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闇からの訪問者①
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夜が来る。
あの女が来る。
どれほど固く扉を閉ざそうと、茨を介し、現れる。
揺れる炎の明かりを背に、ホール中央から玄関扉を見据える。
数歩後ろに控えた執事が、しっかりとした手で銀の燭台を掲げる。
暗闇が、あちこちの隅に蔓延る。
そこに、細く壁を伝う、トゲのある蔓が加わる。
(…来たか)
グッと腹に力を入れる。
油断をすれば、持って行かれる。
魂ごと。
閂を通したはずの大戸が、茨の侵入を許す。
閉じた戸の中央から両端を目指し、まるで両手でこじ開けようとするかのように勢いを増す。
やがて、耐えかねた大戸が開く。
凍てつく外気が、瞬く間にホールの床を撫でつくす。
月明かりなく立つ女。
「——ああ、嬉しい。わたしを待つあなた」
ロゼーは、胸の前で両手を組み、小首をかしげる。
「今日は、素敵な夜になる。そんな気がするの。あなたもそうでしょう?」
ルシウス…、とゆっくりと唇を動かす。
ルシウスは、何も言わない。
蝋燭の炎が、不安げに揺れる。
やがて、彼女が従えた影の内から、黒い煙のような微細な粒子が立ちのぼり、瞬く間にルシウスの周りを取り巻く。
執事が、一歩前に出ようとするが、ルシウスが、それを目で制す。
獲物を無事、手の中に収め嫣然とする彼女が笑えば、闇もまた笑うように身を躍らせる。
吐息が聞こえそうなほど近く。ルシウスの胸元に手を伸ばし、首、頬と輪郭を遡る。
スベらかな頬を両手で包み込むと、悦びに目元を緩ませた。
あの女が来る。
どれほど固く扉を閉ざそうと、茨を介し、現れる。
揺れる炎の明かりを背に、ホール中央から玄関扉を見据える。
数歩後ろに控えた執事が、しっかりとした手で銀の燭台を掲げる。
暗闇が、あちこちの隅に蔓延る。
そこに、細く壁を伝う、トゲのある蔓が加わる。
(…来たか)
グッと腹に力を入れる。
油断をすれば、持って行かれる。
魂ごと。
閂を通したはずの大戸が、茨の侵入を許す。
閉じた戸の中央から両端を目指し、まるで両手でこじ開けようとするかのように勢いを増す。
やがて、耐えかねた大戸が開く。
凍てつく外気が、瞬く間にホールの床を撫でつくす。
月明かりなく立つ女。
「——ああ、嬉しい。わたしを待つあなた」
ロゼーは、胸の前で両手を組み、小首をかしげる。
「今日は、素敵な夜になる。そんな気がするの。あなたもそうでしょう?」
ルシウス…、とゆっくりと唇を動かす。
ルシウスは、何も言わない。
蝋燭の炎が、不安げに揺れる。
やがて、彼女が従えた影の内から、黒い煙のような微細な粒子が立ちのぼり、瞬く間にルシウスの周りを取り巻く。
執事が、一歩前に出ようとするが、ルシウスが、それを目で制す。
獲物を無事、手の中に収め嫣然とする彼女が笑えば、闇もまた笑うように身を躍らせる。
吐息が聞こえそうなほど近く。ルシウスの胸元に手を伸ばし、首、頬と輪郭を遡る。
スベらかな頬を両手で包み込むと、悦びに目元を緩ませた。
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