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第11章 戦より儘ならぬもの
410.災い転じて福となす
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また失敗か。
目を細めた男は舌打ちした。異世界から来たという魔王は、この世界の異物だ。失われた吸血鬼の始祖を連れて戻り、頂点に君臨しようとした。だが、この世界は我らの領地だ。魔王は我々の中から選ばれるべきで、最もふさわしいのは自分……。
元魔王や側近クラスを従えて悦に入っているようだが、本当の実力者は最後まで表に出ないものだ。雑魚を片付けていい気になっていられるのも今のうちだぞ。
負け惜しみに近い悪態をついた男は、きょとんとした顔でこちらを見る子供に気づいた。ハイエルフ、だがまだ若い。いや、幼いと表現した方が近いか。森の番人特有の長細い耳を動かし、子供は無造作に寄ってきた。
捕まえれば利用できるか。そう考えた男の手前で、ハイエルフは立ち止まった。
「なあ、あんた……」
「ベルゼブブと呼べ」
あんたと呼ばれるのが嫌で、吐き捨てるように名乗った。するとハイエルフは、肩に乗せたリスに話しかける。その内容に目を見開いた。
「不審な奴を発見した。叩きのめして連れ帰るから、迎えに誰か寄越してくれ」
叩きのめすだと? このベルゼブブを?! 次期魔王となる最強の魔族だぞ!
かっときた感情のままに、左手を振る。巨大な剣と化した左腕を若いエルフの胸に突き立てた。
「かはっ……」
唇から赤い血が溢れる。震える手が刃に触れ……握ると刃が崩れた。左腕に走った激痛にベルゼブブが手を引くが、遅い。腕は肘の位置でもぎ取られた。同時に木の根が隆起して、男の体を蛇のように締め付ける。
「ぐぁ、あああっ!!」
叫んだ男を見ながら、ヴィネは口の端の赤い色を舐めとった。リスが運んだ木の実を噛み潰したのだが、血糊の代わりは十分果した。口の中に広がった苦味に、べっと舌を出す。
「にがぁ……色はいいんだけどな」
味がひどすぎる。ぼやいたヴィネの魔力感知範囲に、大きな飛翔物が引っかかった。
「え? まさかのドラゴン……ってことは、黒竜王のおっさんか」
臭い大地に蓋を被せる作業が終わり、ついでに林の木々を増殖させて森に膨らませた。10年もしないうちに、この小さな森はマルコシアスが守る森に繋がるだろう。豊かな土壌が木々の根をしっかり育て、森は勢いよく成長するはずだった。
手配を終えて帰ろうとしたところに、何やら物騒なことをぼやきながらニヤける不気味な男を発見した。森の木々がある場所は、エルフにとって庭も同然だ。木々が聞き取った声もすべて、この長い耳に届けられた。
主君である魔王サタンの敵と判断したため、すぐに足元の根を操った。ここ数日の奇妙な動きと攻撃は、この男が絡んでる。そう睨んだヴィネは、捕らえた獲物の前で頬を緩めた。
これは功績としては大きいだろう。臭い仕事を押し付けられた時は恨んだが、今となれば感謝してもいいとさえ思った。災い転じて福となす――こないだ借りた本に書いてあった気がする。頭上に大きなドラゴンの影がかかるまで、ヴィネはニヤニヤと獲物を眺めていた。
****************
『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』というタイトルで、ヤンデレ系の溺愛ハッピーエンド新作を書き始めました。一緒にお楽しみください(=´∇`=)にゃん
目を細めた男は舌打ちした。異世界から来たという魔王は、この世界の異物だ。失われた吸血鬼の始祖を連れて戻り、頂点に君臨しようとした。だが、この世界は我らの領地だ。魔王は我々の中から選ばれるべきで、最もふさわしいのは自分……。
元魔王や側近クラスを従えて悦に入っているようだが、本当の実力者は最後まで表に出ないものだ。雑魚を片付けていい気になっていられるのも今のうちだぞ。
負け惜しみに近い悪態をついた男は、きょとんとした顔でこちらを見る子供に気づいた。ハイエルフ、だがまだ若い。いや、幼いと表現した方が近いか。森の番人特有の長細い耳を動かし、子供は無造作に寄ってきた。
捕まえれば利用できるか。そう考えた男の手前で、ハイエルフは立ち止まった。
「なあ、あんた……」
「ベルゼブブと呼べ」
あんたと呼ばれるのが嫌で、吐き捨てるように名乗った。するとハイエルフは、肩に乗せたリスに話しかける。その内容に目を見開いた。
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叩きのめすだと? このベルゼブブを?! 次期魔王となる最強の魔族だぞ!
かっときた感情のままに、左手を振る。巨大な剣と化した左腕を若いエルフの胸に突き立てた。
「かはっ……」
唇から赤い血が溢れる。震える手が刃に触れ……握ると刃が崩れた。左腕に走った激痛にベルゼブブが手を引くが、遅い。腕は肘の位置でもぎ取られた。同時に木の根が隆起して、男の体を蛇のように締め付ける。
「ぐぁ、あああっ!!」
叫んだ男を見ながら、ヴィネは口の端の赤い色を舐めとった。リスが運んだ木の実を噛み潰したのだが、血糊の代わりは十分果した。口の中に広がった苦味に、べっと舌を出す。
「にがぁ……色はいいんだけどな」
味がひどすぎる。ぼやいたヴィネの魔力感知範囲に、大きな飛翔物が引っかかった。
「え? まさかのドラゴン……ってことは、黒竜王のおっさんか」
臭い大地に蓋を被せる作業が終わり、ついでに林の木々を増殖させて森に膨らませた。10年もしないうちに、この小さな森はマルコシアスが守る森に繋がるだろう。豊かな土壌が木々の根をしっかり育て、森は勢いよく成長するはずだった。
手配を終えて帰ろうとしたところに、何やら物騒なことをぼやきながらニヤける不気味な男を発見した。森の木々がある場所は、エルフにとって庭も同然だ。木々が聞き取った声もすべて、この長い耳に届けられた。
主君である魔王サタンの敵と判断したため、すぐに足元の根を操った。ここ数日の奇妙な動きと攻撃は、この男が絡んでる。そう睨んだヴィネは、捕らえた獲物の前で頬を緩めた。
これは功績としては大きいだろう。臭い仕事を押し付けられた時は恨んだが、今となれば感謝してもいいとさえ思った。災い転じて福となす――こないだ借りた本に書いてあった気がする。頭上に大きなドラゴンの影がかかるまで、ヴィネはニヤニヤと獲物を眺めていた。
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『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』というタイトルで、ヤンデレ系の溺愛ハッピーエンド新作を書き始めました。一緒にお楽しみください(=´∇`=)にゃん
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