27 / 53
第1章
24.ひとり分とふたり分の違い
しおりを挟むカマエルが家に来なくなって早数日。
すでに僕はあいつがいないことを実感していた。
朝起きるととても静かで誰もいない。
本来なら僕は1人なはずだけど、毎日僕が起きるより先にあいつはこの家に来ていたから起きると必ずあいつがいたんだ。今思えば不法侵入なんだけど、もう慣れちゃってたんだな。
僕が起きるより早く来て、僕が寝た後で帰っていく。あいつはいつ寝ていたんだろうか?
そんなことを考えながら
だらだらと着替えて寝室を出る。早く着替えろだの、こっちの服の方がいいだの、色々とやつと一悶着ないのがとてもいい。
ここから動きたくないと言う身体を叱咤して寝室を出る。
部屋を出た途端に空腹を刺激する匂いはしない。
毎日あいつが僕が起きる前にご飯を作ってくれていたからな。それにとてもおいしかった。
何も乗っていないテーブルを撫で、ここに朝ごはんが2人分あった時を思い出す。向かい合って同じものを食べてたわいもない会話をしてってご飯は楽しかった。
今は自分で作っても1人分。僕以外に食べる人はいないから。
パンを焼いて、その上にバターをたっぷりつける。
パンの焼けるいい匂いとバターの香りが部屋いっぱいに充満して食欲をさそる。食べてみると、あれ?と食べる手が止まる。どうしても2人で食べた時ほどの美味しいと思う気持ちがわかない。
味は悪くないけど1人で食べるご飯はどこか物寂しかった。
朝ごはんをさっと食べてしまうと、洗濯をする。数日貯めているとはいえ、洗い物を見てこんなに少なかったっけと思う。
いつもより少なかったので早く洗い終えるとカゴに入れて外に干しにいく。
よいしょとカゴを持ち上げる。水を吸った洗い物は重く、よろけてしまうことが多かったのに今日はひょいと持ち上げられたので少し拍子抜けする。
2人分の洗濯物が重くてこけそうになった時、後ろからさっとカゴを取られ、倒れていく身体は後ろにいたカマエルの片腕で抱きとめられそれ以上倒れることはなかった。
「ぷっ、どんくさいな…」
「なんだと!ムキ~~!!」
後ろから聞こえるバカにしたセリフによく噛みついてた。でも意識は別のところにあって、抱き止められたやつの腕が思ったよりがっちりしててドキドキしてしまった。
何をしてもどこにいても、2人でいた時間のことを少しのきっかけで思い出す。
好き勝手するあいつに
怒ったり、笑ったり、ドキドキしたり、呆れたり…
思えば僕はあいつの前でいろんな感情を見せていたんだな。
前はそんなことなかったのに。
2人に慣れてしまうと1人は落ち着かない。
シンとした部屋で行き場を探してウロウロした結果ベットの上に身体を落ち着けた。
なんだよ、全然大丈夫じゃない。
無理矢理やってきて、強引に僕の生活に入り込んでおいて突然いなくなるなんて勝手だ。
あいつがここに来なければこんな気持ちにならなかったのに。
「早く帰ってこいよ、バカエル…」
ベットに沈んだ身体を抱きしめながらそっと呟やかれたベルの本音は誰にも聞かれることなく彼の眠りと共に空気に溶けた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる