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第10章 覇王を追撃する闇

340.子供は素直で時に残酷なもの

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 同行を許されなかった。不満そうに呟く双子は、ロゼマリアの部屋に押しかけている。

「あなた達、帰りなさい。邪魔よ」

 追い払おうとするオリヴィエラは、はっきり物を言う。ロゼマリアはすべて受け入れる態勢で、両手を広げて待っていてくれる。子供のまま長い時間を過ごすアナトとバアルにとって、どちらも居心地がよかった。

 そのため入り浸って帰ろうとしない。ロゼマリアの護衛を兼ねたヘルハウンドは、おとなしく足元に寝そべっていた。片方の頭が起きているとき、もう片方は寝ていることが多い。かつて飼っていたペットを思い出し、懐かしさに双子は頬を緩める。

「私達もヘルハウンド飼ったことあるわ」

「あの子はいい子だったね」

 思い出に浸る姿に、どうやら帰る気はないとオリヴィエラが肩を落とす。後宮は本来王女が住まう部屋などない。そのため王宮から部屋を引っ越してきた。その際に隣にちゃっかり自室を分取ったオリヴィエラだが、この状況で自室に戻る気はない。ロゼマリアの隣に張り付き、存在をアピールした。

「ねえ、どうしてロゼマリアとオリヴィエラは仲良しなの?」

「種族違うよね」

 魔族同士ならわかる。別種族でも仲良く過ごす夫婦を見たことがあった。しかし人間は違いすぎる。ペットのヘルハウンドより早く死んでしまうし、脆くて壊れやすい。

 一時仲良くしても、思い出して会いに行ったら寿命で死んでいることも少なくない。一夏の蝶のような存在に、グリフォンがそこまで固執した理由が気になった。

 他にすることもない状況で、双子は純粋で幼い興味に素直だ。気になれば真っ直ぐに尋ねるのは、リリアーナやクリスティーヌも含めた魔族の特性だろう。幼少時はその傾向が強い。

「種族が違っても性格が合えば仲よくなれます」

 穏やかにそう告げるロゼマリアに、「ローザと呼んでください」と言われた双子は顔を見合わせた。

「私達も呼び捨てでいいよ」

 侍女のエマがお茶を用意して、離れた壁際に下がった。お菓子を遠慮なく齧りながら居座る子供達に遠慮の二文字はない。

「ローザは王女でしょう? なんでサタン様に従うの」

「国を乗っ取られた形じゃない」

 思いもかけぬ指摘に、ロゼマリアは考える。確かに言われてみればそうだ。父親や家臣は刃向かい、投獄された。その後ウラノスに処分されたけれど……泣いたのはあの日だけ。ちらりと隣のオリヴィエラを窺う。

「私は嫁いで血を繋ぐだけの道具だったから、かしら」

 聖女の血筋と言われる王家の血を継ぐ、生きた人形だった。その状況が当たり前すぎて、抵抗する考えもなかった。人格は否定され、行う慈善事業も偽善だと罵られる。それが当たり前だった過去を思い、隣にいる友人の存在に頬を緩めた。向かいで無邪気に笑う彼と彼女も、救われた多くの孤児との交流も……すべてが新鮮で居心地がいい。

「ローザはサタン様の側妃になりたい?」

「……そうね、肩書きだけでいいのだけれど」

「なら取引すればいいよ」

 双子神はにっこり笑って、余計な知恵を授け始めた。
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