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再び、地獄
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ひどい、ひどい、ひどい――ひどい、裏切りだ。
火の落ちた薄暗い洞穴の中、頽れる。
「あんなの、知らない…」
あんな彼は、彼じゃない。
怒っていた、ものすごく。
あの生意気な子供に、危害を加えることに対して。
「…あのメイドを殺した時でさえ、あんな顔はしなかった…」
あの娘。いかにも、田舎から口減らしに奉公に上がってきたような、ソバカスだらけの地味な女。真夜中、庭に降りるよう暗示をかけて、殺した女。
でもそれも、どうだっていい。あんな娘に、価値などない。
「あんな…」
あんな子供にだって、価値はない。
大切なのは、そう…。
「わたしと、彼が、結ばれること…」
――それだけなんだから…。
暗闇に、瞳を光らせる。騒がしかった眷属たちが、大人しくなる。
目の前に、突如として、黒煙の渦が巻き起こる。
「苦戦しているようだな…」
黒々とした巨大な影が自分を見下ろす。
目鼻は分からずとも、その無機質な声と超越した力から、誰であるか分かる。
「お珍しい……何故、お見えに?」
黒い影は無表情に、
「姉の方の決着がついたのでな。貴様の方の様子を見に来た」
「…っ。姉さんは?」
ここだ、というように、影が、己の胴をさする。
「…ああ」
床を這って近づく。
「かわいそうな姉さん。可哀想な…私の姉さん。愛しい人に、名を呼んでもらえなかったのね…。——王は、最後になんと?」
「前妃の名を口にした」
「…あぁ………ふふっ…、…あはは…っ…かわいそう。本当に…哀れな女」
ロゼーは、影の人間でいう腹のあたりにすり寄り、そこを撫でさする。
影は大人しく、自分の配下である女の好きにさせていた。
「…見ていて。私は、違う。姉さんとは、違う。絶対に、間違ったりしない…。間違わず、愛しい男を、必ず手に入れる――」
火の落ちた薄暗い洞穴の中、頽れる。
「あんなの、知らない…」
あんな彼は、彼じゃない。
怒っていた、ものすごく。
あの生意気な子供に、危害を加えることに対して。
「…あのメイドを殺した時でさえ、あんな顔はしなかった…」
あの娘。いかにも、田舎から口減らしに奉公に上がってきたような、ソバカスだらけの地味な女。真夜中、庭に降りるよう暗示をかけて、殺した女。
でもそれも、どうだっていい。あんな娘に、価値などない。
「あんな…」
あんな子供にだって、価値はない。
大切なのは、そう…。
「わたしと、彼が、結ばれること…」
――それだけなんだから…。
暗闇に、瞳を光らせる。騒がしかった眷属たちが、大人しくなる。
目の前に、突如として、黒煙の渦が巻き起こる。
「苦戦しているようだな…」
黒々とした巨大な影が自分を見下ろす。
目鼻は分からずとも、その無機質な声と超越した力から、誰であるか分かる。
「お珍しい……何故、お見えに?」
黒い影は無表情に、
「姉の方の決着がついたのでな。貴様の方の様子を見に来た」
「…っ。姉さんは?」
ここだ、というように、影が、己の胴をさする。
「…ああ」
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「前妃の名を口にした」
「…あぁ………ふふっ…、…あはは…っ…かわいそう。本当に…哀れな女」
ロゼーは、影の人間でいう腹のあたりにすり寄り、そこを撫でさする。
影は大人しく、自分の配下である女の好きにさせていた。
「…見ていて。私は、違う。姉さんとは、違う。絶対に、間違ったりしない…。間違わず、愛しい男を、必ず手に入れる――」
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