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第1章

27.縮まるキョリ

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「少しは落ち着いたか」
「ハイ…」
「で、何があった」
「イヤナニモ…」
「何もないわけないだろう」


はい、カマエルのおっしゃる通りです。
でも寂しくて食事が喉を通らず挙句に情緒不安定な上泣いちゃったなんて言えない。カマエル相手ならさらに言えない!
僕が恥ずかしぬ…


でも、僕だって聞きたいことがある!
この部屋の惨状。一体これはなんだろう。


でも聞いたところで話は冒頭に戻ることは間違いないだろうな…
カマエルは絶対逃してくれない。


八方塞がりで涙が出る。トホホ…


正直に言うしかないか
いやいや重い口を開いて言葉を紡ぐ。


「えっと、その…なんていうか………、もうお前が戻ってこないんじゃないかって思ったらさみしくて…こう、胸がギュッてして苦しくなった。食事も作ったけど味気なくてますます喉を通らなくなって……あまり食べられなかったんだ」 

ぽつぽつと白状すると僕ってなんて女々しいやつなんだろうと嫌になる。


「はぁ…あのな、俺は最近お前が前より俺に対して壁がなくなったことすごく嬉しく思ってる。誰も寄せ付けなかった雰囲気が柔らかくなって俺を受け入れてくれるようになった、笑顔を見せてくれるようになった、頼ってくれるようになった。それがものすごく嬉しい。昔は会うたびに何しにきたんだ、用がないなら帰れ、しか言ってくれなかったからな。やっとお前が俺に心を開いてくれたんだ。だから、何か困っていることが有ればなんでも言え。俺がなんとかしてやる。」


カマエルの本音に胸がジーンときてなんとも言えない感情が広がる。前の僕はどんなだったのか今となってはあまり思い出せないけど、1人になりたくない一心で誰も寄せ付けず、頼らなかった気がする。だって初めから誰もいなければ失う辛さなんて感じることはないんだから。だったらはじめから1人だった方が楽だって。



まぁ、そんな僕の努力も虚しくこいつが僕の生活にぐいぐい入り込んでくるから久しくかんじてなかった幸せに心が躍り、失う恐怖に僕は身を竦ませているんだ。


1人になると思うカマエルとの時間は僕が作り出した幻想なんじゃないかって。だってこんな出来損ないの悪魔に、天界でもその名を知らぬものはいない将軍・カマエルが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれてるなんて、誰に話しても信じてくれる者はいないだろう。それにやつは天界でモッテモテのようだしな!

でも、やつの熱量のこもった言葉とまっすぐ僕を見る瞳は嘘をつかないと思ってる。
だから本心なんだろう。


今目の前にいるこいつの存在は本物で、カマエル自身の意思で僕のそばにいてくれるんだ。ってやっと信じられた気がする。



「………お前はどんな僕でもそばにいてくれるのか?」

「当たり前だな。どんな姿になっても、何をしてもお前はお前だ。
………俺のそばにはお前だけだ」



間髪入れず答えが帰ってきたことに少し嬉しくなった。
最後の言葉は胸がほわってなってくすぐったくなった。


一つ大きな心配が消えたことでもっと心に余裕が生まれた。
さっきまでぐるぐるしてたけどわかる。
この部屋の惨状は俺が原因だって。

何したかまではわからないけど、たぶん…


最近の感情の高ぶりがトリガーとなって生まれる熱。これがもしかしたら外に影響をもたらしはじめたのかもしれない。

そうなってくるとまずい…


僕が僕でいられる時間は思ったより短いのではないだろうか。

幸せな気持ちから一転、未来への想像は決して明るいものではなく容赦なく僕を暗闇へとたたき落とす。


「僕は、僕でいられるのだろうか……」

「ベル、安心しろどんなことがあっても俺が道標になってやる。だから……」

チュッ

「俺の熱を忘れるな」


ポロリと
つい弱気になってこぼれた言葉を一蹴することなくカマエルはちゃんと向き合ってくれた。


キスつきだけど!
いや、なんでキスするんだー!


なんか最近スキンシップが増えた。
あれか!キスは挨拶のひとつみたいな!
それともお触り禁止令が解除されたからか?


これは考えてもよくわからない。


でも嬉しいなんだか距離がもっと近くなった気がする。



ふふッ


不思議と笑いが溢れていた。






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