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第11章 戦より儘ならぬもの
400.私のサタン様に何すんの!
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視線の先には鏃に似た三角の金属――結界が弾く。そう思い、手を出さなかった。戦場で常時展開する結界は、物理と魔法の両方に作用する。しかし予想外の動きをした者がいた。
「私の、サタン様に、何、すんのっ!」
叫んだリリアーナの声が、衝撃波となって金属を砕いた。その時点で矢ではなく、槍だったと判明する。だが、武器の種類はもう関係なかった。リリアーナが見開いた金瞳が睨む先で、己の愚行を恥じるように槍の柄が砕け散る。
粉砕された金属と木片が地上に降り注いだ。リリアーナは興奮した様子で、槍が飛んできた方角を指さす。
「待ってなさい! 殺してやるんだから」
言い置いて飛び立とうとした彼女の翼を、オレは掴んでいた。振り返るリリアーナの瞳は、普段より輝きを増している。間違いない、無意識に使ったのだろう。
「リリアーナ、落ち着け。いま発動した魅了を覚えろ」
言われた内容が分からない様子で、金髪の少女は首を傾げた。飛ぼうと羽ばたきかけた翼を畳み、ゆっくり振り返る。もう一度首を傾げてから尋ねた。
「いま発動、してたの?」
「その感覚はお前の武器になる」
魅了眼を持つ魔族は少ない。持っていても、リリアーナほど強い力はなかった。ほとんどは自分に好意を向けさせる程度で、操るほどの強さがない。しかしリリアーナは違う。自分より魔力量の低い者なら複数でも操ってみせた。
竜の子育ては親が付き添う。親がいなければ、群れが代わりに育てるほど過保護だった。だがリリアーナの話を聞く限り、彼女は孤独な環境で育っている。群れに迎え入れられたなら、この魅了眼は発動しなかっただろう。強者に分類される種族でありながら、単独で厳しい狩りを続けた結果が……今の彼女だ。
魅了眼を最大限に利用し、複数の獲物にかけた。短期間に何度も能力を繰り返し使うことで、強化されたらしい。通常は意思を持つ存在にしか通用しない魅了が、無機物に対し発動した。それも有効な形で結果が出ている。
「すごい! リリー」
「もう1回やって」
興奮した双子が文字通り舞い上がる。周囲をくるくる飛び回って、褒め称えた。驚いたリリアーナがきょとんとしている。
「先程の魅了はリリアーナか。見事だった」
感心した口調で、アスタルテが褒める。彼女が相手をしていたワイバーンは、すべて地上に叩き落とされていた。今頃、マルコシアス率いる魔獣に襲われているだろう。飛べない飛竜など、足の遅い肉の塊だ。狼や狒々の餌にすぎなかった。
「なんか、すごいこと?」
まだ状況が飲み込めない様子のリリアーナに、頷いて肯定してやる。すると徐々に頬を赤く染めて、嬉しそうにお礼を言った。褒められたのが嬉しいと、尻尾が大きく揺れる。
「あ、獲物!」
槍を投げた犯人を捕まえる。そう意気込んだリリアーナだが、すでにアルシエルが向かっていた。
「私の、サタン様に、何、すんのっ!」
叫んだリリアーナの声が、衝撃波となって金属を砕いた。その時点で矢ではなく、槍だったと判明する。だが、武器の種類はもう関係なかった。リリアーナが見開いた金瞳が睨む先で、己の愚行を恥じるように槍の柄が砕け散る。
粉砕された金属と木片が地上に降り注いだ。リリアーナは興奮した様子で、槍が飛んできた方角を指さす。
「待ってなさい! 殺してやるんだから」
言い置いて飛び立とうとした彼女の翼を、オレは掴んでいた。振り返るリリアーナの瞳は、普段より輝きを増している。間違いない、無意識に使ったのだろう。
「リリアーナ、落ち着け。いま発動した魅了を覚えろ」
言われた内容が分からない様子で、金髪の少女は首を傾げた。飛ぼうと羽ばたきかけた翼を畳み、ゆっくり振り返る。もう一度首を傾げてから尋ねた。
「いま発動、してたの?」
「その感覚はお前の武器になる」
魅了眼を持つ魔族は少ない。持っていても、リリアーナほど強い力はなかった。ほとんどは自分に好意を向けさせる程度で、操るほどの強さがない。しかしリリアーナは違う。自分より魔力量の低い者なら複数でも操ってみせた。
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「すごい! リリー」
「もう1回やって」
興奮した双子が文字通り舞い上がる。周囲をくるくる飛び回って、褒め称えた。驚いたリリアーナがきょとんとしている。
「先程の魅了はリリアーナか。見事だった」
感心した口調で、アスタルテが褒める。彼女が相手をしていたワイバーンは、すべて地上に叩き落とされていた。今頃、マルコシアス率いる魔獣に襲われているだろう。飛べない飛竜など、足の遅い肉の塊だ。狼や狒々の餌にすぎなかった。
「なんか、すごいこと?」
まだ状況が飲み込めない様子のリリアーナに、頷いて肯定してやる。すると徐々に頬を赤く染めて、嬉しそうにお礼を言った。褒められたのが嬉しいと、尻尾が大きく揺れる。
「あ、獲物!」
槍を投げた犯人を捕まえる。そう意気込んだリリアーナだが、すでにアルシエルが向かっていた。
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