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第10章 覇王を追撃する闇

356.いつまで待たせる気だ、早くしろ

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「我が君、これらは我が……」

「遊んでくるね」

 マルコシアスが魔獣の駆除を申し出たが、その前にリリアーナが勢いよく駆け出した。

「ちょ! 待って、リリー」

「手伝うよ」

 アナトとバアルが後を追ったので、好きにさせる。見つけた魔獣に蹴りを放ち、動かなくなった獲物の上に殴った熊を放り投げる。集まった猛獣と魔獣を片手間に片付けるリリアーナはイキイキとしており、アナトは小さな魔法陣を剣代わりに振り回していた。すぱっと切れる魔法陣は放り投げても使えるらしく、ブーメランのように戻ってくる機能付きだった。

 研究職を自称するため戦場に立つことは少ないが、アナトの戦闘力は高い。ここらの魔獣に遅れを取る心配はなかった。バアルが一緒にいれば、あの双子に傷を負わせる敵はいない。

「……あっちのエルフは俺が片付ける」

 この場は問題ないと判断し、あの双子に近づく危険性を理解しているヴィネが、自分の役割を決めて森へ走った。あっという間に森に紛れて、気配が薄くなる。ハイエルフとして生まれ持った能力だった。2人のエルフを相手取っても負ける心配は不要だろう。

「いかがいたしますか」

 排除対象はまだ残っている。そう告げるアルシエルの瞳は好戦的に輝く。任せて欲しい、雄弁な表情に頷いた。

「よかろう、お前に任せる」

「承知いたしました。ありがたき幸せ」

 倒す許可を喜んだ黒竜王は人化して、湖の上を歩く。エルフのように水を足場とするのではなく、僅かに浮いた足元がかつんと音を立てた。魔力を水面に張ったらしい。結界の応用だった。戦い慣れた経験から導き出した方法か。

 移動中に攻撃されても対応できる形を取るあたり、油断は見られない。前魔王の側近として名を馳せた男は、大地に足をつけると一気に加速した。

「……出番がなくなりましたな」

 残念そうなマルコシアスだが、オレは上空を見上げて肩を竦める。

「いや、まだ来るぞ」

 離れた場所から急速に近づく魔力が2つ。森に潜む者より明らかに強い。それがオレを目指していた。

 ぶわっとマントが風を孕んで膨らむ。見上げた先の大木が大きく揺れた。

 ぐるるるっ、喉を鳴らして唸ったマルコシアスが威嚇の姿勢を取る。首周りの白い毛を撫でて一歩前に出た。同時に後ろの茂みが揺れて、慣れた気配が飛び込む。

「マーナガルム、マルコシアスと共に待て」

 以前より一回り大きく成長した灰色狼は、素直に頭を下げた。頭を地面に押し当て、敬意を示して後ろに控える。数歩下がったマルコシアスも隣で伏せた。

「いつまで待たせる気だ」

 愛用の剣は使えぬため、別の剣を取り出す。こちらはかつて戦った魔王の側近で、剛腕を誇る男が使ったものだ。大きくて重いので好ましくないが、使えなくもない。この程度の敵に武器を選ぶ必要もなかった。

 無礼にも頭上から見下ろす2つの人影は、背に翼を広げていた。種族はよくわからぬが、魔力量を圧縮して隠しているのは間違いない。

「早くしろ」

 吐き捨てた声に、魔力を乗せて叩き落とした。
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