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第10章 覇王を追撃する闇

326.彼女らの処遇の判断は任せる

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 妻とやらの役目がよくわからぬが、妃不在の魔王より治世が安定するはずだ。おそらく補佐官のような存在だろう。すでにアスタルテがいるが、もう1人増えても問題はない。大きく頷いたオレに対し、周囲の反応は予想外だった。

「我が君が……すでに、娘を……うわああああああ!」

 ゴン! 凄い音がして謁見の間の床に大きなヒビが入った。頭を打ち付けて叫ぶアルシエルの狂った姿に眉をひそめる。頭突きで建物を壊されると、この城がいつまでも完成しないではないか。ドワーフに支払う対価も増える。注意すべきか。

「ありがとう! 私っ……正妻として、ちゃんとするから」

 セイサイが何かわからぬが、やる気なのは褒めてやらねば伸びない。金の瞳を潤ませるリリアーナが抱きつくのを受け止めた。

「よく励め」

「……そうじゃない」

 うな垂れたアスタルテの口から、吐息に紛れて声が漏れる。呻く彼女の後ろで、ククルが手を叩いた。溜めた魔力と神力を放出して寝込んだ彼女だが、いつもと同じ少女姿で元気そうだ。双子神と手を叩いて喜んでいた。

「やっとお嫁さんが決まったね」

「本当、モテるのに誰も認めないんだもん」

「幼女趣味なのは知らなかった」

 知らない単語も混じる彼と彼女の会話は、褒めていない。雰囲気で察したが、何もかも問いただす必要はないため放置した。

「……お、おめでとうございます」

 アガレスが祝いを述べる。鷹揚に頷くが、何に対しての祝辞だ? ああ、そうか。愛玩動物が妻になるのは、一種の昇格と認識したのだろう。ならば祝辞はリリアーナが受け取るべきだった。

「リリアーナ、祝いに礼を」

「ありがと、アガレス」

 頬を染めてお礼を言う。こういった躾はその都度行わなくては、後で言い聞かせても身に付かない。首や耳を赤くしたリリアーナは、幸せだと呟いた。

「あら、正妻は決まったのね。なら私は側妃を希望しますわ」

 オリヴィエラが名乗りを上げると、隣のロゼマリアが穏やかに付け加えた。

「では私も……これでも歴史ある聖国の王女ですので、ぜひ末席に加えていただきたいです」

「何の話だ?」

 まったく彼女らの意図がわからぬ。ソクヒとは、補佐官とは別の職種なのか。考えるのが面倒になり、すべて丸投げした。

「アスタルテ、彼女らの処遇の判断は任せる」

 ぶつぶつと文句を並べる軍服姿の側近に言いつけ、立ち上がった。今度はリリアーナも自らの足で立ち、機嫌よく尻尾を振る。最近は隠せるようになっていたが、昂った感情に引き出されたようだ。やはり尻尾がある方が、彼女らしい。

「普段もそうしておれ」

「うん!」

 感情豊かな尻尾を揺らす竜の娘は、蜂蜜色の目をとろりと緩めた。無意識に垂れ流す魅了は、以前より強くなっている。その目蓋に手を触れ、小さな封印を行った。誰彼構わず魅了して歩けば、周囲が危険だ。

「封じておくぞ」

「いいよ。サタン様以外いらないもん」

 オレには魅了眼は効かないが……不思議な言い回しをしたリリアーナはアナトやバアルと手を振って挨拶をしている。崩れ落ちたアスタルテは復活していないが、もう問題は解決したのだろう。そう判断して、オレは謁見の間を出た。
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