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第10章 覇王を追撃する闇
332.こうでなくては戦う意味があるまい?
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蹲った子供が震えながら涙を零す。なるほど、哀れを装ってオレの油断を誘うか。
この神は戦いの前にオレの城を荒らした。それは襲撃の意味より、オレという敵を知る行動だろう。離宮にリシュヤが匿った子供に手を出している。つまり、オレを子供を保護する甘い男だと思った。ならば出方を伺うも一興。
「っ、たすけ、て……」
涙をこぼして戦えないと訴える。黒い神の愚かさに口角が持ち上がった。子供の傍に転がるのは、愛用の剣だ。突き刺した肉が消えたため落ちた刃は無事でも、柄は崩壊寸前だった。2万年にわたり死闘を繰り返した男の形見を、わずか数百年で砕くのは惜しい。
父王の側近だった竜から奪った戦利品を、右手を一振りして収納へ放り込んだ。砕いてしまえば復元は手間がかかる。
近づいたオレに攻撃するつもりの子供は、震えながら助けを求めた。見下ろすオレが近づき距離を詰めれば、後ろでリリアーナが唸る声が低くなる。彼女は本能で見分けたのだろう。敵はまだ気持ちが折れていない、と。
目を細めて確認すれば、魔力量は十分に残っている。反撃が可能な神が憐れに転がるのは、直接触れさせるためだ。ここで神を殺すのは簡単だが、そんな決着では足りなかった。まだ戦える、もっと力を尽くし、命懸けの死線を味わいたい。暴走する欲は、いずれこの身を喰らい尽くすだろうが……今ではない。
誘う敵に近づき伸ばした右手に痺れが走った。ビリッと痺れる右手を囮にし、左腕を魔力で強化して頭を叩き潰す。ぐしゃりと果実を砕く音がして、子供は肉を晒した。
立ち上がるオレの前で、頭のない子供は起き上がる。この形は見た目をなぞっただけ、心臓や脳にあたる重要な部位は移動していた。予想通りの状況に顔が緩んだ。
そうだ、こうではなくては戦う意味があるまい?
だらりと下げた右腕に赤黒いシミが広がる。色が変わる肌を見て、子供はけらけらと笑った。あっという間に形を戻す頭は、先ほどと寸分違わぬ姿を取り戻す。
「神が負けるわけない! ここは私の世界だ」
両手を広げて演説のように語る子供をよそに、オレは凝った肩を解しながら大きく息を吐いた。
「演説は終わりか?」
「何を強がる。お前の右手はもう」
「右手がどうした」
にやりと笑う。そう、毒を使われた右腕の皮膚は赤黒く腫れて変色した、ように見えただろう。だがそれが真実かどうか、どうやって知る? オレが肌の色を変える程度の芸当もできない無能者だと思ったか。2万年を戦い抜き、数万の敵を下した魔王が毒程度で倒れるとでも?
心臓となる核をどこへ隠そうと、その身のうちにあるのは確かだ。ならばすべて潰せばいい。魔法に耐性がある神の器を壊すなら、物理が効果的だった。
喉を震わせて笑い、無事な右腕に魔力を纏わせる。そこから全身へ魔力を流し、四肢を包み込んだ。怯えた様子で後退る神の頭を再び拳で砕く。蹴りが足を折り、崩れ落ちる腹部を左拳が抉った。連打で体という形を壊していく。
滲む血が黒く滴り、強酸で肌を焼く。その痛みすらオレの高揚感を煽った。ぐしゃぐしゃに崩れた体から、ついに核が露出する。
「今度こそ、最期だ」
弱く光る核を踏み潰した。
この神は戦いの前にオレの城を荒らした。それは襲撃の意味より、オレという敵を知る行動だろう。離宮にリシュヤが匿った子供に手を出している。つまり、オレを子供を保護する甘い男だと思った。ならば出方を伺うも一興。
「っ、たすけ、て……」
涙をこぼして戦えないと訴える。黒い神の愚かさに口角が持ち上がった。子供の傍に転がるのは、愛用の剣だ。突き刺した肉が消えたため落ちた刃は無事でも、柄は崩壊寸前だった。2万年にわたり死闘を繰り返した男の形見を、わずか数百年で砕くのは惜しい。
父王の側近だった竜から奪った戦利品を、右手を一振りして収納へ放り込んだ。砕いてしまえば復元は手間がかかる。
近づいたオレに攻撃するつもりの子供は、震えながら助けを求めた。見下ろすオレが近づき距離を詰めれば、後ろでリリアーナが唸る声が低くなる。彼女は本能で見分けたのだろう。敵はまだ気持ちが折れていない、と。
目を細めて確認すれば、魔力量は十分に残っている。反撃が可能な神が憐れに転がるのは、直接触れさせるためだ。ここで神を殺すのは簡単だが、そんな決着では足りなかった。まだ戦える、もっと力を尽くし、命懸けの死線を味わいたい。暴走する欲は、いずれこの身を喰らい尽くすだろうが……今ではない。
誘う敵に近づき伸ばした右手に痺れが走った。ビリッと痺れる右手を囮にし、左腕を魔力で強化して頭を叩き潰す。ぐしゃりと果実を砕く音がして、子供は肉を晒した。
立ち上がるオレの前で、頭のない子供は起き上がる。この形は見た目をなぞっただけ、心臓や脳にあたる重要な部位は移動していた。予想通りの状況に顔が緩んだ。
そうだ、こうではなくては戦う意味があるまい?
だらりと下げた右腕に赤黒いシミが広がる。色が変わる肌を見て、子供はけらけらと笑った。あっという間に形を戻す頭は、先ほどと寸分違わぬ姿を取り戻す。
「神が負けるわけない! ここは私の世界だ」
両手を広げて演説のように語る子供をよそに、オレは凝った肩を解しながら大きく息を吐いた。
「演説は終わりか?」
「何を強がる。お前の右手はもう」
「右手がどうした」
にやりと笑う。そう、毒を使われた右腕の皮膚は赤黒く腫れて変色した、ように見えただろう。だがそれが真実かどうか、どうやって知る? オレが肌の色を変える程度の芸当もできない無能者だと思ったか。2万年を戦い抜き、数万の敵を下した魔王が毒程度で倒れるとでも?
心臓となる核をどこへ隠そうと、その身のうちにあるのは確かだ。ならばすべて潰せばいい。魔法に耐性がある神の器を壊すなら、物理が効果的だった。
喉を震わせて笑い、無事な右腕に魔力を纏わせる。そこから全身へ魔力を流し、四肢を包み込んだ。怯えた様子で後退る神の頭を再び拳で砕く。蹴りが足を折り、崩れ落ちる腹部を左拳が抉った。連打で体という形を壊していく。
滲む血が黒く滴り、強酸で肌を焼く。その痛みすらオレの高揚感を煽った。ぐしゃぐしゃに崩れた体から、ついに核が露出する。
「今度こそ、最期だ」
弱く光る核を踏み潰した。
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