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第1章

24.ひとり分とふたり分の違い

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カマエルが家に来なくなって早数日。



すでに僕はあいつがいないことを実感していた。


朝起きるととても静かで誰もいない。
本来なら僕は1人なはずだけど、毎日僕が起きるより先にあいつはこの家に来ていたから起きると必ずあいつがいたんだ。今思えば不法侵入なんだけど、もう慣れちゃってたんだな。

僕が起きるより早く来て、僕が寝た後で帰っていく。あいつはいつ寝ていたんだろうか?


そんなことを考えながら
だらだらと着替えて寝室を出る。早く着替えろだの、こっちの服の方がいいだの、色々とやつと一悶着ないのがとてもいい。


ここから動きたくないと言う身体を叱咤して寝室を出る。


部屋を出た途端に空腹を刺激する匂いはしない。
毎日あいつが僕が起きる前にご飯を作ってくれていたからな。それにとてもおいしかった。


何も乗っていないテーブルを撫で、ここに朝ごはんが2人分あった時を思い出す。向かい合って同じものを食べてたわいもない会話をしてってご飯は楽しかった。


今は自分で作っても1人分。僕以外に食べる人はいないから。


パンを焼いて、その上にバターをたっぷりつける。


パンの焼けるいい匂いとバターの香りが部屋いっぱいに充満して食欲をさそる。食べてみると、あれ?と食べる手が止まる。どうしても2人で食べた時ほどの美味しいと思う気持ちがわかない。


味は悪くないけど1人で食べるご飯はどこか物寂しかった。


朝ごはんをさっと食べてしまうと、洗濯をする。数日貯めているとはいえ、洗い物を見てこんなに少なかったっけと思う。

いつもより少なかったので早く洗い終えるとカゴに入れて外に干しにいく。
よいしょとカゴを持ち上げる。水を吸った洗い物は重く、よろけてしまうことが多かったのに今日はひょいと持ち上げられたので少し拍子抜けする。

2人分の洗濯物が重くてこけそうになった時、後ろからさっとカゴを取られ、倒れていく身体は後ろにいたカマエルの片腕で抱きとめられそれ以上倒れることはなかった。


「ぷっ、どんくさいな…」
「なんだと!ムキ~~!!」


後ろから聞こえるバカにしたセリフによく噛みついてた。でも意識は別のところにあって、抱き止められたやつの腕が思ったよりがっちりしててドキドキしてしまった。




何をしてもどこにいても、2人でいた時間のことを少しのきっかけで思い出す。


好き勝手するあいつに
怒ったり、笑ったり、ドキドキしたり、呆れたり…


思えば僕はあいつの前でいろんな感情を見せていたんだな。
前はそんなことなかったのに。


2人に慣れてしまうと1人は落ち着かない。
シンとした部屋で行き場を探してウロウロした結果ベットの上に身体を落ち着けた。


なんだよ、全然大丈夫じゃない。
無理矢理やってきて、強引に僕の生活に入り込んでおいて突然いなくなるなんて勝手だ。
あいつがここに来なければこんな気持ちにならなかったのに。



「早く帰ってこいよ、バカエル…」


ベットに沈んだ身体を抱きしめながらそっと呟やかれたベルの本音は誰にも聞かれることなく彼の眠りと共に空気に溶けた。
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