上 下
32 / 53
第1章

29.拒絶

しおりを挟む


時が移ろうのも早いもので、
いつのまにか季節はもう春になろうとしていた。

あれだけ、1人の冬に怯えていたのが嘘のように太陽がほんのり顔を出し、外の雪は溶ける兆しを見せ、動植物も春に向けてゆっくりと準備を始めた。


春を告げる、春鳥(ハルチョウ)の鳴き声でもう冬は終わりなのだと知った。春鳥は「ハル、ハル、ハルルル」と言う鳴き声が特徴の魔界特有の鳥で冬の間は姿を消し春になるとどこからともなく現れ鳴く。時期と鳴き声が相まって春鳥と呼ばれている。魔界の動植物の中でも1、2を争う温厚な鳥。名付けたやつのセンスがないことから短絡的な悪魔らしいといえる。


まだ冬の寒さを残した外の空気に身を震わせふと気になったことを聞いてみる。


「お前は魔界の冬は大丈夫だったのか?」
「あぁ、平気だ。俺を誰だと思っている、周囲の温度調節くらい造作もない。」


パチンと指を鳴らし魔法を発動させると換気で窓を開けたことによって冷えた部屋が一瞬で暖かくなった。


指を鳴らした一瞬で魔法を展開し熱すぎず寒くもない絶妙な温度にする。


さすが天界随一の実力者。


僕には真似できない。
魔力はちんちくりん、邪魔法と魔法どちらもへっぽこな僕はいいとこない…。


この並外れた芸当ができるからこそ暖かい場所を好む天使でも魔界の冬を過ごせたのだろう。


少し落ち込んだけど、
カマエルがそこまでして魔界に来てくれたんだと考えると少しくすぐったくなる。


でも、カマエルのキスに翻弄されてるうちに冬が明けたなんてなんとも爛れた生活を送ってしまった…


思い返すとすっごく恥ずかしいので、もう考えないようにする。


ふとあいつの唇を見ると
キスを思い出してしまう。少し冷たい唇が僕の唇に触れてだんだん体温がうつっていく。
僕の唇を割いて口内にやつの舌が入り込み僕の舌を蹂躙していくーーー


わあああ!もう思い出しちゃダメだ!
こいつとこの空間に2人でいるから思い出しちゃうんだ!


気分転換にさあ、外に出るぞ!………と言いたいけれど外はまだ寒いから出歩くのには向かない。これからだんだん陽が出る時間が増え、温度もじわじわと上がり始める。

完全に出歩けるようになるまでまだ1~2週間ほどかかるだろう。

うーん、じゃあとりあえず元凶のこいつにお帰り願おう。

「なぁ、お前帰らないのか?」
「まだ大丈夫だ。」
「いや、ほら、あまり外出しすぎても心配してるんじゃないのか?」
「特に問題はない」
「ええっと、家族とか……恋人とか大丈夫なのかよ」

恋人と言った瞬間、周りの空気の温度が下がった。

まずい、地雷踏んだ。

こいつの纏う雰囲気がいつもより冷たく鋭くて僕は少しずつ後ずさるけどその度やつは一歩づつ距離を詰めてくる。

トンと背中に当たる硬い感触に、
とうとう壁際まで追い詰められて逃げられないことを悟った。

「なぁ、ベル」

「なっ…なんだよ!」

「お前は俺に恋人がいてもいいのか?」

「はぁ?お前みたいな男は常にいるんだろう」

「そんなこと言ったこともないが、お前は俺がどこぞの天使や悪魔と恋人であってもいいのかと俺は聞いてる。」

エメラルドグリーンの瞳に怒りを乗せ僕を見ている。
全てを見透かされてる気分で落ち着かない。


何怒ってるんだ…
わからない。でもカマエルのそばに誰かがいる。天使でも悪魔でも嫌だと思ってしまった僕はいた。でも、僕なんかよりよっぽど似合うんだ。それに僕自身の嫌だと思う気持ちがどこからきてるのかわからない。
そんな不確定で嫌なんてわがまま言えるわけないだろ。


「僕には関係ない」


だからいつも言ってるんだ、もう放って置いてほしい。


「大体なんで僕が気にしないといけないんだ」


わからないは怖い。
1人になるのも怖い。


「初めから、僕はお前に興味はない」


だったら初めから知らないことを知らなければいい。
1人でいることに慣れていればいい。


「もう帰ってくれ」



だから

その唇で、声で、顔で、行動で
もう僕を惑わせないで。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突如現れた氷の騎士に孕ませられました

天災
BL
 突如現れた氷の騎士に……

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

巨根騎士に溺愛されて……

ラフレシア
BL
 巨根騎士に溺愛されて……

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...