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第11章 戦より儘ならぬもの
402.一瞬で蹴散らすなんて許さない
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「もうっ! 仕方ないわね」
着飾った宝石類を外して、近くにあった机に置いた。オリヴィエラの様子に、事情を察したロゼマリアが駆け寄る。
「敵なの?」
「空と地上は問題ないわ。地下よ」
食料配給はまだ定期的に続けている。民に土地を分配したからといって、すぐに収穫が出来るわけではないからだ。農民が1年間必死に働き、天候や害虫と戦ってようやく得られるのが実り。最後の収穫前に台風が来て台無しになることも珍しくないのが、農業だった。
常に自分達の手が届かない天候や虫の発生に悩まされる民に、まともに食べて欲しい。痩せた腕で振るう鍬は大地に届かないから。耕す土地と水路を用意し、種も与えた。一生懸命耕す彼らが収穫を得るまで、炊き出しは続ける予定だ。そのための予算も許可も得ていた。
その大地の下を荒らす者がいる。かつてのオリヴィエラなら、地上に出てくるのを待って戦っただろう。グリフォンは本来空にいてこそ強い。鷲の羽と鋭い爪で、いくらでも敵を屠れる。
しかし今の地上に呼び出すことは、民の努力をすべて水泡に帰す行為だった。地下を荒らす魔物はまだ深い位置にいる。奴らが浮上すれば、地表にある麦畑も野菜の苗も台無しになるだろう。
「誘き出す必要があるわ」
荒野はかなり開拓された。王都となったバシレイアには、魔王城がある。ドワーフが作る堅固な城は地下にもノームの加護があり、倒れる心配はなかった。だが周辺地域は別だ。ノームの加護はそこまで及ばない。
「何か方法はないかしら」
足の裏をぞわぞわと撫でられるような不快感が、オリヴィエラを襲った。魔王サタンならどうするかしら? 黒竜王アルシエル、吸血鬼王ウラノス、女王のようなアスタルテなら……。
思いつきそうな作戦を探るも、圧倒的な魔力がなければ使用できない作戦ばかり。私が扱える魔力で足りる作戦でなければ、実行不可能だわ。唸るオリヴィエラへ、ロゼマリアが宝石類を片付けながら首をかしげた。
「地下にいるのよね。溺れたり、潰れたりしないのかしら」
無力で無知な人間だからこその疑問だった。土は重いのだから、重さで穴が潰れてしまわないのか。地下水を掘り当てて水が流れ込んだらどうするだろう。そんな子供のような疑問……目を見開いたオリヴィエラが手を叩いた。
「そうよ、それ! それにしましょう」
「え、ええ」
なんだかわからず、手にした宝石類を侍女のエマに預けた。手を握るオリヴィエラに引っ張られ、ロゼマリアは炊き出しに集まった民の間を走る。少しして立ち止まった。
「あそこに水路があるわ」
彼女に連れられてたどり着いたのは、外壁の上だった。階段を上らずに、グリフォンに掴まれて舞い降りる形だ。一瞬で人に戻った親友は、濃茶の髪をかき上げながら地図を取り出した。
「東側の水路は、西の地下水を汲み上げている。だからこの間は地下水の流れが変わってるはずよ」
大量に西から汲み上げた理由のひとつに、川が流れる東の地形が挙げられる。山がある西側は高さがあり、東の川へ地下水を繋げば、高低差を利用して水量を調整できた。川が流れると言うことは、周囲より低い土地なのだ。
「目にもの見せてくれるわ」
作戦を確認したオリヴィエラは、許可を取るために王城へと飛んだ。その背に大切な友人を乗せて。
着飾った宝石類を外して、近くにあった机に置いた。オリヴィエラの様子に、事情を察したロゼマリアが駆け寄る。
「敵なの?」
「空と地上は問題ないわ。地下よ」
食料配給はまだ定期的に続けている。民に土地を分配したからといって、すぐに収穫が出来るわけではないからだ。農民が1年間必死に働き、天候や害虫と戦ってようやく得られるのが実り。最後の収穫前に台風が来て台無しになることも珍しくないのが、農業だった。
常に自分達の手が届かない天候や虫の発生に悩まされる民に、まともに食べて欲しい。痩せた腕で振るう鍬は大地に届かないから。耕す土地と水路を用意し、種も与えた。一生懸命耕す彼らが収穫を得るまで、炊き出しは続ける予定だ。そのための予算も許可も得ていた。
その大地の下を荒らす者がいる。かつてのオリヴィエラなら、地上に出てくるのを待って戦っただろう。グリフォンは本来空にいてこそ強い。鷲の羽と鋭い爪で、いくらでも敵を屠れる。
しかし今の地上に呼び出すことは、民の努力をすべて水泡に帰す行為だった。地下を荒らす魔物はまだ深い位置にいる。奴らが浮上すれば、地表にある麦畑も野菜の苗も台無しになるだろう。
「誘き出す必要があるわ」
荒野はかなり開拓された。王都となったバシレイアには、魔王城がある。ドワーフが作る堅固な城は地下にもノームの加護があり、倒れる心配はなかった。だが周辺地域は別だ。ノームの加護はそこまで及ばない。
「何か方法はないかしら」
足の裏をぞわぞわと撫でられるような不快感が、オリヴィエラを襲った。魔王サタンならどうするかしら? 黒竜王アルシエル、吸血鬼王ウラノス、女王のようなアスタルテなら……。
思いつきそうな作戦を探るも、圧倒的な魔力がなければ使用できない作戦ばかり。私が扱える魔力で足りる作戦でなければ、実行不可能だわ。唸るオリヴィエラへ、ロゼマリアが宝石類を片付けながら首をかしげた。
「地下にいるのよね。溺れたり、潰れたりしないのかしら」
無力で無知な人間だからこその疑問だった。土は重いのだから、重さで穴が潰れてしまわないのか。地下水を掘り当てて水が流れ込んだらどうするだろう。そんな子供のような疑問……目を見開いたオリヴィエラが手を叩いた。
「そうよ、それ! それにしましょう」
「え、ええ」
なんだかわからず、手にした宝石類を侍女のエマに預けた。手を握るオリヴィエラに引っ張られ、ロゼマリアは炊き出しに集まった民の間を走る。少しして立ち止まった。
「あそこに水路があるわ」
彼女に連れられてたどり着いたのは、外壁の上だった。階段を上らずに、グリフォンに掴まれて舞い降りる形だ。一瞬で人に戻った親友は、濃茶の髪をかき上げながら地図を取り出した。
「東側の水路は、西の地下水を汲み上げている。だからこの間は地下水の流れが変わってるはずよ」
大量に西から汲み上げた理由のひとつに、川が流れる東の地形が挙げられる。山がある西側は高さがあり、東の川へ地下水を繋げば、高低差を利用して水量を調整できた。川が流れると言うことは、周囲より低い土地なのだ。
「目にもの見せてくれるわ」
作戦を確認したオリヴィエラは、許可を取るために王城へと飛んだ。その背に大切な友人を乗せて。
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