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大学時代から借りているアパートに引きこもって、三日。
突然の休暇願に、部長は困惑。
電話越しに平謝りに謝った。
杉田からは、仕事の指示を仰ぐラインがたまに入る。
誰とも会いたくない。
それに、時折、身体が思い出したように熱を持つ。
安定しないヒート状態に、なんとか正気を保つ。
人生初の発情期に、年甲斐もなく翻弄されていた…。
********
紺さんと連絡が取れなくなって三日。
何度もアパートに寄ろうと思っては、足が迷う。
会いたい気持ちは抑えきれないほどあるのに、頭がブレーキをかける。
本当は欲求不満も相まって、イライラが顔に出る。
もっと…、今も引っ付いていたい。
身体を触って、舐めて、自分のモノだという証をつけたい…。父さんじゃなくて。
スマフォが鳴る。
バッと掴んで画面を確かめた。
なんだ、マネージャーの田崎さんか。
「…はい?」
「お早うございます、雨笠君。体調の方はどうです?」
「だいぶ落ち着きました」
嘘だ。心も身体も飢えている。
「明日、もう一度検査に行ってきます。僕みたいなケース稀だって、最初は驚かれてましたけど…」
「…そう、ですね。私もこの業界で二十年働いていますが…」
見たことも聞いたこともない。
濁した言葉の先が、容易に想像つく。
でもこれは、本当に起こったこと…。
アルファを演じたオメガ性の俳優が、役に引きずられるようにバース変化を起こした。その事実。
そう。これは事実—だった。
********
スマフォのアラームで起こされる。
時計は、夕方の四時。
随分、寝たな…。
休みの日だって、ここまで寝ない。
体調は…。
だいぶ、楽になっていた。熱っぽさが抜け、頭もすっきりしている。
ロックを解除して、なるべく見ないようにしていたラインを開く。
…青磁からだ。
日を置かずに、こまめにメッセージが入っている。
——会いたい。
その一文で、指が止まる。
暗い部屋の中、液晶画面の明かりだけを頼りに、唇を引き結ぶ。
会いたい。会いたくない。
触れたい。触れられたくない。
この三日、頭を占めていたのは、そんなことばかりだ。
間を置きたくて、会社からのメールをチェックする。
心はあやふやなまま…。
吐き出せない、重く凝ったモノが、いつも胸の底を埋め尽くしている。
今も…。
突然の休暇願に、部長は困惑。
電話越しに平謝りに謝った。
杉田からは、仕事の指示を仰ぐラインがたまに入る。
誰とも会いたくない。
それに、時折、身体が思い出したように熱を持つ。
安定しないヒート状態に、なんとか正気を保つ。
人生初の発情期に、年甲斐もなく翻弄されていた…。
********
紺さんと連絡が取れなくなって三日。
何度もアパートに寄ろうと思っては、足が迷う。
会いたい気持ちは抑えきれないほどあるのに、頭がブレーキをかける。
本当は欲求不満も相まって、イライラが顔に出る。
もっと…、今も引っ付いていたい。
身体を触って、舐めて、自分のモノだという証をつけたい…。父さんじゃなくて。
スマフォが鳴る。
バッと掴んで画面を確かめた。
なんだ、マネージャーの田崎さんか。
「…はい?」
「お早うございます、雨笠君。体調の方はどうです?」
「だいぶ落ち着きました」
嘘だ。心も身体も飢えている。
「明日、もう一度検査に行ってきます。僕みたいなケース稀だって、最初は驚かれてましたけど…」
「…そう、ですね。私もこの業界で二十年働いていますが…」
見たことも聞いたこともない。
濁した言葉の先が、容易に想像つく。
でもこれは、本当に起こったこと…。
アルファを演じたオメガ性の俳優が、役に引きずられるようにバース変化を起こした。その事実。
そう。これは事実—だった。
********
スマフォのアラームで起こされる。
時計は、夕方の四時。
随分、寝たな…。
休みの日だって、ここまで寝ない。
体調は…。
だいぶ、楽になっていた。熱っぽさが抜け、頭もすっきりしている。
ロックを解除して、なるべく見ないようにしていたラインを開く。
…青磁からだ。
日を置かずに、こまめにメッセージが入っている。
——会いたい。
その一文で、指が止まる。
暗い部屋の中、液晶画面の明かりだけを頼りに、唇を引き結ぶ。
会いたい。会いたくない。
触れたい。触れられたくない。
この三日、頭を占めていたのは、そんなことばかりだ。
間を置きたくて、会社からのメールをチェックする。
心はあやふやなまま…。
吐き出せない、重く凝ったモノが、いつも胸の底を埋め尽くしている。
今も…。
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