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第11章 戦より儘ならぬもの

408.部下の見せ場を奪う気はない

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 陥没する大地の悲鳴が、瓦礫を飲み込む耳障りな音となって響く。

「なんてこった!」

「ノームを飲み込むじゃと?」

 慌てて飛び出したドワーフが唸る。どうやら大地を守護するノームごと、魔物が食らったらしい。怒りに駆られたドワーフが、武器を手に飛び出してきた。背の低い彼らだが、腕は太く体格も重心が低くてどっしりしている。斧や剣を作る鍛冶にも才能を発揮する種族は、小人の外見から想像できないほど好戦的だった。

 酒飲みでも有名な彼らは、酒焼けしてガラガラの声で号令をかける。そのまま城を飛び出し、川へ続く階段を一気に駆け下りた。

「いくぞ」

「「「おう」」」

 数人転がり落ちたが、ほとんどは無事到着した。その集団の真横に転移し、オレは群れの前に立つ。

「戦うのはオレの役目だ」

 お前達は城を作り、鍛冶で生計を立てる筈だろう。先陣を切る魔族はいくらでもいる。貴重な職人の腕を傷つけたり、失うことは許容できなかった。

「魔王様! そりゃそうだけんども」

「ノームが食われた! 仇を取る」

「これはドワーフへの挑戦だ!!」

 興奮した彼らは引く気配がなかった。そうしている間にも、背を向けた川の方で大きな音がする。大地が波打ちながら揺れるのは、ノームが逃げ惑う証拠だった。その悲鳴を感じ取るたびにドワーフ達が怒りを募らせる。

「城の下へノームを呼び寄せろ」

 急げと命じる前に、親方が叫んだ。

「急げ!」

 先ほど転がるようにして降りた階段を全力で駆け上る。足腰が丈夫な小人はあっという間に城壁の上に現れた。そこから掠れた声で喉を鳴らす。歌を歌い、ノームを呼び寄せ始めた。街の外壁に沿って形成した結界を一時的に解除し、ノームを招き入れる。

 ある程度回収したところで、結界を網目状に構築し直した。隙間を縫って逃げ込むノームを追ってきた魔物が引っ掛かる。大きさは問題なさそうだ。その結界を二重にして外壁を守った。本来は壁の状態で防ぐ方が安全だが、この状況で逃げ込むノームを見捨てるわけにもいくまい。

「マルコシアス」

「はっ」

 外壁を飛び降りた銀狼へ、獲物を示す。大地の下を蠢く不気味な影を示し、命じた。

「追い出すゆえ、そなたに任せる」

「身に余る誉れにございます、必ずや勝利を」

 叫びながら川の中へ飛び込んでいく。繋ぎとめた船を揺らす銀狼は、ぶわっと二回りほど大きくなった。森での日常生活に合わせ小型化していた体の締め付けを解き放ち、天に向けて咆哮を放つ。大気を振動させるマルコシアスの声に、呼応する形でマーナガルムの鳴き声が被った。

 存在を示した狼を狙い、身の程知らずが大地を裂く。川の水を飲み込みながら開いた口へ、オレは飛び込んだ。リリアーナは心得たように空に舞い上がり、タイミングを計る。体内を剣で切り裂き、のたうち回る魔物の顎に綱をかける。綱の反対側を空へ投げた。

 ぐるると鳴いた黒竜の娘は器用に綱を掴み、太陽眩しい空へ向けて上昇する。螺旋を描きながら力強く羽ばたくドラゴンは、地中に潜む敵を陽光の下へ引きずり出した。
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