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第10章 覇王を追撃する闇
354.一目惚れだと? 誰にだ
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リリアーナが起きあがろうとして動きを止めた。少し考えて、再び膝の上に頭を下ろす。足を組んでいるため、寝心地は悪いだろうに。
オレを見上げながら、ぱくっと口を開けた。
「あーん」
これが最強種の黒竜の娘か。他者の手で餌を与えられることを望むとは、覇者の血筋の自覚が足りぬ。叱ろうと口を開き、言葉を飲み込んだ。魔獣を含め、本能を優先する竜やグリフォンのような獣型を持つ種族は、給餌行為を愛情表現とする。
……これはその一端か?
未婚の雌であるリリアーナに与えてしまえば、この娘は嫁ぎ先がなくなってしまう。ただでさえ初対面で辱めてしまったのだから、これ以上の傷は嫁入りに差し支えるだろう。
与えてもらえないと気づき、リリアーナが唇を尖らせる。不満そうに見上げた後、思いついたように言葉を発した。
「あのね、私も一目惚れだよ」
「誰にだ?」
突然の話に目を見開く。リリアーナの話が唐突なのはいつものことだが、なぜか話の前後が気になって問い返していた。
しかし、頭にふと飛び込んだのは攻撃されるイメージだ。リリアーナに問うた言葉すら忘れ、意識を集中する。
「攻撃? 愚かな……」
戦いの際に乱れた魔力が正常に戻ったため、眷族とした巨狼マルコシアスの怒りが伝わる。危険を察知した息子のマーナガルムが駆けつけるまで、まだ少しかかるか。
グリュポスの跡地にできた森と川の流れを管理させた魔獣の危機に、主君が動かぬわけにいかない。
「攻撃されたの?」
飛び起きたリリアーナが尻尾で床を叩く。好戦的に煌めく琥珀の瞳の少女は、机の上の果物を掴み牙を立てて噛み付いた。気持ちが昂っているのだろう。林檎に似た果実から溢れた汁が腕を伝うのを、ぺろりと舌で舐めとった。
ロゼマリアから行儀作法を学んでいるはずだが、今までの生活環境が染み付いて、行動の基準になっている。無理に矯正する必要もないため、オレは咎めなかった。
魔族がいくら気取って貴族のフリをしたところで、本性は血に飢えた獣と変わらぬ。
「ご報告申し上げます! 魔族の一部がグリュポスの森に攻撃を……っ!」
「わかっている。行くぞ」
「私も!」
慌ててしがみつくリリアーナを連れ、中庭へ移動する。黒竜王アルシエルが竜化して待っていた。
「我が背にお乗りください」
先の戦いで魔力の消耗が激しかったウラノスは残し、アスタルテも城の守りに残す。ククルは使いすぎた魔力の所為で動かせなかった。ならばリリアーナと2人でもよいか。
「一緒に行くよ」
「僕も! 久しぶりに遊びたいし」
「俺も役に立つから!!」
双子神が名乗りをあげ、続いてヴィネも手を挙げた。その間にリリアーナが竜化して、中庭の砂の上に伏せる。
「サタン様は私が乗せる!」
「……ならば、他の者はアルシエルに乗れ」
意気込んだリリアーナに否定すると拗ねて面倒だ。だが全員を乗せる余裕はない。妥協案を提示されたアルシエルは、不満そうに喉を鳴らしたものの表立って反論しなかった。
舞い上がる黒竜の親子を見送りながら、アスタルテが溜め息をついた。
「いつになったら自覚するのかしらね」
オレを見上げながら、ぱくっと口を開けた。
「あーん」
これが最強種の黒竜の娘か。他者の手で餌を与えられることを望むとは、覇者の血筋の自覚が足りぬ。叱ろうと口を開き、言葉を飲み込んだ。魔獣を含め、本能を優先する竜やグリフォンのような獣型を持つ種族は、給餌行為を愛情表現とする。
……これはその一端か?
未婚の雌であるリリアーナに与えてしまえば、この娘は嫁ぎ先がなくなってしまう。ただでさえ初対面で辱めてしまったのだから、これ以上の傷は嫁入りに差し支えるだろう。
与えてもらえないと気づき、リリアーナが唇を尖らせる。不満そうに見上げた後、思いついたように言葉を発した。
「あのね、私も一目惚れだよ」
「誰にだ?」
突然の話に目を見開く。リリアーナの話が唐突なのはいつものことだが、なぜか話の前後が気になって問い返していた。
しかし、頭にふと飛び込んだのは攻撃されるイメージだ。リリアーナに問うた言葉すら忘れ、意識を集中する。
「攻撃? 愚かな……」
戦いの際に乱れた魔力が正常に戻ったため、眷族とした巨狼マルコシアスの怒りが伝わる。危険を察知した息子のマーナガルムが駆けつけるまで、まだ少しかかるか。
グリュポスの跡地にできた森と川の流れを管理させた魔獣の危機に、主君が動かぬわけにいかない。
「攻撃されたの?」
飛び起きたリリアーナが尻尾で床を叩く。好戦的に煌めく琥珀の瞳の少女は、机の上の果物を掴み牙を立てて噛み付いた。気持ちが昂っているのだろう。林檎に似た果実から溢れた汁が腕を伝うのを、ぺろりと舌で舐めとった。
ロゼマリアから行儀作法を学んでいるはずだが、今までの生活環境が染み付いて、行動の基準になっている。無理に矯正する必要もないため、オレは咎めなかった。
魔族がいくら気取って貴族のフリをしたところで、本性は血に飢えた獣と変わらぬ。
「ご報告申し上げます! 魔族の一部がグリュポスの森に攻撃を……っ!」
「わかっている。行くぞ」
「私も!」
慌ててしがみつくリリアーナを連れ、中庭へ移動する。黒竜王アルシエルが竜化して待っていた。
「我が背にお乗りください」
先の戦いで魔力の消耗が激しかったウラノスは残し、アスタルテも城の守りに残す。ククルは使いすぎた魔力の所為で動かせなかった。ならばリリアーナと2人でもよいか。
「一緒に行くよ」
「僕も! 久しぶりに遊びたいし」
「俺も役に立つから!!」
双子神が名乗りをあげ、続いてヴィネも手を挙げた。その間にリリアーナが竜化して、中庭の砂の上に伏せる。
「サタン様は私が乗せる!」
「……ならば、他の者はアルシエルに乗れ」
意気込んだリリアーナに否定すると拗ねて面倒だ。だが全員を乗せる余裕はない。妥協案を提示されたアルシエルは、不満そうに喉を鳴らしたものの表立って反論しなかった。
舞い上がる黒竜の親子を見送りながら、アスタルテが溜め息をついた。
「いつになったら自覚するのかしらね」
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