413 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
410.災い転じて福となす
しおりを挟む
また失敗か。
目を細めた男は舌打ちした。異世界から来たという魔王は、この世界の異物だ。失われた吸血鬼の始祖を連れて戻り、頂点に君臨しようとした。だが、この世界は我らの領地だ。魔王は我々の中から選ばれるべきで、最もふさわしいのは自分……。
元魔王や側近クラスを従えて悦に入っているようだが、本当の実力者は最後まで表に出ないものだ。雑魚を片付けていい気になっていられるのも今のうちだぞ。
負け惜しみに近い悪態をついた男は、きょとんとした顔でこちらを見る子供に気づいた。ハイエルフ、だがまだ若い。いや、幼いと表現した方が近いか。森の番人特有の長細い耳を動かし、子供は無造作に寄ってきた。
捕まえれば利用できるか。そう考えた男の手前で、ハイエルフは立ち止まった。
「なあ、あんた……」
「ベルゼブブと呼べ」
あんたと呼ばれるのが嫌で、吐き捨てるように名乗った。するとハイエルフは、肩に乗せたリスに話しかける。その内容に目を見開いた。
「不審な奴を発見した。叩きのめして連れ帰るから、迎えに誰か寄越してくれ」
叩きのめすだと? このベルゼブブを?! 次期魔王となる最強の魔族だぞ!
かっときた感情のままに、左手を振る。巨大な剣と化した左腕を若いエルフの胸に突き立てた。
「かはっ……」
唇から赤い血が溢れる。震える手が刃に触れ……握ると刃が崩れた。左腕に走った激痛にベルゼブブが手を引くが、遅い。腕は肘の位置でもぎ取られた。同時に木の根が隆起して、男の体を蛇のように締め付ける。
「ぐぁ、あああっ!!」
叫んだ男を見ながら、ヴィネは口の端の赤い色を舐めとった。リスが運んだ木の実を噛み潰したのだが、血糊の代わりは十分果した。口の中に広がった苦味に、べっと舌を出す。
「にがぁ……色はいいんだけどな」
味がひどすぎる。ぼやいたヴィネの魔力感知範囲に、大きな飛翔物が引っかかった。
「え? まさかのドラゴン……ってことは、黒竜王のおっさんか」
臭い大地に蓋を被せる作業が終わり、ついでに林の木々を増殖させて森に膨らませた。10年もしないうちに、この小さな森はマルコシアスが守る森に繋がるだろう。豊かな土壌が木々の根をしっかり育て、森は勢いよく成長するはずだった。
手配を終えて帰ろうとしたところに、何やら物騒なことをぼやきながらニヤける不気味な男を発見した。森の木々がある場所は、エルフにとって庭も同然だ。木々が聞き取った声もすべて、この長い耳に届けられた。
主君である魔王サタンの敵と判断したため、すぐに足元の根を操った。ここ数日の奇妙な動きと攻撃は、この男が絡んでる。そう睨んだヴィネは、捕らえた獲物の前で頬を緩めた。
これは功績としては大きいだろう。臭い仕事を押し付けられた時は恨んだが、今となれば感謝してもいいとさえ思った。災い転じて福となす――こないだ借りた本に書いてあった気がする。頭上に大きなドラゴンの影がかかるまで、ヴィネはニヤニヤと獲物を眺めていた。
****************
『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』というタイトルで、ヤンデレ系の溺愛ハッピーエンド新作を書き始めました。一緒にお楽しみください(=´∇`=)にゃん
目を細めた男は舌打ちした。異世界から来たという魔王は、この世界の異物だ。失われた吸血鬼の始祖を連れて戻り、頂点に君臨しようとした。だが、この世界は我らの領地だ。魔王は我々の中から選ばれるべきで、最もふさわしいのは自分……。
元魔王や側近クラスを従えて悦に入っているようだが、本当の実力者は最後まで表に出ないものだ。雑魚を片付けていい気になっていられるのも今のうちだぞ。
負け惜しみに近い悪態をついた男は、きょとんとした顔でこちらを見る子供に気づいた。ハイエルフ、だがまだ若い。いや、幼いと表現した方が近いか。森の番人特有の長細い耳を動かし、子供は無造作に寄ってきた。
捕まえれば利用できるか。そう考えた男の手前で、ハイエルフは立ち止まった。
「なあ、あんた……」
「ベルゼブブと呼べ」
あんたと呼ばれるのが嫌で、吐き捨てるように名乗った。するとハイエルフは、肩に乗せたリスに話しかける。その内容に目を見開いた。
「不審な奴を発見した。叩きのめして連れ帰るから、迎えに誰か寄越してくれ」
叩きのめすだと? このベルゼブブを?! 次期魔王となる最強の魔族だぞ!
かっときた感情のままに、左手を振る。巨大な剣と化した左腕を若いエルフの胸に突き立てた。
「かはっ……」
唇から赤い血が溢れる。震える手が刃に触れ……握ると刃が崩れた。左腕に走った激痛にベルゼブブが手を引くが、遅い。腕は肘の位置でもぎ取られた。同時に木の根が隆起して、男の体を蛇のように締め付ける。
「ぐぁ、あああっ!!」
叫んだ男を見ながら、ヴィネは口の端の赤い色を舐めとった。リスが運んだ木の実を噛み潰したのだが、血糊の代わりは十分果した。口の中に広がった苦味に、べっと舌を出す。
「にがぁ……色はいいんだけどな」
味がひどすぎる。ぼやいたヴィネの魔力感知範囲に、大きな飛翔物が引っかかった。
「え? まさかのドラゴン……ってことは、黒竜王のおっさんか」
臭い大地に蓋を被せる作業が終わり、ついでに林の木々を増殖させて森に膨らませた。10年もしないうちに、この小さな森はマルコシアスが守る森に繋がるだろう。豊かな土壌が木々の根をしっかり育て、森は勢いよく成長するはずだった。
手配を終えて帰ろうとしたところに、何やら物騒なことをぼやきながらニヤける不気味な男を発見した。森の木々がある場所は、エルフにとって庭も同然だ。木々が聞き取った声もすべて、この長い耳に届けられた。
主君である魔王サタンの敵と判断したため、すぐに足元の根を操った。ここ数日の奇妙な動きと攻撃は、この男が絡んでる。そう睨んだヴィネは、捕らえた獲物の前で頬を緩めた。
これは功績としては大きいだろう。臭い仕事を押し付けられた時は恨んだが、今となれば感謝してもいいとさえ思った。災い転じて福となす――こないだ借りた本に書いてあった気がする。頭上に大きなドラゴンの影がかかるまで、ヴィネはニヤニヤと獲物を眺めていた。
****************
『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』というタイトルで、ヤンデレ系の溺愛ハッピーエンド新作を書き始めました。一緒にお楽しみください(=´∇`=)にゃん
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる