326 / 438
第10章 覇王を追撃する闇
324.どう使おうがオレの自由だ
しおりを挟む
謁見の間は、ほぼ全員が揃っていた。壇上の玉座の前でマントを揺らし振り返る。腰掛けるオレの足元に、リリアーナが当然のように座った。
一段下に座ったのはクリスティーヌだ。その下に控える形で、左側にウラノスとアルシエルが並んだ。向かい合う右側はオリヴィエラが腕を組み、ロゼマリアが控え目に一歩下がって立つ。マルファスはまだ戻らず、アガレスがロゼマリアの数歩後ろでモノクルを磨いていた。
正面に立つのは、アスタルテ――。ククルを迎えに行ったアナトとバアルも、もうすぐ姿を見せるだろう。
「サタン様。リリアーナと主従契約を結んだ理由をお聞かせください」
「必要だった」
「……その金鎖は見覚えがあります。私が返上したものでは?」
出会って間もない頃のアスタルテに与えた護符代わりの金鎖は、配下として契約する前のリリアーナに与えた。夢魔の魔王がもつ能力が不明な状況で、洗脳されたら面倒だと先手を打った形だ。咎められる所以はない。
「我が手元にあるものを、どう使おうが自由だ」
「ええ。ではクリスティーヌのブレスレットは?」
青い石がついたブレスレットとピアスは、同じ石を分割して製作されたジュエリーだ。アスタルテは知らぬが、クリスティーヌの僕である蝙蝠のジンも同じ石の鎖を巻いている。
「愛玩動物に区別がつくようアクセサリーを授けるのは、アナトの進言だぞ」
何が問題なのだ。まったくわからん。意味がわからぬまま責められる状況に、自然と表情が険しくなった。逆にアスタルテの表情は曇り、ついに額を押さえて大きくうな垂れる。
「我が君、彼女らは愛玩動物ではありません」
「……では何だ」
「魔族の女性です」
「雌なのは知っている」
途端に真っ赤になったリリアーナは顔を押さえて、オレのマントに包まった。首から上をすっぽりとマントで隠し、中で何か呟いている。
あの時は悪いことをした。知らぬとはいえ、未婚の若い雌竜の尻尾を持ち上げるなど……辱める気はなかったのだが。
「未婚の雌と理解しているのに、なぜ契約したのです!? 指輪まで渡して! これではこの子らの婚期に差し障りがでます!!」
「だが……育児放棄された幼子を保護して、愛玩動物を持てと推奨したではないか」
なぜ叱られるのだ。そう告げた途端、周囲の反応が大きく3つに分かれた。事情がわからずきょとんとしたのはクリスティーヌ。残りは抗議する者、呆れる者だ。何が間違っているのか言わぬまま責められるのは好かぬ。むっとして玉座の肘掛に寄りかかり、姿勢を崩した。
「私は正妻になるんだもん!」
「我が君、娘はペットではなく……っ!」
黒竜は親子だけあって似たような反応を見せた。興奮した様子で抗議する。ウラノスは「まあそれもよかろう」と達観した顔で溜め息を吐く。ロゼマリアは苦笑いし、アガレスは肩を落とす。オリヴィエラは堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。アスタルテは崩れるように座り込み、立ち直れずにいる。
「陛下、それは……ひどいかも」
「リリーが可哀想だよ」
ククルを伴った双子神にまで責められ、オレは不機嫌さに拍車がかかり乱暴に立ち上がった。
一段下に座ったのはクリスティーヌだ。その下に控える形で、左側にウラノスとアルシエルが並んだ。向かい合う右側はオリヴィエラが腕を組み、ロゼマリアが控え目に一歩下がって立つ。マルファスはまだ戻らず、アガレスがロゼマリアの数歩後ろでモノクルを磨いていた。
正面に立つのは、アスタルテ――。ククルを迎えに行ったアナトとバアルも、もうすぐ姿を見せるだろう。
「サタン様。リリアーナと主従契約を結んだ理由をお聞かせください」
「必要だった」
「……その金鎖は見覚えがあります。私が返上したものでは?」
出会って間もない頃のアスタルテに与えた護符代わりの金鎖は、配下として契約する前のリリアーナに与えた。夢魔の魔王がもつ能力が不明な状況で、洗脳されたら面倒だと先手を打った形だ。咎められる所以はない。
「我が手元にあるものを、どう使おうが自由だ」
「ええ。ではクリスティーヌのブレスレットは?」
青い石がついたブレスレットとピアスは、同じ石を分割して製作されたジュエリーだ。アスタルテは知らぬが、クリスティーヌの僕である蝙蝠のジンも同じ石の鎖を巻いている。
「愛玩動物に区別がつくようアクセサリーを授けるのは、アナトの進言だぞ」
何が問題なのだ。まったくわからん。意味がわからぬまま責められる状況に、自然と表情が険しくなった。逆にアスタルテの表情は曇り、ついに額を押さえて大きくうな垂れる。
「我が君、彼女らは愛玩動物ではありません」
「……では何だ」
「魔族の女性です」
「雌なのは知っている」
途端に真っ赤になったリリアーナは顔を押さえて、オレのマントに包まった。首から上をすっぽりとマントで隠し、中で何か呟いている。
あの時は悪いことをした。知らぬとはいえ、未婚の若い雌竜の尻尾を持ち上げるなど……辱める気はなかったのだが。
「未婚の雌と理解しているのに、なぜ契約したのです!? 指輪まで渡して! これではこの子らの婚期に差し障りがでます!!」
「だが……育児放棄された幼子を保護して、愛玩動物を持てと推奨したではないか」
なぜ叱られるのだ。そう告げた途端、周囲の反応が大きく3つに分かれた。事情がわからずきょとんとしたのはクリスティーヌ。残りは抗議する者、呆れる者だ。何が間違っているのか言わぬまま責められるのは好かぬ。むっとして玉座の肘掛に寄りかかり、姿勢を崩した。
「私は正妻になるんだもん!」
「我が君、娘はペットではなく……っ!」
黒竜は親子だけあって似たような反応を見せた。興奮した様子で抗議する。ウラノスは「まあそれもよかろう」と達観した顔で溜め息を吐く。ロゼマリアは苦笑いし、アガレスは肩を落とす。オリヴィエラは堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。アスタルテは崩れるように座り込み、立ち直れずにいる。
「陛下、それは……ひどいかも」
「リリーが可哀想だよ」
ククルを伴った双子神にまで責められ、オレは不機嫌さに拍車がかかり乱暴に立ち上がった。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる