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2-2 白銀の妖女

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「君の魔力凄いねぇ……とても普通とは思えない。殺意がビンビンだよぉ?」
「て……めぇ……どけ……」

 ルークは掴まれた手を振りほどこうとするが、動きは弱々しい。地を這うようにうつ伏せになっていたルークには、誰に腕を掴まれているのかも確認出来なかった。

「もう、仕方がないなぁ~」

 ルークの手首を握っていた手が緩むと、その主は立ち上がった。

「ここはお姉さんに任せてよ」

 女は手を蒼銀に輝く外套に引っ込めると、男たちの後を追うようにギルド集会所を出て行った。


 ♢ ♢ ♢


「ちょっと……離してください……!」
「こらぁ~セレーネちゃん、そんなに暴れちゃダメだよ~。これから長い付き合いになるんだから」
「私は……! あんな酷いことをする人たちとパーティーを組む気はありません! 早くルークさんを治療しないと……!」
「ほらっ……あんまり暴れるなよ。周りに目立つだろ……!」

 男たちはセレーネの両腕を拘束するように掴むと、無理矢理彼女を歩かさせていた。周りから見られぬようセレーネの姿を隠すように歩く様は、拉致そのものである。

「おっ、いたねぇ~」

 女は5人組の男たちを見つけるとすぐに近寄り、最後尾の男の肩を指で突いた。

「ねぇねぇ、お兄さんちょっといいかなぁ?」
「んだよ」

 男は荒っぽく答えながら振り向く。

「ねえ……その女の子、離してあげて欲しいんだけど?」
「はぁ? お前もこの女の仲間か?」
「いや仲間じゃないんだけど、その子嫌がってそうだし~……嫌がる女の子を無理矢理ってのはどうかな~って」
「何なんだこの女、俺らに文句あんのか?」

 歩いていた男たちが振り返り、敵意ある視線が女に向けられる。

「俺らはちゃんと最初から筋を通して、この女を誘ったんだ。お前にとやかく言われる筋合いはねぇ!」
「そうは言ってもねぇ~」

 女は男たちの間に身を乗り出し、口を塞がれているセレーネを確認する。

「ほぉらぁ~こういうの良くないと思うなぁ~……」
「っち……どけよ……!」

 1人の男が女の肩を強く押すと、彼女は膝を折り、押された肩を抑えながらわざとらしい声を上げる。

「いやぁん~女の子にこういうことするんだぁ……ならぁ結局ぅ……力ずくしかないよねぇ……!」

 女は男に宣言するように立ち上がると、その場で跳躍した。外套から長い脚がチラリと見えると、目の前の男の頭部側面に届いた。
 俊敏な蹴りに男は真横に飛び、地面に倒れ込んだ。

「はっ?」

 その刹那的な出来事を理解するのに、男たちは時間がかかった。

「て、てめえ……」
「どうなっても知らねえぞ……!」

 ルークの時と同じように3人の男が殴りかかってくるが、女は突き出される拳全てを、自身の手で絡めとるように往なし、腹部に、頭部に、反撃を入れる。反撃を受けた男は全員倒れこみ、その場で痛みに悶えていた。

「あれぇ~もう終わり? 面白くないじゃん~」
「くそっ、こんな女に情けねえ奴らだ……俺がやる」

 小太りな男はセレーネをもう1人の男に預けると、肩を回しながら女の前に立つ。

「あんまり調子に乗るんじゃねえぞ……おめえ、この後どうなるか分かってるよなぁ……?」
「へえ、私、どうなっちゃうんだろぉ? もしかしてぇ、私のこの胸とかがぁ……」

 女は話しながら、胸部で丸みを帯びていた外套の留め具を外していくと、その下に隠れた姿が露見する。小太りな男は、彼女の非常に豊かな胸部にあるそれに目を奪われた。

「お、おい……それって……!」
「どう……見たいのぉ?」

 女は小太りな男を挑発するように胸部を突き出すと、胸元のそれが揺れる。男がたじろくのも無理はない。彼女の胸元で揺れるそれは、冒険者の中では絶対的強者の証である。

「ミ、ミストルティー……」

 女の胸元で蒼銀に輝く認識票は、彼女が『ゴールド』等級よりも2段階も上な冒険者であることを示していた。また彼女の実力を示すのは認識票だけではない。
 大きな胸を強調させている拘束具のような鎧や、指が抜かれたブレーサーは白銀の鱗で出来ており、それがもし竜の鱗なら彼女は『ミストルティー』の名に恥じぬ冒険者だろう。
 ロングブーツの素材も鱗であるが、腰から伸びたガーダーベルトと繋がっており、強調された肉感溢れる太ももは、彼女の妖艶な雰囲気を引き立てていた。

「こいつ……マジでミストルかよ……」

 小太りな男の後ろにいた男も、女の胸元を凝視すると驚いた。

「こんなふざけた女が俺より強いのか……? いや、そんなわけがねえ……! おめえ……塗っただろ?」
「これが偽物だって思うなら別にいいけどぉ~」
「へぇ! どこの娼婦だか知らねえが、俺は騙されねぇ……。へっ……悪い女には身体に……仕置きが必要だなぁ……!」
「んふ、そのお仕置き、ちょっと楽しみかも……♡」
「舐めてんじゃねえぞ!」

 自身を挑発された小太りな男は女に襲い掛かる。両手の拳を交互に振るが、女は後方に大きく下がるだけで避けていく。広い屋外ではそれが最も確実で簡単な避け方だろう。
 しかし女は後方への移動量を少しずつ減らし、男の殴りを最小限の動きでかわしていく。

「あれぇ~? 全然当たんないねえ……もう疲れてきちゃった? その鎧重そうだもんねぇ」
「くそがっ!」

 女の挑発に再び苛立ちを覚えた男は、殴りが大きくなる。女は振りかざされた右手を内側に受け流すように往なすと、身体を捻り、男の後方へ回っていた。

「うぐっ……ぐあっ……!」

 背中から蹴り押された小太りな男は盛大に素っ転んだ。男は背中に盾を背負っており、蹴り自体の打撃は免れたが、自身の体重と装備の重みで起き上がるまでに時間がかかっていた。

「はぁぁ……はぁぁ……くっ……ふざけんじゃねえ!」

 男は怒号を地面に飛ばしながら気合で起き上がると、背中のカイトシールドを左手に握る。全てが金属で出来ていた盾は、上下ともに先が尖っており、男はその先端を女に突き刺すよう殴りを入れてきた。

「あぁ、武器を使っちゃうとダメだよぉ」

 女は軽々と男の頭上を飛び越えると、盾による殴りを回避する。
 空を殴った男はすかさず身体を捻り、女に殴りかかる。

「避けてんじゃねえぞ……っ……あぁっ……!?」

 しかし男はそれ以上踏み込むことが出来なかった。
 女は男の背後の飛んだ後、後ろ回し蹴りを繰り出し、器用にも顔面の直前で止めていた。ブーツの踵には太く鋭い針が固定されており、男がそれ以上踏み込んでいたら眉間に突き刺さっていただろう。
 女は目を見開く男を見ながら艶笑する。

「ほら、武器を使われると私、殺したくなっちゃうから……♡」
「くそっ……!」

 男は負けを認めたのか、握り締めていた盾を背中に戻す。

「これでその女の子、返してくれるってことでいいのかなぁ?」
「ああ、好きにしろ……」

 小太りな男は乱暴に倒れている仲間の男たちを起こす。
 女はセレーネを捕まえていた男に近付くと、彼はセレーネを投げ捨てるように突き出した。
 男たちは覇気無く進んでいた道を歩き出すと、女は男たちの背に手を振る。

「ばいばい~」
「あ、あの……!」

 女の胸に埋もれていたセレーネが抜け出し頭を下げる。

「助けていただき……ありがとうございました……!」
「お礼なんて別にいいよ」
「もっとちゃんとお礼を言いたいのですが、私、集会所へ行かないといけなくて……」

 セレーネは今にも集会所へ走り出しそうな、慌てふためいた口調で話す。

「んじゃあ戻ろっか、彼のことが気になるんでしょ?」

 セレーネは先程のことを知っていた女に驚くも、返事を返した。

「はい……!」
「先に行ってていいよ。私も後から行くから」

 セレーネは再び頭を下げると、集会所へ走り出した。
 女もセレーネの後ろ姿を見ながら歩き出すと、1人で笑う。

「へぇあの子……やっぱりエルフなんだぁ……」


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