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第1章
26.小さな幸せ
しおりを挟むとろとろと意識は浮上しかけると僕の背中を優しく撫でる手に気がついた。
背中を撫でる誰かの手の温もりが、リズムが酷く心地よく、ずっとこのままでいいなぁなんて…
あれ?
僕の背中を撫でるこの手は誰の?
まだ寝ていたいと言わんばかりに動かない身体を強引に起こすと僕はカマエルの膝の上に頭を乗せて寝ていたみたいだ。いわゆる膝枕というものだろう…。
心地よく感じていたものがカマエルだったことに驚き、いい年した男が膝枕なんて…羞恥心でやつの顔が見られない。
「落ち着いたか」
「えっと…、その…」
カマエルの問いを皮切りにじわじわと思い起こされる昨日の記憶。寂しいと泣き喚きやつに多大なる迷惑を…。穴があったら入りたい。
俯いて顔を上げられずにいると、僕の髪を優しく人撫でして少し待ってろと言ってカマエルは席を外した。
ポツンとひとり部屋に残されて怖いという感情が湧き上がってくるけど、部屋を出ればカマエルがいる。今はひとりじゃないって思うと少しだけ冷静になれた。
そこで僕は前からこんなに感情的だったかなと疑問に思う。
もっとわかりづらい方であったと記憶している。まぁ、覚えている分だけだけど。
最近感情のコントロールが効かなくなってる気がする。感情が昂るとそれに酷く身体の奥が熱を持ちどんどんとそれは大きくなって最後に僕の全てを飲み込まれる感覚が増えてきた。
昨日だって、身体の中で濁流のように暴れる感情を沈めたのはカマエルの存在だった。
僕1人だったら、感情の濁流に飲み込まれ、もみくちゃにされて流されてしまっていたかもしれない。
流されてしまうとどうなるのか僕自身もわからない。ただ良くないってことを直感で感じるくらいだ。
多分僕が僕でいられなくなるのかもしれないな…
僕が僕でいられなくなったら、カマエルの側には僕じゃない誰かがいて、僕の側には誰もいないのだろう。
それはやだ。
少し想像して恐ろしくなった。
またひとりになんて戻りたくない、いや戻れない。誰かがいてくれる楽しさ嬉しさいろんなことを僕は知ってしまった。
だからこそ大事にしようとも思う。
そう思いはじめたのは最近だけど。
欲しい欲しいと熱望して手に入らないものはたくさんある。
だから経緯がなんであれ手に入ったものは大事にしないと魔王の雷が落ちそうだ。
カマエルが戻って来た時には大分落ち着いていて、周りを見る余裕も出てきた。
部屋はぐちゃぐちゃにものが散乱していて僕が綺麗然と保っていた部屋は見る影もない。
どうしてこうなった?
僕が寝てる間に何があったんだろう…カマエルが僕の部屋を荒らすとも思えない。あいつはそんなやつじゃない。これでも付き合いだけは長いんだそれくらい分かる。
だからこそ心当たりがない。
これは誰が?ではなく何があった?って考える方が自然だと思う。
またも意識が思考に持っていかれた僕の頬をぶにーッとつまんで現実に引き戻してくる。
僕の頬で遊ぶカマエルに意識を戻すと、傍には鍋が置かれていてそこから空腹を刺激するいい匂いがしている。やっと気付いたかという顔をしているカマエルがお粥だと説明してくれる。
部屋を離れたのはお粥を作りに行ってくれていたみたいだ。
またこうやってやつは僕を甘やかす。
なんでお粥?って思ったら、
なんでも寝ている間に僕の身体に大きな負荷がかかっていたらしく負担の少ないお粥を食べろとのこと。
寝ていただけなのに変な話だと思ったが、お粥のいい匂いに思考は塗りつぶされた僕はお腹いっぱいになるまでお粥を頬張った。
カマエルのご飯はとてもおいしかった。
ひとりで食べた味のしなかった食事とは大違いでその原因もわかってる。
ご飯を食べる時ひとりじゃない。
カマエルが一緒にいてくれる。
それだけでご飯をおいしいと感じられた。
こんな小さなことがとても幸せなことだと僕は身に染みてわかった。
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