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第11章 戦より儘ならぬもの
392.そなたは魔王の妹として過ごせ
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魔王サタンは黒竜の娘リリアーナを娶るため、身近に置いていた寵姫ロゼマリアを他国に嫁がせることとした――彼女達が聞いた噂は、そのような内容だった。
間違いが多過ぎてどこから指摘すればいいのか。まずリリアーナは愛玩動物だ。ロゼマリアは寵姫ではないし、嫁がせる予定もない。本人が嫁に行きたいと言えば話は別だが、無理に誰かの妻にならずとも構わなかった。
そもそも政略結婚という考え方が気に食わぬ。当事者達の意見を無視し、親や王侯貴族の利害で勝手に人生の伴侶を充てがうなど……うまく行くわけがなかった。不幸になると知りつつ、娘や姉妹を権力の材料とする。己の力でのし上がることを知らぬ、ひ弱な人間が考えそうなことだ。
この考えをオレに当て嵌めること自体、不遜だ。強さを誇る魔族の頂点に立つ王が、政略結婚だと? そのような王なら、早急に交代するべきだろう。
「オレに対する噂なのだな?」
これは大前提として確認しておく。過去の魔王に対する噂話ではなく、このサタンに対して囁かれる話で間違いないか。聞き違えようがない問いかけに、オリヴィエラはしっかり頷いた。
「私はこの耳で聞きました。すでに魔族の中で噂となり、人間にも広がりつつあります。どこから出た噂か探っておきましょうか?」
「クリスティーヌも使って調べろ」
命じられたオリヴィエラが一礼して、部屋から出ていく。こういう対応は魔族らしい。話を最後まで終えるより、先に手を打ってから残りの話を進める。手遅れになる可能性を僅かでも減らし、確実に勝利を手にする方法だった。
「あの……勘違いでお騒がせしてしまい、申し訳……」
「そなたは顔を合わせるたびに謝罪する気か」
呆れ混じりの声に、ロゼマリアは口を噤んだ。バシレイア国王の教育方針が男尊女卑だったため、王女でありながら卑屈な考え方をする。すぐに頭を下げて謝罪し、許しを請おうとする姿勢は見ていて気分が悪い。
「噂話に一喜一憂するのは構わぬ。だが責める前に噂の真偽を確認する癖をつけよ。王族ならば当然であろう」
「っ……私、まだ王族なのですか」
「バシレイアの王女、我が妹の扱いになっているはずだ」
アガレスは説明しなかったのか? いや、おそらく手配はしたのだろう。書面か伝言でロゼマリアに伝えた気になり、本人に確認しなかった。あの男は真面目で根回しは得意だが、時々抜けたことをするものよ。
くつくつと喉を震わせて笑い、再度宣言した。
「ロゼマリアは魔王の妹として過ごせ。嫁ぎたい相手がいれば申せ。叶えてやろう」
世界の覇者たる魔王の妹となれば、どの一族、どの種族であろうと拒ませはしない。もちろん、結婚相手の意思は別だが。そう告げると、ロゼマリアはほっとした様子で頬を緩めた。
「リリーは? 私は何?」
「オレに最も近い位置にいる愛玩動物であろう?」
「うん!」
喜んで尻尾を振るリリアーナを、ロゼマリアは複雑そうに見つめた。それから口元を押さえて、小さな声で呟く。
「それでいいのかしら……いえ、ご本人達は気づいておられないのですもの」
指摘できないと意味不明な言葉を紡ぐロゼマリアは、やがて諦めたように苦笑いした。
間違いが多過ぎてどこから指摘すればいいのか。まずリリアーナは愛玩動物だ。ロゼマリアは寵姫ではないし、嫁がせる予定もない。本人が嫁に行きたいと言えば話は別だが、無理に誰かの妻にならずとも構わなかった。
そもそも政略結婚という考え方が気に食わぬ。当事者達の意見を無視し、親や王侯貴族の利害で勝手に人生の伴侶を充てがうなど……うまく行くわけがなかった。不幸になると知りつつ、娘や姉妹を権力の材料とする。己の力でのし上がることを知らぬ、ひ弱な人間が考えそうなことだ。
この考えをオレに当て嵌めること自体、不遜だ。強さを誇る魔族の頂点に立つ王が、政略結婚だと? そのような王なら、早急に交代するべきだろう。
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これは大前提として確認しておく。過去の魔王に対する噂話ではなく、このサタンに対して囁かれる話で間違いないか。聞き違えようがない問いかけに、オリヴィエラはしっかり頷いた。
「私はこの耳で聞きました。すでに魔族の中で噂となり、人間にも広がりつつあります。どこから出た噂か探っておきましょうか?」
「クリスティーヌも使って調べろ」
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「あの……勘違いでお騒がせしてしまい、申し訳……」
「そなたは顔を合わせるたびに謝罪する気か」
呆れ混じりの声に、ロゼマリアは口を噤んだ。バシレイア国王の教育方針が男尊女卑だったため、王女でありながら卑屈な考え方をする。すぐに頭を下げて謝罪し、許しを請おうとする姿勢は見ていて気分が悪い。
「噂話に一喜一憂するのは構わぬ。だが責める前に噂の真偽を確認する癖をつけよ。王族ならば当然であろう」
「っ……私、まだ王族なのですか」
「バシレイアの王女、我が妹の扱いになっているはずだ」
アガレスは説明しなかったのか? いや、おそらく手配はしたのだろう。書面か伝言でロゼマリアに伝えた気になり、本人に確認しなかった。あの男は真面目で根回しは得意だが、時々抜けたことをするものよ。
くつくつと喉を震わせて笑い、再度宣言した。
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世界の覇者たる魔王の妹となれば、どの一族、どの種族であろうと拒ませはしない。もちろん、結婚相手の意思は別だが。そう告げると、ロゼマリアはほっとした様子で頬を緩めた。
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「オレに最も近い位置にいる愛玩動物であろう?」
「うん!」
喜んで尻尾を振るリリアーナを、ロゼマリアは複雑そうに見つめた。それから口元を押さえて、小さな声で呟く。
「それでいいのかしら……いえ、ご本人達は気づいておられないのですもの」
指摘できないと意味不明な言葉を紡ぐロゼマリアは、やがて諦めたように苦笑いした。
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