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見えない姿①

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――五日後。
本格化した雪化粧に、おれは雪かきに駆り出された。
掻いたはしから、新しい雪が後から後から、上乗せしていく。
切りがない。
終わるころには、全身がびしょ濡れで、濡れねずみもいいとこ。
「ベル。ご苦労様でした。湯を張ってあります。上がってよろしいですよ」
バスタブに身体を沈める。
かじかんだ手足の指が熱い湯にほぐされていく。
大ぶりの猫足のバスタブに、だいぶ幅を余らせながら浸かっていると、執事が盆に金縁グラスを乗せて、浴室に入ってきた。
「旦那様からです」
差し出されたグラスを受け取る。
鼻に抜ける、かすかな林檎りんごの香り。
果実酒リキュールですが…、飲んだことは?」
「村にいたころに…」
酒場で飲んだことはあるにはあるが、あれはもっと水っぽい味がした。
「今日の仕事は、ここまでに致しましょう。それから―」
ギクリとする。
「本日は、算数から始めましょうか」
執事がニコリとする。
この笑顔がくせ者だった。
午後の居間で、執事が教鞭きょうべんふるう。
忘れもしない。
おれがろくな教育を受けていないと知った執事は、次の日には。
わたくしの一存ではありますが、あるじよりあなたの教育は任された身。――お覚悟を」
と、固くしなやかな教鞭きょうべんを手に、にこりと微笑んだ。
それから、あれよあれよという間に、おれに読み書き、計算を教え込んでいったー。
「――良くできていますよ」
採点を終えて、執事が顔を和らげる。
ほぅ…と、知らずため息をついた。
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