上 下
356 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

354.一目惚れだと? 誰にだ

しおりを挟む
 リリアーナが起きあがろうとして動きを止めた。少し考えて、再び膝の上に頭を下ろす。足を組んでいるため、寝心地は悪いだろうに。

 オレを見上げながら、ぱくっと口を開けた。

「あーん」

 これが最強種の黒竜の娘か。他者の手で餌を与えられることを望むとは、覇者の血筋の自覚が足りぬ。叱ろうと口を開き、言葉を飲み込んだ。魔獣を含め、本能を優先する竜やグリフォンのような獣型を持つ種族は、給餌行為を愛情表現とする。

 ……これはその一端か?

 未婚の雌であるリリアーナに与えてしまえば、この娘は嫁ぎ先がなくなってしまう。ただでさえ初対面で辱めてしまったのだから、これ以上の傷は嫁入りに差し支えるだろう。

 与えてもらえないと気づき、リリアーナが唇を尖らせる。不満そうに見上げた後、思いついたように言葉を発した。

「あのね、私も一目惚れだよ」

「誰にだ?」

 突然の話に目を見開く。リリアーナの話が唐突なのはいつものことだが、なぜか話の前後が気になって問い返していた。

 しかし、頭にふと飛び込んだのは攻撃されるイメージだ。リリアーナに問うた言葉すら忘れ、意識を集中する。

「攻撃? 愚かな……」

 戦いの際に乱れた魔力が正常に戻ったため、眷族とした巨狼マルコシアスの怒りが伝わる。危険を察知した息子のマーナガルムが駆けつけるまで、まだ少しかかるか。

 グリュポスの跡地にできた森と川の流れを管理させた魔獣の危機に、主君が動かぬわけにいかない。

「攻撃されたの?」

 飛び起きたリリアーナが尻尾で床を叩く。好戦的に煌めく琥珀の瞳の少女は、机の上の果物を掴み牙を立てて噛み付いた。気持ちが昂っているのだろう。林檎に似た果実から溢れた汁が腕を伝うのを、ぺろりと舌で舐めとった。

 ロゼマリアから行儀作法を学んでいるはずだが、今までの生活環境が染み付いて、行動の基準になっている。無理に矯正する必要もないため、オレは咎めなかった。

 魔族がいくら気取って貴族のフリをしたところで、本性は血に飢えた獣と変わらぬ。

「ご報告申し上げます! 魔族の一部がグリュポスの森に攻撃を……っ!」

「わかっている。行くぞ」

「私も!」

 慌ててしがみつくリリアーナを連れ、中庭へ移動する。黒竜王アルシエルが竜化して待っていた。

「我が背にお乗りください」

 先の戦いで魔力の消耗が激しかったウラノスは残し、アスタルテも城の守りに残す。ククルは使いすぎた魔力の所為で動かせなかった。ならばリリアーナと2人でもよいか。

「一緒に行くよ」

「僕も! 久しぶりに遊びたいし」

「俺も役に立つから!!」

 双子神が名乗りをあげ、続いてヴィネも手を挙げた。その間にリリアーナが竜化して、中庭の砂の上に伏せる。

「サタン様は私が乗せる!」

「……ならば、他の者はアルシエルに乗れ」

 意気込んだリリアーナに否定すると拗ねて面倒だ。だが全員を乗せる余裕はない。妥協案を提示されたアルシエルは、不満そうに喉を鳴らしたものの表立って反論しなかった。

 舞い上がる黒竜の親子を見送りながら、アスタルテが溜め息をついた。

「いつになったら自覚するのかしらね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...