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第10章 覇王を追撃する闇

298.違和感は己を守る砦となり得る

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 オレが感じ取ったのは、闇が放つ色のような印象だった。黒く暗く、何かを怨嗟し呪う響きが波紋のように押し寄せる。独特の波長を持つ感情がまだ大地に根付いていた。

 足元を見つめ、目を細める。大地の底を見透かせやしないのに、その気配を辿って視線を左へ動かした。数歩移動した先で、どくんと脈打つように強く感じた。

「……この下は何がある?」

 地脈ではない。何かが埋まっているはずだ。確信を持って問うたオレが顔を上げると、アルシエルは考え込んだ。咄嗟にでてこないらしい。そもそも獣人の街が作られた時点で、現在の魔族にとって大した価値のない土地だったのだろう。

 村を作り、街に拡大していく中、どの種族も獣人から土地を取り上げようとしたり交渉しなかった。その程度の場所に何かが埋まっていると考えたこともない。思いつかないアルシエルの隣で、同様に唸ったウラノスが呟いた。

「神の墓……でしたかな?」

 確証はないが思い出したのは、鬼人王がさらに先代魔王から聞いた話だった。注目される中、ウラノスは古い記憶を呼び起こしながら、ぽつりぽつりと語り出した。

 世界が闇と光の混沌の中にあった頃のこと、神話と称される伝説が残っている。神は世界を創ろうとした。己の姿に似せた者が住まう箱庭を造り、闇を基礎に使い、光を散りばめる。己の身に宿した闇をすべて失った神は、そのまま崩御した。彼はバランスを誤ったのだ。

「この神話は魔族なら、御伽噺として親に口伝えで教えられる。教訓として最後に、だから魔力を枯渇させてはならぬと続く」

 この話はアルシエルも知っていたらしい。大きく頷くが、逆にクリスティーヌはきょとんとした顔で聞いていた。やはり幼いうちに親と離れたのが影響しているようだ。

「大事なのは教訓ではなく、闇を使い尽くした部分でしょうな。使い尽くした闇は世界の基礎となった……つまり足元じゃ」

 ウラノスの言葉が足りない部分を、アルシエルが補った。

「世界を滅ぼす闇穴、本当に存在したのか」

 アルシエルが長老だった竜から聞いたのは、世界の基礎となった闇は、神に見捨てられたと我が身を嘆いた。だから大地は稀に大揺れして、地上の光を脅かす。地下で光を恨み、闇を埋めた穴から現れ出て、いずれ光を飲み込むのだと――。

 伝説や神話を知る2人は疑っていない。だが、オレは感覚のズレを感じていた。闇が大地の下にいたとして、光を否定する可能性もあるだろう。身を捩って、大地を揺らすことも否定しない。問題は、その先だった。

「おかしいわ。だって……あの闇は撤退したもの」

 思考する能力や感情を持ち合わせている。戦場の状況を的確に判断し、不利になったら引いた。それはヒトの思考に近い。ウラノスとの対峙で有利に使えるクローノスの遺体を回収した。狡猾な人間に近い考え方だ。

「闇と、別の何かか」

 敵がひとつだと決め付けるのは早い。戦術を考える前に、戦略を練る必要があった。戦場が再びこの地になるとしても、ずっと留まる意味はない。

「引き上げるぞ」

 転移の魔法陣で全員を指定し、居城となるバシレイアへ戻った。
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