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第1章
29.拒絶
しおりを挟む時が移ろうのも早いもので、
いつのまにか季節はもう春になろうとしていた。
あれだけ、1人の冬に怯えていたのが嘘のように太陽がほんのり顔を出し、外の雪は溶ける兆しを見せ、動植物も春に向けてゆっくりと準備を始めた。
春を告げる、春鳥(ハルチョウ)の鳴き声でもう冬は終わりなのだと知った。春鳥は「ハル、ハル、ハルルル」と言う鳴き声が特徴の魔界特有の鳥で冬の間は姿を消し春になるとどこからともなく現れ鳴く。時期と鳴き声が相まって春鳥と呼ばれている。魔界の動植物の中でも1、2を争う温厚な鳥。名付けたやつのセンスがないことから短絡的な悪魔らしいといえる。
まだ冬の寒さを残した外の空気に身を震わせふと気になったことを聞いてみる。
「お前は魔界の冬は大丈夫だったのか?」
「あぁ、平気だ。俺を誰だと思っている、周囲の温度調節くらい造作もない。」
パチンと指を鳴らし魔法を発動させると換気で窓を開けたことによって冷えた部屋が一瞬で暖かくなった。
指を鳴らした一瞬で魔法を展開し熱すぎず寒くもない絶妙な温度にする。
さすが天界随一の実力者。
僕には真似できない。
魔力はちんちくりん、邪魔法と魔法どちらもへっぽこな僕はいいとこない…。
この並外れた芸当ができるからこそ暖かい場所を好む天使でも魔界の冬を過ごせたのだろう。
少し落ち込んだけど、
カマエルがそこまでして魔界に来てくれたんだと考えると少しくすぐったくなる。
でも、カマエルのキスに翻弄されてるうちに冬が明けたなんてなんとも爛れた生活を送ってしまった…
思い返すとすっごく恥ずかしいので、もう考えないようにする。
ふとあいつの唇を見ると
キスを思い出してしまう。少し冷たい唇が僕の唇に触れてだんだん体温がうつっていく。
僕の唇を割いて口内にやつの舌が入り込み僕の舌を蹂躙していくーーー
わあああ!もう思い出しちゃダメだ!
こいつとこの空間に2人でいるから思い出しちゃうんだ!
気分転換にさあ、外に出るぞ!………と言いたいけれど外はまだ寒いから出歩くのには向かない。これからだんだん陽が出る時間が増え、温度もじわじわと上がり始める。
完全に出歩けるようになるまでまだ1~2週間ほどかかるだろう。
うーん、じゃあとりあえず元凶のこいつにお帰り願おう。
「なぁ、お前帰らないのか?」
「まだ大丈夫だ。」
「いや、ほら、あまり外出しすぎても心配してるんじゃないのか?」
「特に問題はない」
「ええっと、家族とか……恋人とか大丈夫なのかよ」
恋人と言った瞬間、周りの空気の温度が下がった。
まずい、地雷踏んだ。
こいつの纏う雰囲気がいつもより冷たく鋭くて僕は少しずつ後ずさるけどその度やつは一歩づつ距離を詰めてくる。
トンと背中に当たる硬い感触に、
とうとう壁際まで追い詰められて逃げられないことを悟った。
「なぁ、ベル」
「なっ…なんだよ!」
「お前は俺に恋人がいてもいいのか?」
「はぁ?お前みたいな男は常にいるんだろう」
「そんなこと言ったこともないが、お前は俺がどこぞの天使や悪魔と恋人であってもいいのかと俺は聞いてる。」
エメラルドグリーンの瞳に怒りを乗せ僕を見ている。
全てを見透かされてる気分で落ち着かない。
何怒ってるんだ…
わからない。でもカマエルのそばに誰かがいる。天使でも悪魔でも嫌だと思ってしまった僕はいた。でも、僕なんかよりよっぽど似合うんだ。それに僕自身の嫌だと思う気持ちがどこからきてるのかわからない。
そんな不確定で嫌なんてわがまま言えるわけないだろ。
「僕には関係ない」
だからいつも言ってるんだ、もう放って置いてほしい。
「大体なんで僕が気にしないといけないんだ」
わからないは怖い。
1人になるのも怖い。
「初めから、僕はお前に興味はない」
だったら初めから知らないことを知らなければいい。
1人でいることに慣れていればいい。
「もう帰ってくれ」
だから
その唇で、声で、顔で、行動で
もう僕を惑わせないで。
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