376 / 438
第11章 戦より儘ならぬもの
373.子供が大人を頼れぬのは、大人の不手際だ
しおりを挟む
「母は私を守るつもりで黒竜王アルシエルに預けましたが……」
ちらりとアルシエルに視線をむけ、幼女は俯いた。金髪に緑を混ぜたような複雑な色の髪と目を持つイシェトが溜め息をついた。
「能力に見合わぬ地位でも、皆はアルシエルに気を遣って私を魔王として崇めてくれました。でも主君にしたい人が彼に現れたなら、と私は魔王を降りました。分不相応な立場は手に余ります」
幼子の口調にしてはしっかりしている。外見は子供だが、出会った頃のウラノスと同じで年齢を重ねていた証拠だろう。
「それでこの城に来たのか」
「はい。見ての通り、私の魔力はほとんど使えません。夢魔の魔力は、夢の中でしか作用しないからです。そのため狙われない場所に逃げ込みました。保護を求めます」
きょとんとした顔で双子は顔を見合わせた。そこへククルが飛び込んでくる。回復のための眠りはもう足りたのか。尋ねるオレの視線に、彼女は大きく頷いた。
イシェトに近づき、躊躇なく手を握る。
「この子が回復を手伝ってくれた。役に立つよ」
夢の中で状況を知ったククルが断言したことで、アスタルテが警戒を緩める。彼女にとって家族に等しい双子とククルへの信頼故だ。時間のかかるククルの回復に協力したなら、そこは評価すべきだった。
「記憶落ちの実はお前が持ち込んだのか?」
刺激臭がする実に触れたのは確かだ。そうでなければ双子がこの子供を見つけ出す理由がない。
「正確には弄っただけ」
持ち込んだのは別の者だけど、実に触れた。言われた内容を真っ直ぐに受け止めると、今回の事件に彼女は後から関与した形になる。
「話せ」
アルシエルが困ったようにオレとイシェトを見つめ、リリアーナは牙を剥いて威嚇を続ける。気を利かせたアスタルテが、執務室のソファにイシェトと双子を座らせた。その向かいにククルが座り、アスタルテはこちらに戻ってくる。
「記憶落ちの実は刺激臭がする。その臭いを纏うエルフの侵入に気づきました。偶然ですが離宮前で他の子供と一緒にいた時にすれ違い、気になったので後を追ったのです。人間を捕まえて話しかけ口付ける。数人繰り返していました」
「なぜ、その時に言わなかった」
アスタルテが鋭い声で指摘した。イシェトは落ち着いた様子で切り返す。
「こんな魔力もない子供の言葉、聞いてもらえるのですか。夢を見たと片付けたでしょう」
問いかけではなく、確定した言い方は彼女がそういった扱いを受けてきた証拠だ。この城に来る前の幼少時から、弱い種族である彼女は口を噤むことが生き残る術だった。
「我が庇護下に入る気ならば覚えておくが良い。差別はさせない。何かあれば、誰でもいいから大人を頼れ」
驚いたように目を見開いたイシェトが、困った様子で俯き……少しして小さく頷いた。それから提案するように切り出す。
「私はあのエルフに夢を繋いだ。居場所がわかるから協力する」
「アスタルテ、アルシエル。任せる」
「承知」
「承ります」
一礼して2人へ駆け寄ったイシェトは両手を繋いで、嬉しそうに消えた。転移を見送って、ようやくリリアーナが肩の力を抜く。
「それほど気に入らぬか?」
「……あの子のせいだもん」
複雑な親子関係を匂わせるリリアーナの本音は、オレには理解できない。だから宥めるように頭を撫でた。
ちらりとアルシエルに視線をむけ、幼女は俯いた。金髪に緑を混ぜたような複雑な色の髪と目を持つイシェトが溜め息をついた。
「能力に見合わぬ地位でも、皆はアルシエルに気を遣って私を魔王として崇めてくれました。でも主君にしたい人が彼に現れたなら、と私は魔王を降りました。分不相応な立場は手に余ります」
幼子の口調にしてはしっかりしている。外見は子供だが、出会った頃のウラノスと同じで年齢を重ねていた証拠だろう。
「それでこの城に来たのか」
「はい。見ての通り、私の魔力はほとんど使えません。夢魔の魔力は、夢の中でしか作用しないからです。そのため狙われない場所に逃げ込みました。保護を求めます」
きょとんとした顔で双子は顔を見合わせた。そこへククルが飛び込んでくる。回復のための眠りはもう足りたのか。尋ねるオレの視線に、彼女は大きく頷いた。
イシェトに近づき、躊躇なく手を握る。
「この子が回復を手伝ってくれた。役に立つよ」
夢の中で状況を知ったククルが断言したことで、アスタルテが警戒を緩める。彼女にとって家族に等しい双子とククルへの信頼故だ。時間のかかるククルの回復に協力したなら、そこは評価すべきだった。
「記憶落ちの実はお前が持ち込んだのか?」
刺激臭がする実に触れたのは確かだ。そうでなければ双子がこの子供を見つけ出す理由がない。
「正確には弄っただけ」
持ち込んだのは別の者だけど、実に触れた。言われた内容を真っ直ぐに受け止めると、今回の事件に彼女は後から関与した形になる。
「話せ」
アルシエルが困ったようにオレとイシェトを見つめ、リリアーナは牙を剥いて威嚇を続ける。気を利かせたアスタルテが、執務室のソファにイシェトと双子を座らせた。その向かいにククルが座り、アスタルテはこちらに戻ってくる。
「記憶落ちの実は刺激臭がする。その臭いを纏うエルフの侵入に気づきました。偶然ですが離宮前で他の子供と一緒にいた時にすれ違い、気になったので後を追ったのです。人間を捕まえて話しかけ口付ける。数人繰り返していました」
「なぜ、その時に言わなかった」
アスタルテが鋭い声で指摘した。イシェトは落ち着いた様子で切り返す。
「こんな魔力もない子供の言葉、聞いてもらえるのですか。夢を見たと片付けたでしょう」
問いかけではなく、確定した言い方は彼女がそういった扱いを受けてきた証拠だ。この城に来る前の幼少時から、弱い種族である彼女は口を噤むことが生き残る術だった。
「我が庇護下に入る気ならば覚えておくが良い。差別はさせない。何かあれば、誰でもいいから大人を頼れ」
驚いたように目を見開いたイシェトが、困った様子で俯き……少しして小さく頷いた。それから提案するように切り出す。
「私はあのエルフに夢を繋いだ。居場所がわかるから協力する」
「アスタルテ、アルシエル。任せる」
「承知」
「承ります」
一礼して2人へ駆け寄ったイシェトは両手を繋いで、嬉しそうに消えた。転移を見送って、ようやくリリアーナが肩の力を抜く。
「それほど気に入らぬか?」
「……あの子のせいだもん」
複雑な親子関係を匂わせるリリアーナの本音は、オレには理解できない。だから宥めるように頭を撫でた。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~
薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。
【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】
そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる