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第10章 覇王を追撃する闇
336.僕の全魔力を持っていけ!
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「ククルがやる?」
「そうだね」
アナトは魔法陣を描きながら尋ねる。普段は使わない魔法陣であるため、持ち歩いていない。理論を構築しながら、体内の不純物を選別破壊する陣を描いた。空中に作り出した円は歪だ。整える前はこんなものだろう。
「ここは、壊す意味を込めてこっちの文字が」
バアルが唸りながら指摘する。指先で書いた魔法文字を妹に渡した。なるほどと納得したアナトが置き換える。その隣で眉を寄せたアスタルテが口出しした。
「この模様はまずい。私の血が反応するぞ」
「あれ? 治療にアスタルテの血を使ったの?! じゃあ、こっちも直さなくちゃ」
アナトは大急ぎで複数箇所の変更を行った。彼女らを信頼するオレは任せて手出ししない。失った血のせいで疲れた身体を椅子に預けると、泣きながらリリアーナが傷口を撫でた。
「ひどい、切ったの誰」
「私だ」
この場で名乗り出なくても良かろう。そんな顔をしたが、アスタルテはさらりと無視した。唸るリリアーナに説明する。
「あのまま放置すれば腕から侵入された。オレが乗っ取られてもいいのか?」
「やだ! でも腕取られたのもやだぁ!!」
子供らしい理屈だ。どちらも納得できない。己の欲望に素直なリリアーナだが、アスタルテを恨むのは筋違いと理解したらしい。ぐずぐず鼻を啜りながら、ずっと傷口を撫で続けた。すでに痛みなどないが、彼女の魔力は心地よい。
振り払わず好きにさせるオレの耳に、ひそひそと子供達の声が届く。
「やっぱり、サタン様はリリーに甘いよね」
「絶対に好きだと思う」
「えええ? そうかな。まだ恋愛未満じゃない?」
「養い子に甘いもんね」
判断に困ると言い合いながら、それでも手元はずっと動いている。最後にククルがチェックして頷いた。
「いけるよ!」
「ご苦労。頼んだぞ」
ククルに命じれば、彼女は満面の笑みで頷いた。少女姿の彼女は、赤毛をぐしゃりとかき上げてひとつ息を吐く。体内の空気を絞り出し、ゆっくりと呼吸法を変えて吸い込んだ。淡々と行われているが、複雑な術式を体内に組み上げる作業だ。身体中を引き裂くような痛みを耐え、ククルは赤い瞳を魔法陣へ向けた。
通常の魔法陣は床に平らに描かれる。しかし透過を目的とした魔法陣は縦に作られた。構築する段階から魔法陣は歪で、今も真円ではない。その形すら魔法陣の一部だった。個体と状況に合わせて創造した女神は、子供のあどけない顔に妖艶な笑みを浮かべる。
「リリアーナ、離れろ」
「……うん」
危険を察したのだろう。本能が発達した少女は、手を離してじりじりと後退する。椅子から立ち上がったオレの身体へ魔法陣が迫った。青白い稲妻がパリパリと踊る円に、赤い炎が加わる。縁を焦がす炎は、すぐに魔法陣全体に広がった。
残された左腕を前に差し出し、襲い来る激痛を堪えるため歯を食いしばる。
「発動させる! 僕の全魔力を持ってけ!!」
叫んだククルが大量に魔力を注ぐ。流れが見えるほど強烈に注がれた魔力は、オレの指先から全身を貫き焦がした。
「そうだね」
アナトは魔法陣を描きながら尋ねる。普段は使わない魔法陣であるため、持ち歩いていない。理論を構築しながら、体内の不純物を選別破壊する陣を描いた。空中に作り出した円は歪だ。整える前はこんなものだろう。
「ここは、壊す意味を込めてこっちの文字が」
バアルが唸りながら指摘する。指先で書いた魔法文字を妹に渡した。なるほどと納得したアナトが置き換える。その隣で眉を寄せたアスタルテが口出しした。
「この模様はまずい。私の血が反応するぞ」
「あれ? 治療にアスタルテの血を使ったの?! じゃあ、こっちも直さなくちゃ」
アナトは大急ぎで複数箇所の変更を行った。彼女らを信頼するオレは任せて手出ししない。失った血のせいで疲れた身体を椅子に預けると、泣きながらリリアーナが傷口を撫でた。
「ひどい、切ったの誰」
「私だ」
この場で名乗り出なくても良かろう。そんな顔をしたが、アスタルテはさらりと無視した。唸るリリアーナに説明する。
「あのまま放置すれば腕から侵入された。オレが乗っ取られてもいいのか?」
「やだ! でも腕取られたのもやだぁ!!」
子供らしい理屈だ。どちらも納得できない。己の欲望に素直なリリアーナだが、アスタルテを恨むのは筋違いと理解したらしい。ぐずぐず鼻を啜りながら、ずっと傷口を撫で続けた。すでに痛みなどないが、彼女の魔力は心地よい。
振り払わず好きにさせるオレの耳に、ひそひそと子供達の声が届く。
「やっぱり、サタン様はリリーに甘いよね」
「絶対に好きだと思う」
「えええ? そうかな。まだ恋愛未満じゃない?」
「養い子に甘いもんね」
判断に困ると言い合いながら、それでも手元はずっと動いている。最後にククルがチェックして頷いた。
「いけるよ!」
「ご苦労。頼んだぞ」
ククルに命じれば、彼女は満面の笑みで頷いた。少女姿の彼女は、赤毛をぐしゃりとかき上げてひとつ息を吐く。体内の空気を絞り出し、ゆっくりと呼吸法を変えて吸い込んだ。淡々と行われているが、複雑な術式を体内に組み上げる作業だ。身体中を引き裂くような痛みを耐え、ククルは赤い瞳を魔法陣へ向けた。
通常の魔法陣は床に平らに描かれる。しかし透過を目的とした魔法陣は縦に作られた。構築する段階から魔法陣は歪で、今も真円ではない。その形すら魔法陣の一部だった。個体と状況に合わせて創造した女神は、子供のあどけない顔に妖艶な笑みを浮かべる。
「リリアーナ、離れろ」
「……うん」
危険を察したのだろう。本能が発達した少女は、手を離してじりじりと後退する。椅子から立ち上がったオレの身体へ魔法陣が迫った。青白い稲妻がパリパリと踊る円に、赤い炎が加わる。縁を焦がす炎は、すぐに魔法陣全体に広がった。
残された左腕を前に差し出し、襲い来る激痛を堪えるため歯を食いしばる。
「発動させる! 僕の全魔力を持ってけ!!」
叫んだククルが大量に魔力を注ぐ。流れが見えるほど強烈に注がれた魔力は、オレの指先から全身を貫き焦がした。
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