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第1章
9.静かな怒り
しおりを挟む俺はカマエル。
種族は天使だ。
生まれた時から類稀なる輝きと神力を持っていた俺は今や天界の将軍の地位にたどり着いた。
物心ついた時から冷めていたことは覚えている。
何をしても何があっても俺の心は動くことはなく常に凪いでいた。
ただ一つを除いては。
ベルゼビュート。
戦闘が嫌いな、悪魔の中では最弱な悪魔。
花が好きな、悪魔らしくない悪魔。
彼はそんな俺が唯一心動かされるもの
俺を唯一翻弄するもの…
***
『おい』
自分でもびっくりするぐらいドス黒い声が出た。
ベルに会おうと思い今日もふらっとやってきた。
家にはいないみたいだったから花畑だろうとあたりをつけてきてみたら、
全身ズタボロになったベルが倒れていた。
何が起きたのか
周りにはトマトや花がぐちゃぐちゃに踏み荒らされた状態で散らばっていた。
これはベルの庭で採れたトマトではないだろうか…
ベルが大切に心を込めて育てたものを踏み荒らした輩がいるみたいだな。
大方、ベルのことだから花たちとおしゃべりに来ていたのだろう。
俺がいない間に何があったのか…
わからないならわかるやつに聞けばいい。
『聖魔法・万物よ思い出せ』
(効果:対象が持つ記憶を呼び起こす)
俺はベルと1番一緒にいただろうトマトに記憶を呼び起こす魔法をかけた。
トマトが見たものがそのまま俺の頭の中に映像として流れ込んでくる。
やはり、トマトは全てを知っていた。
あれは…
「あの時のあいつか…」
「やっぱりあの時息の根を止めておくんだった…虫けらどもが」
見終わる頃には俺の怒りは頂点に達していた。
倒れているベルの首の後ろと足の裏に腕を通して傷に触らないよう大切に抱き上げると『固有スキル・転移』を使って家まで届けた。
怪我が特にひどい場所を聖魔法を使って丁寧に手当するといくらか表情は穏やかになったのを見て俺は少し安堵した。
だが、俺の怒りは冷めない。
ベルに手を出したやつはどこまででも追いかけてズタズタに切り裂き、地獄の底に叩きつけてやる。
楽に死ねると思うなよ。
こういう時自分が天使ってことを忘れる。
俺の方が悪魔なんじゃないだろうかとも思う。
でも、
ベルを傷つけるものを俺は許さない。
ベルもトマトも俺が仇を取ってやろう。
今の俺の顔は絶対にベルには見せられないだろうなぁ…
天使にあるまじき凶悪な顔をしているに違いない。
「ベル…」
なんといっていいかわからないけど、
溢れる愛おしいという気持ち。
いつからだったか覚えてないが…
穏やかに眠るベルの頬をひと撫でして、俺はそっと家から出た。
さぁ、待っていろゴミどもが!
『固有スキル・転移』
怒り浸透のカマエルは一瞬にしてベルゼビュートの家の前から姿を消した。
残されたベルはこの後何が起ころうとも知ることはないだろう。
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