384 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
381.恐怖を与えて心を折ることが目的だ
しおりを挟む
久しぶりの尋問だ、勘が鈍っていなければ良いが。懸念はそこにしかない。口を割らせるのに時間がかかるのは問題だが、逆を言えば尋問に失敗する心配はなかった。
エルフの尋問は180年前が最後か。懐かしいと表現するには近い出来事だった。目の前の牢に入った女は、硬く口を閉ざしている。絶対に話さないと決意したであろう、その口をこじ開けることに意味があった。
魔族が管理する城に侵入し、我々の隙をついてマルファスを操る。望むままに使った後は、頃合いを見計らって証拠隠滅を図った。その間、グリフォンやククル達は城にいた。つまり好き勝手に振る舞うエルフを、誰かが魔力で覆って隠したことになる。結界に触れずに入る方法も、すり抜けて歩き回る方法も、大体検討がつく。
複数人が絡んだ事件は、手段を選ばなければ犯人を自滅させることが出来た。それも大して難しくない方法で、だ。誰かが裏切れば疑心暗鬼になる。互いを疑い合うようになれば、自然と集団は崩壊してしまう。それは実体験に基づいた知識だった。
「名前は? 他の仲間は? なぜマルファスを狙った? 何を目的としていた?」
一度に尋ねたのは、どうせ答えないと分かっているからだ。無言が返り、口角が持ち上がった。
斜め後ろで鉄格子に寄り掛かるウラノスは、命じられるまで動かない。面倒なので一度に尋ねたが、これは形式に過ぎなかった。
「よかろう、口を割らせるのが私の仕事だ」
耐えられなくなればいつでも話せ。定番のセリフは不要だった。どうせ勝手に話し出すのだ。かつんと靴音をさせて、牢の鉄格子をすり抜けた。扉を開ける必要はない。身体の構造を変更すれば、何の魔力も持たない鉄格子など体を抜けた。
「っ!」
驚いた顔をするエルフの長い耳に、小さなピアスが2つ。左右に1つずつではなく、左のみ2つだった。飾りではない。その証拠はピアスの位置だった。根元付近の髪に隠れる位置だ。前髪を長くして左に寄せているのは、ピアスを隠すためだろう。
「そのピアス、もらうぞ」
身をよじろうとした女を魔力で縛る。足元の影から生まれた黒い紐は、螺旋を描いてエルフを拘束した。手足どころか、指すら動かせない。伸ばした指先で一度、耳に触れた。
こういう尋問や拷問は、出来るだけ恐怖心を煽るのが上級者だ。不審なピアスをすぐに千切るのは、手法として下の下だった。触れてゆっくり撫でる。それから耳に触れた手を離し、見えるように顔の前で爪を伸ばした。
鋭い爪は側面がナイフの刃のようだ。それでも切るのは下の上、まだまだ未熟者の手管だった。先程指先が触れた耳を爪で掠める。わずかに肌を裂いた爪に、赤い血がついた。
手元に引き寄せてゆっくり舌を這わせる。甘い、まだ若いエルフだった。多く見積もっても800年以内、怖いもの知らずの頃か。人間で例えるなら16歳前後だろう。
もう一度伸ばした爪で、耳と顔の間をそっとなぞる。ひやりと冷たい爪が触れた場所に、赤い線が滲んだ。その傷をもう一度撫でる。少しだけ深く切り、顔を痛みに歪めたエルフと視線を合わせた。
「この程度で顔を歪めるなど、尋問しがいがない」
わざと敵意を煽ってから、耳の先を摘んだ。
エルフの尋問は180年前が最後か。懐かしいと表現するには近い出来事だった。目の前の牢に入った女は、硬く口を閉ざしている。絶対に話さないと決意したであろう、その口をこじ開けることに意味があった。
魔族が管理する城に侵入し、我々の隙をついてマルファスを操る。望むままに使った後は、頃合いを見計らって証拠隠滅を図った。その間、グリフォンやククル達は城にいた。つまり好き勝手に振る舞うエルフを、誰かが魔力で覆って隠したことになる。結界に触れずに入る方法も、すり抜けて歩き回る方法も、大体検討がつく。
複数人が絡んだ事件は、手段を選ばなければ犯人を自滅させることが出来た。それも大して難しくない方法で、だ。誰かが裏切れば疑心暗鬼になる。互いを疑い合うようになれば、自然と集団は崩壊してしまう。それは実体験に基づいた知識だった。
「名前は? 他の仲間は? なぜマルファスを狙った? 何を目的としていた?」
一度に尋ねたのは、どうせ答えないと分かっているからだ。無言が返り、口角が持ち上がった。
斜め後ろで鉄格子に寄り掛かるウラノスは、命じられるまで動かない。面倒なので一度に尋ねたが、これは形式に過ぎなかった。
「よかろう、口を割らせるのが私の仕事だ」
耐えられなくなればいつでも話せ。定番のセリフは不要だった。どうせ勝手に話し出すのだ。かつんと靴音をさせて、牢の鉄格子をすり抜けた。扉を開ける必要はない。身体の構造を変更すれば、何の魔力も持たない鉄格子など体を抜けた。
「っ!」
驚いた顔をするエルフの長い耳に、小さなピアスが2つ。左右に1つずつではなく、左のみ2つだった。飾りではない。その証拠はピアスの位置だった。根元付近の髪に隠れる位置だ。前髪を長くして左に寄せているのは、ピアスを隠すためだろう。
「そのピアス、もらうぞ」
身をよじろうとした女を魔力で縛る。足元の影から生まれた黒い紐は、螺旋を描いてエルフを拘束した。手足どころか、指すら動かせない。伸ばした指先で一度、耳に触れた。
こういう尋問や拷問は、出来るだけ恐怖心を煽るのが上級者だ。不審なピアスをすぐに千切るのは、手法として下の下だった。触れてゆっくり撫でる。それから耳に触れた手を離し、見えるように顔の前で爪を伸ばした。
鋭い爪は側面がナイフの刃のようだ。それでも切るのは下の上、まだまだ未熟者の手管だった。先程指先が触れた耳を爪で掠める。わずかに肌を裂いた爪に、赤い血がついた。
手元に引き寄せてゆっくり舌を這わせる。甘い、まだ若いエルフだった。多く見積もっても800年以内、怖いもの知らずの頃か。人間で例えるなら16歳前後だろう。
もう一度伸ばした爪で、耳と顔の間をそっとなぞる。ひやりと冷たい爪が触れた場所に、赤い線が滲んだ。その傷をもう一度撫でる。少しだけ深く切り、顔を痛みに歪めたエルフと視線を合わせた。
「この程度で顔を歪めるなど、尋問しがいがない」
わざと敵意を煽ってから、耳の先を摘んだ。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる