404 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
401.魔族蜂起を鎮圧した褒美が必要だ
しおりを挟む
むっとした顔でリリアーナが唇を尖らせる。連れてこられたのは、年若いエルフだった。風の魔法を纏わせ、槍を遠くから飛ばす。その技術は大したものだ。油断していれば、ドラゴンでも仕留められるだろう。
この者に対して興味はない。リリアーナが防がなくても、結界は正常に機能した。だから実害を与えられない小さな羽虫を、敵として処分する必要もないが。
「私の獲物だった」
尖った口調で文句を言うリリアーナに、アスタルテが笑い出した。
捕らえてきたアルシエルは無視する。娘の言い分が気に入らないのだろう。主君に弓引いた者を捕らえ殺すのは、側近として当たり前の行動だ。褒められこそすれ、咎められる由縁はない。ましてやリリアーナはまだ妻ですらない。彼女はオレのペットに過ぎないのだ。
「リリアーナ、口を慎め」
ここで面子を保ってやらなくてはならない。愛玩動物はあくまでも所有物だ。配下が成果を上げたことを咎める権利はなかった。アルシエルは己の職責を果たし、捕らえてみせた。それは褒美に値する。悔しいならば、リリアーナが動くべきだった。
もちろん、オレが呼び止めたことも含めて。その状況であっても即座に動く意思を見せれば、権利の主張は可能だったはず。動かず失った獲物を嘆くだけならまだしも、捕らえた功労者を貶める物言いは許容できなかった。
「ごめ、なさい」
叱られたのは理解したようだ。反省した様子に、これ以上咎める理由はない。彼女をそのままに、竜の爪が食い込んだエルフを見つめた。空中で掴まれた状態で逃げ場はない。風を操って落下速度を調整することはできても、エルフが自力で飛ぶことは不可能だった。
「魔王陛下、この者を引き裂く許可をいただきたい」
黒竜の大きな瞳が獲物を睨みつける。オレが指示しなかったため連れ帰ったが、魔王に敵対する者は殺しておきたい。それがアルシエルの考えだった。
「エルフでしょ?」
「実験に使っていい?」
双子は有効利用を主張する。空の襲撃を防ぎ切ったウラノスが、腹黒い提案をした。
「罠を仕掛けて送り返してはどうか」
ガーゴイルを始めとした大量の魔物を空から叩き落とし、砕いて散らした。元吸血鬼王として魔王の名を預かった男は、傷ひとつない。アスタルテ同様、いとも容易く敵を排除してみせた。
彼にも褒美が必要だ。さて、何を与えたものか。考えながら見回すと、それぞれに自分の策の有効性を主張してくる。
「エルフはアルシエルとウラノスに任せる。城で希望を聞くから褒美を考えておけ」
マルコシアスやマーナガルムなど、地上の部下も労ってやらなくてはならん。地上へ降りようとしたオレに、困惑した表情で縋るリリアーナに気づいた。
「何をしている。来い」
「うん」
大喜びで背の羽を広げたリリアーナが、滑空してくる。その勢いを借り、地上へと最短距離で降りた。駆け寄る魔獣や魔物に声をかけ、褒美として肉を持ち帰らせる。一部の魔族が同行を望んだため、登城する許可を与え、魔族の蜂起は一段落となったかに見えた。
この者に対して興味はない。リリアーナが防がなくても、結界は正常に機能した。だから実害を与えられない小さな羽虫を、敵として処分する必要もないが。
「私の獲物だった」
尖った口調で文句を言うリリアーナに、アスタルテが笑い出した。
捕らえてきたアルシエルは無視する。娘の言い分が気に入らないのだろう。主君に弓引いた者を捕らえ殺すのは、側近として当たり前の行動だ。褒められこそすれ、咎められる由縁はない。ましてやリリアーナはまだ妻ですらない。彼女はオレのペットに過ぎないのだ。
「リリアーナ、口を慎め」
ここで面子を保ってやらなくてはならない。愛玩動物はあくまでも所有物だ。配下が成果を上げたことを咎める権利はなかった。アルシエルは己の職責を果たし、捕らえてみせた。それは褒美に値する。悔しいならば、リリアーナが動くべきだった。
もちろん、オレが呼び止めたことも含めて。その状況であっても即座に動く意思を見せれば、権利の主張は可能だったはず。動かず失った獲物を嘆くだけならまだしも、捕らえた功労者を貶める物言いは許容できなかった。
「ごめ、なさい」
叱られたのは理解したようだ。反省した様子に、これ以上咎める理由はない。彼女をそのままに、竜の爪が食い込んだエルフを見つめた。空中で掴まれた状態で逃げ場はない。風を操って落下速度を調整することはできても、エルフが自力で飛ぶことは不可能だった。
「魔王陛下、この者を引き裂く許可をいただきたい」
黒竜の大きな瞳が獲物を睨みつける。オレが指示しなかったため連れ帰ったが、魔王に敵対する者は殺しておきたい。それがアルシエルの考えだった。
「エルフでしょ?」
「実験に使っていい?」
双子は有効利用を主張する。空の襲撃を防ぎ切ったウラノスが、腹黒い提案をした。
「罠を仕掛けて送り返してはどうか」
ガーゴイルを始めとした大量の魔物を空から叩き落とし、砕いて散らした。元吸血鬼王として魔王の名を預かった男は、傷ひとつない。アスタルテ同様、いとも容易く敵を排除してみせた。
彼にも褒美が必要だ。さて、何を与えたものか。考えながら見回すと、それぞれに自分の策の有効性を主張してくる。
「エルフはアルシエルとウラノスに任せる。城で希望を聞くから褒美を考えておけ」
マルコシアスやマーナガルムなど、地上の部下も労ってやらなくてはならん。地上へ降りようとしたオレに、困惑した表情で縋るリリアーナに気づいた。
「何をしている。来い」
「うん」
大喜びで背の羽を広げたリリアーナが、滑空してくる。その勢いを借り、地上へと最短距離で降りた。駆け寄る魔獣や魔物に声をかけ、褒美として肉を持ち帰らせる。一部の魔族が同行を望んだため、登城する許可を与え、魔族の蜂起は一段落となったかに見えた。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる