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外伝
14.最大の謝辞をもって送り出そう
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隠されていた幻影のヴェールが剥がれていく。視界が急にひらけて明るくなり、双子の口にした花畑が出現した。ところどころに小さな湖があり、平原は途中で荒野となり広がる。途中で切れた土地の先は、潮風の香りが漂っていた。我らが目にしたすべての風景が混じったような景色は、この世界が本来持つ美しさだろう。
「滅ぼす以外ないの?」
オレを見上げる神々に同情した様子のリリアーナに、首を横に振った。詳細の一部を知らない彼女が、神々を憐れむのは当然だ。しかし圧倒的な力と寿命を持つ2人が最後に選んだ結論だった。滅びるしかない。それ以外の方法では、この世界の継続が不可能だと考えた。
「彼らは自らが永らえるより、この世界を選んだ」
親が我が子を庇うように、生み出した世界を重要視した。その意思は尊重されるべきだ。そう告げたオレの声に、リリアーナは考えてから頷いた。他の願いはない――断言したのは神々自身だった。
予定調和を施し、そうなるべく導いてきた。だから答えのピースが嵌っていくパズルを前に、オレの決断は変わらない。彼らへの同情もなく、よくここまで組み上げたものだと感心した。オレという強者を組み込むために、アースティルティトを異世界へ送り込んだのだから。
「あとで教えて。私が覚えておく」
覚悟を秘めたリリアーナの言葉に頷いた。ここまで成長したのかと驚く。ドラゴンは長寿で強者という、魔族の上位に立つ種族だ。そのため他種族を思いやり、協調する精神に欠ける傾向があった。消えていく神々の記憶を語り継ぐと言い切ったリリアーナの成長は、様々な種族と触れ合ってきた影響か。
「お前の役目だ」
当事者ではなくこの場に立ち会ったリリアーナに託す。そう信頼を滲ませた言葉に、黒竜の娘はしっかりと前を向いた。足元の土地は幻影を脱ぎ捨て、女神と男神は手を繋いで静かに微笑みあう。この世界を生み出し、我が片腕たるアスタルテを送り込んだ彼と彼女に敬意を払おう。
背に羽を広げ、オレは彼らの元へ舞い降りた。手が届かぬ距離で止まり、双子に離れるよう指示を出す。戸惑いの表情を浮かべながら離れる双子を、アスタルテが抱き留めた。心地よい風が吹き、日差しはどこまでも心地よい。
「旅立つにはよい日だ」
言葉にせず笑みを深めた2柱の神に軽く一礼した。オレが知る上位者への礼はこれのみ。右手のひらを相手に開いて見せ、左腕を腰の後ろへ。そして軽く足を引く。音もなく静かに交わされた僅かな思いを受け流し、オレは魔力を高めた。
黒髪が舞い上がる。水の中を揺らめくように魔力に煽られた髪が広がり、オレの頭上に大きな魔法陣が出現した。普段は禁じている魔法陣だが、このくらいの規模でなければ神の消滅は為せない。空を覆い尽くす魔法陣はすぐに地面へ転写された。
対となった魔法陣は小さな魔法陣の集合体だ。文字や模様に見える部分はすべて魔法文字が個別の魔法陣を作り出し、重なってさらに大きな力を生み出す。上下で逆に回る魔法陣がゆっくりと近づいた。最上級の破壊魔法は、術師以外のすべてを消滅させる。
二度と蘇らぬよう粉々に敵を粉砕するために編み出され、圧倒的な破壊力を目にした術師が使用を禁じた。この魔法陣をもつオレが召喚されたのなら、その理由はひとつ。強大な破壊魔法陣でなければ、神々の願いを叶えることが出来なかった。
この2柱の神はオレに必要なものをすべて与えた。仲間、新しい土地、因縁を捨てる方法……妻。ならば、最大の謝辞をもって送り出そう。
「礼を言う」
オレの声に神々の表情が驚きに変わり、満ちた光と闇がすべてを塗りつぶした。
「滅ぼす以外ないの?」
オレを見上げる神々に同情した様子のリリアーナに、首を横に振った。詳細の一部を知らない彼女が、神々を憐れむのは当然だ。しかし圧倒的な力と寿命を持つ2人が最後に選んだ結論だった。滅びるしかない。それ以外の方法では、この世界の継続が不可能だと考えた。
「彼らは自らが永らえるより、この世界を選んだ」
親が我が子を庇うように、生み出した世界を重要視した。その意思は尊重されるべきだ。そう告げたオレの声に、リリアーナは考えてから頷いた。他の願いはない――断言したのは神々自身だった。
予定調和を施し、そうなるべく導いてきた。だから答えのピースが嵌っていくパズルを前に、オレの決断は変わらない。彼らへの同情もなく、よくここまで組み上げたものだと感心した。オレという強者を組み込むために、アースティルティトを異世界へ送り込んだのだから。
「あとで教えて。私が覚えておく」
覚悟を秘めたリリアーナの言葉に頷いた。ここまで成長したのかと驚く。ドラゴンは長寿で強者という、魔族の上位に立つ種族だ。そのため他種族を思いやり、協調する精神に欠ける傾向があった。消えていく神々の記憶を語り継ぐと言い切ったリリアーナの成長は、様々な種族と触れ合ってきた影響か。
「お前の役目だ」
当事者ではなくこの場に立ち会ったリリアーナに託す。そう信頼を滲ませた言葉に、黒竜の娘はしっかりと前を向いた。足元の土地は幻影を脱ぎ捨て、女神と男神は手を繋いで静かに微笑みあう。この世界を生み出し、我が片腕たるアスタルテを送り込んだ彼と彼女に敬意を払おう。
背に羽を広げ、オレは彼らの元へ舞い降りた。手が届かぬ距離で止まり、双子に離れるよう指示を出す。戸惑いの表情を浮かべながら離れる双子を、アスタルテが抱き留めた。心地よい風が吹き、日差しはどこまでも心地よい。
「旅立つにはよい日だ」
言葉にせず笑みを深めた2柱の神に軽く一礼した。オレが知る上位者への礼はこれのみ。右手のひらを相手に開いて見せ、左腕を腰の後ろへ。そして軽く足を引く。音もなく静かに交わされた僅かな思いを受け流し、オレは魔力を高めた。
黒髪が舞い上がる。水の中を揺らめくように魔力に煽られた髪が広がり、オレの頭上に大きな魔法陣が出現した。普段は禁じている魔法陣だが、このくらいの規模でなければ神の消滅は為せない。空を覆い尽くす魔法陣はすぐに地面へ転写された。
対となった魔法陣は小さな魔法陣の集合体だ。文字や模様に見える部分はすべて魔法文字が個別の魔法陣を作り出し、重なってさらに大きな力を生み出す。上下で逆に回る魔法陣がゆっくりと近づいた。最上級の破壊魔法は、術師以外のすべてを消滅させる。
二度と蘇らぬよう粉々に敵を粉砕するために編み出され、圧倒的な破壊力を目にした術師が使用を禁じた。この魔法陣をもつオレが召喚されたのなら、その理由はひとつ。強大な破壊魔法陣でなければ、神々の願いを叶えることが出来なかった。
この2柱の神はオレに必要なものをすべて与えた。仲間、新しい土地、因縁を捨てる方法……妻。ならば、最大の謝辞をもって送り出そう。
「礼を言う」
オレの声に神々の表情が驚きに変わり、満ちた光と闇がすべてを塗りつぶした。
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