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第11章 戦より儘ならぬもの
399.早くしないと戦う敵がいなくなる
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地上の敵はキメラに加え、様々な四足歩行の魔獣が駆り出されていた。数は多いが個々の能力は低い。空中と違い見落として通り抜けられる危険はあるが、双子が応援に行ったなら問題あるまい。
キメラを解体しながら、アナトが無邪気に手を振る。全身返り血を浴び、真っ赤に染まった姿は人間なら恐怖に慄くだろう。隣のリリアーナは、下を覗き込み目を輝かせた。
「キメラ! ご馳走だ」
前に捕まえた時も、これは一級品だと自慢げに差し出されたことを思い出す。リリアーナの味覚に合うのだろう。バアルはすでに次の獲物に取り掛かっていた。3つの頭を擡げる蛇相手に、素手で攻撃を繰り返す。一撃当てると下がり、蛇の怒りを誘発しながら待っている様子だった。
「出来たよ」
解体が終わり肉を収納したアナトが合流すると、バアルの動きがキレを増す。どうやら妹を待っていたらしい。
「首は使うから」
「あとは?」
「尻尾……いるかな」
使わないかも知れない。そんな呟きを漏らしながら、アナトは遠慮なく魔法でスライスしていく。輪切りになった蛇は、断面から血を噴き出しながら転げ回った。左の頭以外をすべて切り刻むと、アナトは転移して左の頭の上に降り立つ。
「頭、もらうね」
お菓子をもらうような軽い口調で宣言し、首を切り落として収納へ放り込んだ。彼女の亜空間はおそらく素材の山だろう。頭を失った蛇の胴体がのたうちまわり、尻尾が木々を殴る。仲間だったキメラやオークなどを跳ね飛ばしながら、やがて息絶えた。
森を壊しすぎだ、注意した方がいいか。見下ろした先の景色に気を取られていると、リリアーナが興奮した声をあげる。
「すごい! アスタルテ、すごい」
視線を戻すと、大群のワイバーンを蝙蝠が包んでいた。黒い闇を纏つかせた蝙蝠は帯状になり、まるで鞭のようにしなって攻撃する。続け様に十数匹を叩き落とし、噛み付いて離脱させ、巻きつくように締め上げた。その連携した動きは、蝙蝠の群れではなく巨大な蛇のようだ。
自由に形を変えながら、残ったワイバーンを網状になった蝙蝠が襲った。聞き苦しい悲鳴が響き渡り、ほとんどの個体は地上へと落ちる。
アスタルテ自身が蝙蝠となって分散する戦い方だ。攻撃されても被害が少なく、大量の敵を一度に相手どる際に使う。見事な分身だが、まだ余力がありそうだった。
「お前も戦ってくるか?」
戦局は圧倒的な勝利を示していた。加わるなら早くしないと、戦うべき敵がいなくなる。そう匂わせたが、リリアーナは首を横に振った。腕を絡めてにっこり笑う。
「いいの。アナトやバアルがお肉獲ってくれたし、私はここにいるのが仕事」
「そうか」
よくわからないが、オレの警護のつもりか。出番がなくていいなら、好きにしたらいい。着飾ってきたのに、竜化して服が破れて泣くのも可哀想だ。
「陛下っ」
叫んだアスタルテの声に顔を向けると、正面から飛んでくる魔力に気づく。強大な魔力を纏うそれは、矢か槍のようだった。
キメラを解体しながら、アナトが無邪気に手を振る。全身返り血を浴び、真っ赤に染まった姿は人間なら恐怖に慄くだろう。隣のリリアーナは、下を覗き込み目を輝かせた。
「キメラ! ご馳走だ」
前に捕まえた時も、これは一級品だと自慢げに差し出されたことを思い出す。リリアーナの味覚に合うのだろう。バアルはすでに次の獲物に取り掛かっていた。3つの頭を擡げる蛇相手に、素手で攻撃を繰り返す。一撃当てると下がり、蛇の怒りを誘発しながら待っている様子だった。
「出来たよ」
解体が終わり肉を収納したアナトが合流すると、バアルの動きがキレを増す。どうやら妹を待っていたらしい。
「首は使うから」
「あとは?」
「尻尾……いるかな」
使わないかも知れない。そんな呟きを漏らしながら、アナトは遠慮なく魔法でスライスしていく。輪切りになった蛇は、断面から血を噴き出しながら転げ回った。左の頭以外をすべて切り刻むと、アナトは転移して左の頭の上に降り立つ。
「頭、もらうね」
お菓子をもらうような軽い口調で宣言し、首を切り落として収納へ放り込んだ。彼女の亜空間はおそらく素材の山だろう。頭を失った蛇の胴体がのたうちまわり、尻尾が木々を殴る。仲間だったキメラやオークなどを跳ね飛ばしながら、やがて息絶えた。
森を壊しすぎだ、注意した方がいいか。見下ろした先の景色に気を取られていると、リリアーナが興奮した声をあげる。
「すごい! アスタルテ、すごい」
視線を戻すと、大群のワイバーンを蝙蝠が包んでいた。黒い闇を纏つかせた蝙蝠は帯状になり、まるで鞭のようにしなって攻撃する。続け様に十数匹を叩き落とし、噛み付いて離脱させ、巻きつくように締め上げた。その連携した動きは、蝙蝠の群れではなく巨大な蛇のようだ。
自由に形を変えながら、残ったワイバーンを網状になった蝙蝠が襲った。聞き苦しい悲鳴が響き渡り、ほとんどの個体は地上へと落ちる。
アスタルテ自身が蝙蝠となって分散する戦い方だ。攻撃されても被害が少なく、大量の敵を一度に相手どる際に使う。見事な分身だが、まだ余力がありそうだった。
「お前も戦ってくるか?」
戦局は圧倒的な勝利を示していた。加わるなら早くしないと、戦うべき敵がいなくなる。そう匂わせたが、リリアーナは首を横に振った。腕を絡めてにっこり笑う。
「いいの。アナトやバアルがお肉獲ってくれたし、私はここにいるのが仕事」
「そうか」
よくわからないが、オレの警護のつもりか。出番がなくていいなら、好きにしたらいい。着飾ってきたのに、竜化して服が破れて泣くのも可哀想だ。
「陛下っ」
叫んだアスタルテの声に顔を向けると、正面から飛んでくる魔力に気づく。強大な魔力を纏うそれは、矢か槍のようだった。
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