上 下
5 / 7

第5話 『押し倒されてきゅんきゅんしちゃった♡』

しおりを挟む
 

 こんこん、と愛姫が春奈の部屋のドアを軽い音でノックする。部屋の中からの返事はない。


「春奈、入るわよ」


 愛姫がそう宣言するも、相変わらず返事は返ってこない。
 がちゃり、と音を立ててドアを開け、部屋の電気をつける。


 綺麗に整理整頓された部屋。
 本棚には沢山の本が並んでいる。
 白を基調とした家具で統一されており、観葉植物もちらほらと見受けられる。
 相変わらず女子の部屋みたいね、と愛姫は部屋を見てそう呟いた。


「何してんのよ」

「……」


 そんな部屋の中、ベッドの上でうつ伏せに寝ている春奈に声をかけるが、反応はない。
 愛姫は部屋の中へと進み、ベッドに腰掛ける。


「……」
「……」

 お互いに黙り込み、少しの時間、静寂が二人の間に流れる。


「……」

「……なんだよ」

 春奈がうつ伏せのまま口を開く。

「そっちこそなにしてんのよ」

「…………バカみたいだろ、俺」

「……」

「てめぇの勘違いで勝手に張り切って、てめぇの身勝手な理屈で愛姫を困らせやがって……。調子に乗ってた自分が、腹立たしくて……!」

 決して大きいわけではないが、その声には力がこもっている。

「……そう」

「……笑えねぇ話だろ」

 自嘲気味に春奈が言う。

「そうね、笑えないわ」

「はは、本人にそう言われちゃお終い―――」

「だって、誰にもあんたのことを笑う権利なんてないから」

 はっきりとした、それでいて優しい口調で愛姫が言う。

「あんたは勝手に張り切ったわけじゃない、調子に乗っていいのよ。人のために一生懸命になったんだから、誇ってもいいくらいよ」

「……」

「そんな一生懸命なあんたの気持ちを踏みにじって……悪かったわね」

 俯きながら、それまでよりも少し小さな声で呟くように謝罪の言葉を述べる愛姫。

「―――ッ違う!俺が勝手に先走っただけだ!」

 そんな愛姫に対して、春奈が声を張り上げながら身体を起こす。

「違くないわよ。正直言って、わたしはあんたの気持ちを全く考えてなかった」

「……ッ」

 愛姫の言葉を聞いて、春奈が少しだけ苦痛に顔を歪める。

「酷いとか最低とか、罵ってくれても構わないわよ」

「……言わねぇよ」

「そう……はっきりと言っておくけど、わたしにはあんたの気持ちなんか分からない。何であんなに怒ったのか」

「……だろうな」

「だけど、あんたがわたしの為にやろうとしてたことは分かる」

「……そうか」

 愛姫が春奈を振り返って視線を合わせる。

「ねぇ」

「……なんだよ」

「あんたの料理、食べたいんだけど。外食でも、クッキーでもなくて。だからあんたに頼んだのよ?」

「……でも、クッキー食ってたろ」

「そうよ、食べたわ。でもそれはあんたの料理が食べたくないってことじゃない」

「……別に食べたいわけでもなかったんだろ」

 春奈がすっと視線を下げながら言う。

「食べたいに決まってるじゃない。そうじゃなくて……あんたの気持ちが分からなかっただけよ」

「だからそれは……ッ!……お前が俺のことなんか……何とも思ってないからだろ……」

 初めは力のある声だったが、だんだんと尻すぼみに春奈の声が小さくなる。

「…………ふざけないで」

 春奈に聞こえるかどうか、恐らくは聞こえないくらいの声量で愛姫が呟く。

「あんただって……!わたしの気持ちなんか全然分かってないじゃない……!」

「……え?」


 突然愛姫が立ち上がり、春奈の方を向く。
 がばっ、とベッドの上で上半身を起こして座っていた春奈を押し倒し、腕を押さえつけ―――


「いい加減にシャキッとしなさいよ!それでもわたしのお―――幼馴染なの!?」

「―――え」


 覆い被さるような形で、春奈を怒鳴りつける。
 その表情には、怒りとも辛苦とも言える感情が内包されているように見える。
 一方の春奈は、こんな時にも関わらず紅潮している。


「あんたがそんなんだから!……わたしは、わたしはずっと……ッ!」

「ちょっ、どうし―――」

「わたしが本当にあんたのことを何とも思ってないとか思ってるわけ!?」

 愛姫が声を張り上げる。

「落ち着―――」

「目ぇ瞑んなさい!」

「は?」

「目を瞑りなさいって言ってんのよ!早く!」

「はい!」


 春奈は眼前で大きな声を出す愛姫の表情と、その勢いに押され、思わず返事をして目を瞑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

カジュアルセックスチェンジ

フロイライン
恋愛
一流企業に勤める吉岡智は、ふとした事からニューハーフとして生きることとなり、順風満帆だった人生が大幅に狂い出す。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

処理中です...