382 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
379.危険を冒しても取り戻す
しおりを挟む
執務室の脇にある仮眠用の長椅子に放り出され、時々思い出したように双子が顔を覗く。顔はそっくりだが、仕草や言動の違いから区別はついた。バアルが口を開かせ、アナトが慣れた手つきで試験薬を流し入れる。
本人達が「試験薬だけどいいよね」と口にしていたから、半分は実験なのだろうと思った。普段なら文句のひとつも口にするが、身動きできない現状、受け入れるしかない。
そもそも魔王様が止めないなら、他に方法はないと思う。苦くも辛くもない液体は、薄い赤だった。少し塩気があるかも知れない。そう感じたのは3回目くらいか。次に飲んだ時は、飲み終えた口の中に甘さを感じた。
「危険だけど、安全策ばかりじゃ負けちゃうよね~」
何に対して負けるのか不明だが、双子の言い分も一理ある。そんな風に思考する余裕が出てきた。考えが散漫になることもなく、投薬の記憶もちゃんと残っている。
徐々に戻っている感覚に、試験薬の効果を知る。これは凄い。魔族だからただの子供と思わなかったが、優秀だった。魔王様が信頼するのも当然だ。
双子が来た時、瞬きで合図を送ってみた。気づいたのは押さえていたバアルだ。
「ねえ、動いたよ」
「瞬きなら前からするわ」
「そうじゃなくて、ほら。瞬きで合図してる」
「どれどれ……」
アナトが覗き込み、目の前で手を開いたり閉じたりした。それに合わせて瞬きを意図的に早くする。目を輝かせた双子は手を叩いて喜んだ。
「言葉が通じてるかも!」
「やっぱり生きてたじゃない」
誰かが俺はもう死んだと言ったのか? まあ、大した反応がないから死人みたいに見えるだろう。脳はまだ生きてるぞ。そう示すために目玉を動かす。ぎこちなくて痛いんだが、動いた。
「まだ無理しない方がいいよ。神経切れるかも知れないし」
恐ろしい予測を口にしたアナトは、ふーんと鼻を鳴らして考え込んだ。
「話が出来るか、試してみようよ」
バアルは嬉しそうに覗き、俺の気を引く。そちらに視線を合わせると、ゆっくり言い聞かされた。
「うんは1回、いいえは2回――出来そう?」
1回だけ瞬きする。それから視線を逸らして、乾いた目を潤す瞬きをした。
「通じてる! えっと、マルファスを襲ったのはエルフでしょ? 耳がヴィネみたいな女性で、たぶん顔はまあまあ綺麗だと思うけど」
また視線を合わせて瞬きを1回。
エルフ族は外見が整っている者が主流だ。理由はよくわからないが、人間に迫害されにくくする目的があって顔を似せた説が有力だった。お茶菓子と引き換えに、ウラノスから聞いた情報を思い出す。魔族についての知識を深めようと、甘いものが好きなウラノスと親しくした。
「記憶落ちの実を食べた?」
「バアル、それは無理よ。だって彼は記憶落ちの実を知らないもの。何か種子みたいなの、食べさせられなかった? 苦くてまずいのよ」
大きさを指で示しながらアナトが質問を変更する。上乗せされた内容に同意する意味で、瞬きを1回した。大喜びで手を叩く双子の様子に、部屋にいたアガレスが近づく。
視線を合わせると、驚いた様子で飛び退った。よほど驚かせたらしい。次に視界に入った宰相は目を潤ませ、よかったと呟いた。
本人達が「試験薬だけどいいよね」と口にしていたから、半分は実験なのだろうと思った。普段なら文句のひとつも口にするが、身動きできない現状、受け入れるしかない。
そもそも魔王様が止めないなら、他に方法はないと思う。苦くも辛くもない液体は、薄い赤だった。少し塩気があるかも知れない。そう感じたのは3回目くらいか。次に飲んだ時は、飲み終えた口の中に甘さを感じた。
「危険だけど、安全策ばかりじゃ負けちゃうよね~」
何に対して負けるのか不明だが、双子の言い分も一理ある。そんな風に思考する余裕が出てきた。考えが散漫になることもなく、投薬の記憶もちゃんと残っている。
徐々に戻っている感覚に、試験薬の効果を知る。これは凄い。魔族だからただの子供と思わなかったが、優秀だった。魔王様が信頼するのも当然だ。
双子が来た時、瞬きで合図を送ってみた。気づいたのは押さえていたバアルだ。
「ねえ、動いたよ」
「瞬きなら前からするわ」
「そうじゃなくて、ほら。瞬きで合図してる」
「どれどれ……」
アナトが覗き込み、目の前で手を開いたり閉じたりした。それに合わせて瞬きを意図的に早くする。目を輝かせた双子は手を叩いて喜んだ。
「言葉が通じてるかも!」
「やっぱり生きてたじゃない」
誰かが俺はもう死んだと言ったのか? まあ、大した反応がないから死人みたいに見えるだろう。脳はまだ生きてるぞ。そう示すために目玉を動かす。ぎこちなくて痛いんだが、動いた。
「まだ無理しない方がいいよ。神経切れるかも知れないし」
恐ろしい予測を口にしたアナトは、ふーんと鼻を鳴らして考え込んだ。
「話が出来るか、試してみようよ」
バアルは嬉しそうに覗き、俺の気を引く。そちらに視線を合わせると、ゆっくり言い聞かされた。
「うんは1回、いいえは2回――出来そう?」
1回だけ瞬きする。それから視線を逸らして、乾いた目を潤す瞬きをした。
「通じてる! えっと、マルファスを襲ったのはエルフでしょ? 耳がヴィネみたいな女性で、たぶん顔はまあまあ綺麗だと思うけど」
また視線を合わせて瞬きを1回。
エルフ族は外見が整っている者が主流だ。理由はよくわからないが、人間に迫害されにくくする目的があって顔を似せた説が有力だった。お茶菓子と引き換えに、ウラノスから聞いた情報を思い出す。魔族についての知識を深めようと、甘いものが好きなウラノスと親しくした。
「記憶落ちの実を食べた?」
「バアル、それは無理よ。だって彼は記憶落ちの実を知らないもの。何か種子みたいなの、食べさせられなかった? 苦くてまずいのよ」
大きさを指で示しながらアナトが質問を変更する。上乗せされた内容に同意する意味で、瞬きを1回した。大喜びで手を叩く双子の様子に、部屋にいたアガレスが近づく。
視線を合わせると、驚いた様子で飛び退った。よほど驚かせたらしい。次に視界に入った宰相は目を潤ませ、よかったと呟いた。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
異世界転移して5分で帰らされた帰宅部 帰宅魔法で現世と異世界を行ったり来たり
細波みずき
ファンタジー
異世界転移して5分で帰らされた男、赤羽。家に帰るとテレビから第4次世界大戦の発令のニュースが飛び込む。第3次すらまだですけど!?
チートスキル「帰宅」で現世と異世界を行ったり来たり!?
「帰宅」で世界を救え!
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる