388 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
385.不正は根から排除しなくてはならぬ
しおりを挟む
吸血種の残虐さを理解しているつもりで、実際のところ分かっていなかった。青ざめたアガレスはふらふらと戻ってくる。止めても自分の目で見るまで納得しないだろうと好きにさせたが、妙なトラウマにならねばよいが。
口元を押さえて青ざめた宰相に眉を寄せ、オレは溜め息を吐いた。人間はぜい弱な種族だ。強かでずる賢い面も併せ持つが、ドラゴンの力強さもグリフォンの打たれ強さもない。力加減を間違えると潰しそうな彼は、少しすると崩れ落ちた床から立ち上がった。
「見苦しい様をお見せし申し訳ございません」
謝罪する余裕を持ち直し、静かに頭を下げる。ぽんと肩を叩いて気にするなと示し、文官が集う区域の廊下を先に進んだ。執務室を出たオレは、過去に処理された書類を数枚手にしていた。不自然な金の流れがいつから起きていたのかを調べるためだ。
手元にあった数週間分はアガレスとアスタルテが処理した。抜き出した不正の中に長期計画がかかわる書類が混じっていたのだ。それを追いかけなくては、不正を見逃してしまう。
過去にすでに失われ、取り返しがつかない金だとしても見逃す理由にはならなかった。公正な裁きは当然必要だが、公金は税金だ。徴収された民の血税を無駄に使うのは許されることではなく、失われた金額も補えばよい話ではなかった。
二度と同じ不正事件が起きぬよう、原因を調査する。複数の部署で確認しなくては承認されないシステムを作るのだ。もちろん完璧にこなせる者が1人ですべて管理すれば、人件費や無駄は大幅に削減できた。それは働く文官の仕事を奪い、人間の自立心をつぶす。
誰かに頼れば自分は働かなくても生きられる状況なら、魔族であれ人であれ働かくなるのは必然だった。多少の人件費の無駄は、チェック体制の強化と働く意欲や人間の生活の確保という部分に注げばよい。
集められる税金の一部は、王城に住まう者の生活費に充てられる。それは国民により王族が生かされるという意味だ。対価として王族は矢面に立ち、民を守る義務を負った。これらの仕組みを理解せぬ王は国を亡ぼす。
さかのぼった不正書類を手に執務室へ戻ったオレが椅子に座ると、リリアーナが足元に座った。ずっと無言で後ろに付き従った彼女は、慣れた様子で足元に絨毯を敷いて膝をつく。柔らかく毛足の長い絨毯にぺたりと足を開いて座り、機嫌よく尻尾の手入れを始めた。
金額を誤魔化したと思われる場所を特定し、印をつけていく。簡単だが面倒な作業が終わる頃、部屋はやや薄暗くなっていた。食事を抜いたと気づいた途端、足元のリリアーナを思い出す。確認すると横になり眠っていた。
長い金髪を床に散らし、大切そうに尻尾を抱きしめている。表情は微笑んだように柔らかく、その表情にオレの口元も緩んだ。起こすのは可哀想だが、夜に腹が減って目が覚めるのも嫌だろう。起こすと決めて立ち上がろうとして……なぜか、暗くなる部屋でしばらく彼女の寝顔を眺めていた。
口元を押さえて青ざめた宰相に眉を寄せ、オレは溜め息を吐いた。人間はぜい弱な種族だ。強かでずる賢い面も併せ持つが、ドラゴンの力強さもグリフォンの打たれ強さもない。力加減を間違えると潰しそうな彼は、少しすると崩れ落ちた床から立ち上がった。
「見苦しい様をお見せし申し訳ございません」
謝罪する余裕を持ち直し、静かに頭を下げる。ぽんと肩を叩いて気にするなと示し、文官が集う区域の廊下を先に進んだ。執務室を出たオレは、過去に処理された書類を数枚手にしていた。不自然な金の流れがいつから起きていたのかを調べるためだ。
手元にあった数週間分はアガレスとアスタルテが処理した。抜き出した不正の中に長期計画がかかわる書類が混じっていたのだ。それを追いかけなくては、不正を見逃してしまう。
過去にすでに失われ、取り返しがつかない金だとしても見逃す理由にはならなかった。公正な裁きは当然必要だが、公金は税金だ。徴収された民の血税を無駄に使うのは許されることではなく、失われた金額も補えばよい話ではなかった。
二度と同じ不正事件が起きぬよう、原因を調査する。複数の部署で確認しなくては承認されないシステムを作るのだ。もちろん完璧にこなせる者が1人ですべて管理すれば、人件費や無駄は大幅に削減できた。それは働く文官の仕事を奪い、人間の自立心をつぶす。
誰かに頼れば自分は働かなくても生きられる状況なら、魔族であれ人であれ働かくなるのは必然だった。多少の人件費の無駄は、チェック体制の強化と働く意欲や人間の生活の確保という部分に注げばよい。
集められる税金の一部は、王城に住まう者の生活費に充てられる。それは国民により王族が生かされるという意味だ。対価として王族は矢面に立ち、民を守る義務を負った。これらの仕組みを理解せぬ王は国を亡ぼす。
さかのぼった不正書類を手に執務室へ戻ったオレが椅子に座ると、リリアーナが足元に座った。ずっと無言で後ろに付き従った彼女は、慣れた様子で足元に絨毯を敷いて膝をつく。柔らかく毛足の長い絨毯にぺたりと足を開いて座り、機嫌よく尻尾の手入れを始めた。
金額を誤魔化したと思われる場所を特定し、印をつけていく。簡単だが面倒な作業が終わる頃、部屋はやや薄暗くなっていた。食事を抜いたと気づいた途端、足元のリリアーナを思い出す。確認すると横になり眠っていた。
長い金髪を床に散らし、大切そうに尻尾を抱きしめている。表情は微笑んだように柔らかく、その表情にオレの口元も緩んだ。起こすのは可哀想だが、夜に腹が減って目が覚めるのも嫌だろう。起こすと決めて立ち上がろうとして……なぜか、暗くなる部屋でしばらく彼女の寝顔を眺めていた。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる