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第11章 戦より儘ならぬもの

389.国の土台づくりは教育から始まる

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 魔王城となったバシレイアを中心に、これから人間達を管理する仕組みを整備しなくてはならない。こういった細かい作業はアガレスやアスタルテの得意分野だが、マルファスが使えない状況でアガレスに負荷がかかりすぎた。

 誰か新しい文官を見つけてくる必要がある。人間にこだわらず、広く集めることも考えた方が良いだろう。

 広い風呂に入り、温かい湯に浸かりながら考える。目の前をリリアーナが泳いでいった。あの娘に羞恥心を教えるのは疲れる。何度か挑戦したが、成功に程遠いのは現状が証明していた。

 裸で人前に出たり、こうして異性の前で泳いだりと彼女の羞恥心のしきい値は低い。いや、出会った当初は、尻尾を持ち上げたら恥じらっていたではないか。なぜ今は羞恥心がない?

 噴水の前で唸っていた時と、泳ぐリリアーナの違いと言えば……形態だ。竜の姿では一族の掟に従い、恥ずかしいと主張した。人化させたことで、外見以外の変化が出たのだろうか。

 ぽちゃんと天井部分から冷たい水が垂れた。その音で我に返る。思考が横に流れた。

 マルファスの抜けた穴を埋める話だったか。裏切り者自体は発生しなかったため、侵入者を排除すれば騒動は一段落する。報復に関してはオレも動くが、アスタルテが手筈を整えるはずだ。

 マルファスを拾ったのは、王城前の掲示板だった。定期的に今も情報を張り出しているが、文字の読める人間がとにかく少ない。ロゼマリアに聞いた話では、教育に割く資金がなかったらしい。文字や計算を教える教育機関の設立を優先しよう。

 貧しい家庭は子供も働き手だ。優秀な子供が、貧富の差で取りこぼされることがあってはならん。親が働き手を手放すには、金を与えるか。いやそれは短絡的だ。金だけ取りに行かせる可能性がある。確実に勉強させる方法を考えなくては、国の土台が固まらなかった。

 泳いでいたリリアーナが、そっと近づいてきた。この子は幼い言動が目立つが、馬鹿ではない。知識や常識を教える者がいない環境に育ち、無知なだけだった。事実、ロゼマリアが教える文字を読み、礼儀作法を身につけ始めている。

 何より感情を読むことに長けている。魔族らしい自分勝手で我が侭な面は強いが、他者を気遣う優しさも持っていた。もし貧富と同じ格差が教育に生まれれば、リリアーナは切り捨てられる側だろう。庇護する親がなく、毎日自ら狩りをして生きてきた。勉強に費やす時間があれば、狩りに精を出すのが当たり前……。

 貧しい家庭が欲しいものは、金ではない。衣食住が満ちたり、家族が飢えない環境だ。リシュヤの孤児院を参考に、貧しい家庭を支える施設を同時併設したらどうか。

 金を与えるのではなく、仕事を与える。自ら稼いだ金で家族を食わせることができれば、親は子を学ばせる余裕が出る。

 出世の見本となる者も不可欠だった。文官の中でも上位まで上り詰めた叩き上げがいれば、能力次第でいくらでも出世できる証拠となる。それを早めに提示することで、子に教育を受けさせる意義を親に理解させたい。

 曇って停滞していた考えがクリアになり、明確な目標ができた。ざばっとお湯から立ち上がると、リリアーナも慌てて抱きつく。

「お風呂でたら、一緒に寝る」

「仕事がある。後にしよう」

 ムッとした顔をしたものの、リリアーナはそれ以上何も言わなかった。
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