにしても遜色のないキラキラの女性
なんだ、お似合いじゃないか。
やっぱりお前は俺なんかよりスタイルのいい美人な天使がそばにいる方が似合うな。
頬を伝う涙はなんだろう。
わかってたことだ。そう、わかってた。
でも実際に目にするのは違う。
苦しい苦しい。
抑えていた胸の痛みと全身の熱はだんだんイタミと温度をあげて僕を飲み込もうとする。
痛い…苦しい…
【こんな思いをするなら】
痛みがいっそう強くなり、二人の会話が見れなくなって、一旦下がろうと立ち上がり左足を下げた時に後ろの枝を踏んでしまった。
パキッ
「「!?」」
「誰だ!」
二人の鋭い視線が僕に突き刺さる。
「ベル?どうしたんだこんなところで。それに、薄着で風邪引くだろう?」
「何、カマエル様。お知り合いですの?こんな薄汚い悪魔と」
「いや、僕は…」
天使の女は厚かましくカマエルの腕にしだれかかって聞いている。
いや、その手を取らないで。それは僕の。
カマエル?
なんで振り払わないんだ?
お前そういうの嫌いだろう?
なぁ、どうして…
そうか、僕がその手を振り払ったからか。
苦しい、苦しい。
「ベル?」
カマエルが僕に近づこうとするが女が腕をを掴んでるせいで動けないみたいだ。
カマエルの顔は心配が滲んでるし、女はすごい顔で僕を睨んでる。
その心配はどういう気持ちで僕に向けたものだろうな。その気持ちが今の僕には辛い。
だんだんとひどくなる胸の痛みと全身の熱は僕の意識まで飲み込もうとしてくる。
(なぁ、いま……す…時だ)
「カマエル様?こんなやつ放っておいて早くいきましょう」
やめろ、やめろ、そいつは僕のだ!!
【だったら壊してしまえばいい!】
(今こそ、解放する時だ)
うちなる僕の声と僕の中のナニかの声が重なった。
押さえつけていた全てが身体の内から溢れて熱くて、痛くて、でも気持ちがイイ。
もう我慢しなくていいんだ。
もう我慢しなくて…
「ふふ、手に入らないなら壊してしまえばいいんだよ」
意識はあるのにない。
僕でない僕が喋ってる。
僕はいったい何者なんだろうね
まぁ、どうでもいいけど。
だんだんと落ちゆく意識の中、もう一人の僕に「あとは俺が」と言われ頭を撫でられるような心地がした。
頼もしいな僕。
じゃあ、おやすみ。
起きたら全てが終わってることを願って。
どんな結果になろうとも
僕は知らない。知りたくない。
だから背負わせるみたいでごめん。
「馬鹿だなぁ…。いいんだよ、俺に任せときな。お前はゆっくり寝てろベル。
…なぁ?
そこのクソ天使何してんの?
ねぇ?
俺の可愛い悪魔ちゃんを傷つけてタダで済むと思うなよ。」
身体を預けることに不思議と恐怖はない。
ふわふわとしたこの感じ…すごく昔、幼い頃感じた母の温もりに似てる。
だったら安心だ。
僕の母は強いんだ。
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