上 下
435 / 438
外伝

13.その潔さは賞賛に値する

しおりを挟む
「準備できた」

「いくよ」

 双子に恐怖心はない。この地に仕掛けをしたのが神なら、同族だった。傷つける意図はないだろう。ここまで呼び寄せて、開けてみろと示したのだから。一度目に訪れたときはただの花畑だと思った。二度目に上から眺めて気づく。ただの美しい花畑に描かれた魔法陣は、花弁の色を変えることで示された。

 用意された魔法陣を読み解いたアナトが下した結論は、危険。古い魔法陣をそのまま使うことで、自分達への負担が大きすぎた。最適化して無駄を省き、消費する神力を軽減した。その上で新たに魔法陣を上書きすることで、行使する力の主導権を握る。魔王サタンの配下である以上、負けは論外。神力の使い過ぎで倒れる無様も避けたい。

 双子は頷きあって神力を流し始めた。大量に流して、一定量が魔法陣に満ちたところで、徐々に調整を始める。この辺りは、魔族との戦いで覚えた加減がうまく作用した。魔法陣がじわじわと光を帯びて、上で待つ仲間の目に可視化される。

「もうすぐだね」

「何が出て来るか楽しみ」

 好奇心旺盛な双子はわくわくしながら、踊るように力を魔法陣に流し込んだ。




 足元で光る魔法陣がくっきりと目に映る鮮やかさを帯びる。ぼんやりしていた輪郭が浮き上がった。真円が幾重にも重なり、合計8段の魔法陣が思い思いに回り始める。

「綺麗だね、サタン様」

 リリアーナが目を輝かせる。キラキラした物が好きなのは、ドラゴンの習性だ。宝石や金貨を大量に集め、巣穴に保管する。リリアーナも寝室に貯め込んでいるのは知っていた。褒美として与えた物はもちろん、貰った物も大切に並べる後ろ姿は嬉しそうだった。

 昔与えた指輪や腕輪は身に着けている。魔力を込めることで竜化しても壊れないのが要因だろう。今も指輪の上を大切そうに撫でていた。そんなに好きなら、大量に保管している収納の宝石や魔石を与えてみようか。きちんと管理するなら問題ない。

 そんなことを考えるオレの目前で、魔法陣の中心に扉が現れた。それをアナトが躊躇なく掴んで引っ張る。しかし開かないのか、バアルが加わって引き始めた。

「……あの扉、押すんじゃないか?」

 アスタルテが眉を寄せた。なぜか双子は引っ張ることに固執しているが、形状からして押して開く可能性が高い。彼女の言葉が聞こえたらしく、慌てて2人は扉を押した。先ほどの苦労が嘘のように、あっさりと開いていく。

 上が丸いアーチ状になった扉はゆっくりと中央から割れて、中から光が溢れ出た。小さく大地が震動し、すぐに収まる。城に残る者達に話を通してあるから、すぐに混乱を収めるだろう。地震と呼ぶ規模でもなく、気のせいで終わる揺れだった。

『糸が紡いだ意図を汲んだ方々の尽力に御礼を』

 長い金髪の女神が現れ、続いて銀髪の男神が現れた。対の人形のように、彼と彼女の顔は酷似している。声を重ねてお礼を口にした2人は、ゆっくりと膝を突いた。見上げる神々の視線は、解放した双子ではなくオレに向けられる。

『我らの願いはひとつ。解放のみ』

「よかろう」

 この世界をオレに引き継ぎ、散ろうと願う潔さは賞賛に値する。頷いて承諾した途端、足元の風景が変化し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...