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第11章 戦より儘ならぬもの

381.恐怖を与えて心を折ることが目的だ

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 久しぶりの尋問だ、勘が鈍っていなければ良いが。懸念はそこにしかない。口を割らせるのに時間がかかるのは問題だが、逆を言えば尋問に失敗する心配はなかった。

 エルフの尋問は180年前が最後か。懐かしいと表現するには近い出来事だった。目の前の牢に入った女は、硬く口を閉ざしている。絶対に話さないと決意したであろう、その口をこじ開けることに意味があった。

 魔族が管理する城に侵入し、我々の隙をついてマルファスを操る。望むままに使った後は、頃合いを見計らって証拠隠滅を図った。その間、グリフォンやククル達は城にいた。つまり好き勝手に振る舞うエルフを、誰かが魔力で覆って隠したことになる。結界に触れずに入る方法も、すり抜けて歩き回る方法も、大体検討がつく。

 複数人が絡んだ事件は、手段を選ばなければ犯人を自滅させることが出来た。それも大して難しくない方法で、だ。誰かが裏切れば疑心暗鬼になる。互いを疑い合うようになれば、自然と集団は崩壊してしまう。それは実体験に基づいた知識だった。

「名前は? 他の仲間は? なぜマルファスを狙った? 何を目的としていた?」

 一度に尋ねたのは、どうせ答えないと分かっているからだ。無言が返り、口角が持ち上がった。

 斜め後ろで鉄格子に寄り掛かるウラノスは、命じられるまで動かない。面倒なので一度に尋ねたが、これは形式に過ぎなかった。

「よかろう、口を割らせるのが私の仕事だ」

 耐えられなくなればいつでも話せ。定番のセリフは不要だった。どうせ勝手に話し出すのだ。かつんと靴音をさせて、牢の鉄格子をすり抜けた。扉を開ける必要はない。身体の構造を変更すれば、何の魔力も持たない鉄格子など体を抜けた。

「っ!」

 驚いた顔をするエルフの長い耳に、小さなピアスが2つ。左右に1つずつではなく、左のみ2つだった。飾りではない。その証拠はピアスの位置だった。根元付近の髪に隠れる位置だ。前髪を長くして左に寄せているのは、ピアスを隠すためだろう。

「そのピアス、もらうぞ」

 身をよじろうとした女を魔力で縛る。足元の影から生まれた黒い紐は、螺旋を描いてエルフを拘束した。手足どころか、指すら動かせない。伸ばした指先で一度、耳に触れた。

 こういう尋問や拷問は、出来るだけ恐怖心を煽るのが上級者だ。不審なピアスをすぐに千切るのは、手法として下の下だった。触れてゆっくり撫でる。それから耳に触れた手を離し、見えるように顔の前で爪を伸ばした。

 鋭い爪は側面がナイフの刃のようだ。それでも切るのは下の上、まだまだ未熟者の手管だった。先程指先が触れた耳を爪で掠める。わずかに肌を裂いた爪に、赤い血がついた。

 手元に引き寄せてゆっくり舌を這わせる。甘い、まだ若いエルフだった。多く見積もっても800年以内、怖いもの知らずの頃か。人間で例えるなら16歳前後だろう。

 もう一度伸ばした爪で、耳と顔の間をそっとなぞる。ひやりと冷たい爪が触れた場所に、赤い線が滲んだ。その傷をもう一度撫でる。少しだけ深く切り、顔を痛みに歪めたエルフと視線を合わせた。

「この程度で顔を歪めるなど、尋問しがいがない」

 わざと敵意を煽ってから、耳の先を摘んだ。
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