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第11章 戦より儘ならぬもの

411.この程度で死なれては困る

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「随分と上達したようだ」

 刺された刃を背中側へ転移して傷を避ける。簡単そうで難しい魔術を教えた黒竜王は、得意げに成果を報告した弟子を素直に褒めた。アルシエルが教えたのは、ここまでだ。

 刃の腕の時間を急激に進ませ崩壊させる案は、ヴィネ独自のアレンジだった。これは土の属性魔法の一種だ。時間そのものを扱うと魔力消費量が激しく、術を維持できない。そのため土がすべてを腐らせて吸収する特性を強調して、同様の効果を生み出した。

 触れなくては腐らせられない。魔法陣を用意したら気づかれてしまうだろう。だから魔法を使う時間を稼ぐために、血糊で相手を騙した。演技に引っ掛かった獲物は、木の根に縛り上げられている。皮膚を食い破り、体内に根を張った木がある限り、転移で逃げられる心配もなかった。

「褒めてくれるかな」

 魔王サタンに褒めて欲しい。役に立つところを見せたい。拾われた子供は、圧倒的な強者であるサタンへ憧れを向けていた。よくやったと褒められたいヴィネは頭を下げてウラノスに魔法を習い、アルシエルから魔族相手の戦い方を学んだ。その成果が今回の獲物だ。

「お褒めの言葉と褒美は確実だ。よくやった」

 背伸びする子供を見守るアルシエルの言葉に、ヴィネは嬉しそうに笑った。ドラゴン姿に戻り、獲物を爪でしっかりと掴む。それから襲撃犯を確保した子供を背に乗せて羽を広げた。空を自由に舞う黒竜王が咆哮をあげ、凱旋をアピールする。

 くるりと旋回して高度を落としながら、中庭に立つ塔へ舞い降りた。ようやく使えるようになった塔の上は、ドワーフがまだ工事を続けている。邪魔をしないよう事前に喉を鳴らして着地の意思を伝え、獲物を叩きつけながら足をつけた。

「こりゃ、生きとるんか?」

「この程度で死なれては困るが」

 人化したアルシエルが、塔の上部に転がる男の襟をつかんで引きずり起こす。

「くそ、はな、せ……」

 悪態をつく元気があれば問題ない。アルシエルは乱暴に引きずったまま歩き出した。浮かれた足取りのヴィネが続き、見送ったドワーフの親方が眉を顰める。

「あいつら、汚していきやがって。おう、掃除からだ」

 赤く汚れた石を洗い流すところから作業を開始する。安全な魔王城の敷地にノームを匿ってもらったドワーフは、恩を返すため急ピッチで建築を進めた。手抜きなどとんでもない。後世に誇る建造物にしてやると気合を入れ直し、彼らはノームの歌で喉を震わせながら槌を振るった。

 途中でアガレスから、双子が留守にしている話を聞く。土竜の子供を回収し、親に返すのだという。頷きながら踏み込んだ広間はがらんとしていた。

「みんな、どこへ行った?」

「土竜を操った黒幕探しです」

 淡々と説明するアガレスに追いついたウラノスは、じっくりと顔を確認した後で肩を竦めた。

「……ベルゼブブ? 今回の騒動はお前の仕業か」
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