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3店目

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平地を漕ぎ続けた。
時刻は三時になろうとしている。
休憩のためやっぱりコンビニにチャリを駐める。
今週の新作だというホットタピオカミルクティ(正しくはホットタピオカミルクティもどきだが)を買って店から出た。
寒いから中にイートインスペースがあれば良かったけど、なさそうなので仕方なくコンビニの外にあったベンチに座って飲む。
ちゅー。
えっ、美味い。
予想外の美味しさに顔をほころばせていると、警察官制服にジャケットを羽織った若い女の人が気難しそうな顔をしてこちらに歩いてきた。
……これはなんか言われるぞ。
「ちょっと貴方。」
ほらねやっぱり。
「学生よね。学校は?」
ありきたりすぎた。
隠す必要もないので正直に答える。
「不登校なのでありません。」
「どこの学校? 今からでも行くわよ。」
本気で言ってるのかこの人。
「今から行ったら放課後です。」
気難しそうな女の人は今気づいたような顔をした。
意外と抜けているところもあるみたい。
「そ、そうね。じゃあ学校には行かなくていいわ。家に帰りましょう。どこに住んでるの?」
K県だと答えると抜けている女の人は三秒ほどフリーズした。
「貴方、もしかして家出してるの?」
「家出というか、もうあの家には帰りません。」
「どうして? あまり仲が良くないの?」
「そういう訳では無いんですけど……。」
どう説明したらいいんだろう。
正直、自分もよくわかっていないのだ。
なんのために学校に行かなくなったのかも、なんのために通帳を盗って家から出てきたのかも。
黙っていると、抜けている女の人は話し始めた。
「私ね、ちょうど貴方と同じくらいの歳の時に、家を出たの。」
びっくりした。
とてもそんな風には見えなかった。
「あ、今そんな風には見えないって顔をしたわね。まぁそうよね。私もまさか家を出るなんて思っていなかったわ。どうして家を出たのか知りたい?」 
はい、と答えていないのに、話し始めた。
「私の父はアル中でね、小さい時から母も私も暴力ふるわれてばっかりだったのよ。離婚すればいいのに、母は父を愛していたからできなかった。そして心を病んでしまったわ。母は私が中学生の時に自殺してしまったの。父はそれで懲りたのか、一旦はお酒を辞めたのよ。家にあったお酒も全部捨てて。でもね、」
抜けている女の人は続ける。
「私が高校に入学したあたりから、また飲み始めてしまったの。そこからは地獄だった。昔から友達が少なかった私は誰にも相談することが出来なかったの。何回も死のうとした。でも失敗しちゃうのよね。だから思ったの。死ねないなら逃げればいいじゃないって。」
女の人は、少しだけ笑った気がした。
「家から出ることは出来たけれど一人で生きていくには辛過ぎる世界だった。バイト代だけで学校の費用、家賃、生活費を賄うのは無理があってね、学校は辞めるしかなかったの。それで何とか高卒認定試験に受かってこの仕事してるのよ。」
寒いし、中入らない? と誘われたので、お言葉に甘えてパトカーの中に入れてもらった。
「家族のカタチってなんなんでしょうね。」
抜けている女の人は悲しそうな顔をした。
「お父さんもいてお母さんもいて、毎日いっしょにご飯が食べれて笑いあって。そんな当たり前だと思われていることが当たり前にできていた子がたくさんいた学校は、居心地悪くて仕方なかったわ。」
でも、と続ける。
「私は逃げれたし、仕事も出来てる。けれどそうできてない子が心配なのよ。だから貴方がもしそういう状況にあっているとしたら、私は救う義務がある。」
抜けている女の人は優しい人だった。
「大丈夫です。私は貴方みたいに虐待されているとかそういうことでは無いんです。ただ、なんていうか……。」
「あら! そうだったの?」
抜けている女の人は話を遮って言った。
「なんだ、そうなのね。ごめんなさい勘違いしてたわ。自分の身の上話までしちゃって恥ずかしいわ。あら! もうこんな時間じゃない! 署に戻らないといけないわ。貴方も風邪ひかないようにね!」
あ、車から降りてね、と言われ降りたらすぐに行ってしまった。
嵐のような人だ。
本来なら家に連れて帰るのが警察の仕事だと思うんだけど……。
マニュアル通りにできるほど器用な人ではなかったんだろうな。
ちゃんと家に帰るんだよ、じゃなくて、風邪ひかないようにねと言った抜けている女の人のくれた言葉はなんだかポカポカしていた。
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