コンビニはしご

メランコリーおばけ

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「お母さん…どうして……?」
私は言葉を発するのに必死だった。
どうして仕事一筋の母が隣の県まできているのか。
どうしていつも娘に興味を示さない母が私をみてこんなにも取り乱しているのか。
不思議でならなかった。
母は、我にかえったように早足で私の目の前まで来て
バチンッッ!!
思いっきり平手打ちされた。
「いったぁ…お母さん!?いきなり何す」 
「馬鹿椿!!!!どんだけ心配したと思ってんの!!」
……え?
びっくりして母の方を見ると、母は泣いていた。
私は母の涙をこれまで一度も見たことがなかった。
「お昼休憩の時間に、午後の仕事で必要な書類を忘れたのに気付いて家に取りに行ったら 、冷蔵庫にたった一言『さようなら』って置手紙だけ残して心臓止まるかと思ったわよ!大急ぎであんたの部屋行ったら本当に居なくなってるし。挙げ句の果てに二百万取られてるし!?」
泣きじゃくりながら母はまくし立てる。
「あんたは、高校に入るまでそこそこの努力で生きてくることができていた。要領が元々良い子だったからね。だけど高校に入ってあんた以上に要領がいい人、才能がある人がたくさんいて、初めて挫折を味わった。そして苦しくなって逃げた。」
図星だ。何も言い返せない。
「貴方は、もう自分でいろいろ考えられる年だと思って何も言わずにいた。そしたら気がつけば半年以上たってるし、そろそろよくないなとは思ってた。だけど私も話すタイミングがなかなか見つけられなくて…。でも、だからってどっか行っちゃわないでよ!たった一人の娘なんだから……。」
母は人目を気にせずわんわん泣いた。
私も気がつけば涙が止まらなくなっていた。
「お母さ…ん…。ごめ…なさ…い。」
母は私をギュッと強く抱きしめていった。
「無事で良かった……!」
あぁ、私は愛されていたんだ。
母は、全然無関心なんかじゃなかった。
私のことを、第一に考えてくれていたんだ。
よく見ると、母の髪はボサボサでスーツもヨレヨレ。
メイクも崩れていた。
いつもの母ならこんな姿あり得ない。
それほど必死になって私を探してくれていたんだと思うと、嬉しくて、また別の涙が溢れた。
二人は強く抱きしめ合い、長い間、離そうとしなかった。
通りすがる人は、どうしたどうしたと私達を気にしていたけれど、そんなこと気にならないくらい、私の心は満たされていた。

「そういえば、どうして私がこの付近にいるって分かったの?」
疑問に思っていたことを聞いた。
母に買ってもらった肉まんとあんまんをハフハフさせながらかぶりつく。
うん、うまい。
「あんたの自転車がないのに気がついたのよ。ほら、家の前って一本道でしょう?そして坂道。面倒臭がりやなあんたなら絶対に下り坂を選ぶと思ってね、こっち方面だって。」
さすがお母様、わかってらっしゃる。
「でも、それなら余計隣県まで来るとは思わないじゃない。」
「私もそう思ったわよ。だけどね、車を走らせてる途中でなんだか不思議な女の警察官に会ってね、今日突然消えた不登校の女の子に心当たりある人いませんかーって、ずっと叫んでたのよ。」
ああ、あの人ならやりかねない。
そういえば私がK県住みだってこと教えたもんな。
わざわざ足を運んでくれたのか。
「それで話してみたらあんたのことっぽくて隣県まできたってわけ。そしたらここのコンビニが妙に目についてね。コーヒーでも買って少し休んでから椿探すの再開しようと思ったのよ。そしたらこんなところで会えるとはね。本当にびっくりしたわよー。」
母はいつになくニコニコしている。
いや、本当になんで会えたんだろ。
〝それが運命、 だわ。〟
どこからともなく声がした。
〝巡り合わせは大事にしないどだぞ?おめえさんよ。〟
今度は違う人の声。
「うん、ありがとう二人とも。」
母は不思議そうな顔で私をみた。
「どうしたの?誰と話しているの?」
私はとびきりの笑顔で答える。
「なんでもないっ!!」
母はまだ少し納得がいかないようだったけれど、諦めたのか私に負けないくらいの笑顔を見せて叫んだ。
「さぁ、我が家へ帰りましょう!!」
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