上 下
298 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

296.猟犬は選定しなければならぬ

しおりを挟む
 地下の水脈を使えば、最短距離で移動できる。その可能性を指摘したのは、ウラノスだった。

 元魔王の亡骸を辱めた闇の気配は、この地から動いていない。獣人達を虐殺し、守護した炎竜を屠った闇の正体は後回しだった。バシレイアが聖国と呼ばれる理由は、聖女が興した国であること――彼女がバシレイアの地を選んだのは、クローノスの魔力が埋まっていたからだろう。

 水脈を使って遺体は奪われた。元魔王の魔力はさぞ美味しかったはずだ。ウラノスが地下で眠っていれば、違和感に気付いて阻止した。しかし孫娘の魔力に惹かれて目覚めた吸血種は、大切な宝を奪われたことに気づけない。離れるべきではなかった。

 ウラノスの後悔は察して余りある。だがクリスティーヌを見捨てなかったことは誇れるはずだ。寿命を終えたクローノスに、ウラノスは死ぬなと命じられた。鬼人王はこの未来を知っていたのか。

「敵は器を奪う、ならば奪われぬ種族が必要ですな」

 ウラノスが長い銀髪を手早く結んだ。慣れた指先でくるりと回し、邪魔にならないよう高い位置で結んだ彼の口調は、古臭いまま変わらない。姿が変化しても中身は同じウラノスに頷いた。

 今までに奪われたと思わしき人物は、子供姿の人間、炎竜、鬼人王クローノスだ。最初の子供は分からないが、残った2体は死んでいた。クローノスの遺体に残された魔力を回収して使用したなら、奴は生きた者も操るはずだ。

 吸血種は、生者も死者も操る。ゆえに自らが他者に操られることはない。乗っ取られる心配がもっとも少ないため、今回の任務に適しているだろう。

「アスタルテ、クリスティーヌ」

 眷族を呼ぶ主人の要求に、距離も時間も関係ない。同じ世界なら、魔力を込めて名を呼べば事足りた。獣人の街の大地は焼け焦げて黒い。まだ死臭漂う地に2人は現れた。

 腰を折って深く礼をしたアスタルテと異なり、クリスティーヌは走って抱き付く。受け止めて黒髪を撫でた。白いワンピースを好む少女は、袖を摘んで見上げてくる。

 軍服姿のアスタルテは、珍しく襟を少し緩めていた。休憩中だったか。

「身体を乗っとる闇が蠢いている。追えるか」

「……実体がない闇、ですか」

 安請け合いも即答もしないアスタルテは、命令ではない要請を慎重に繰り返した。考える間に、クリスティーヌが不思議そうにウラノスへ問うた。

「死んだの操れるの?」

 彼女にしたら当然の疑問だ。いままでクリスティーヌが操ったのは、生きた小動物ばかりだった。人間などの複雑な思考を持つ種族や死体を操った経験がない。そもそも操れると知らなかった。人は知らない知識の先を求めるが、想像すら追いつかなければ、その探究心も刺激されない。クリスティーヌがその状態だった。

「死体も操れるわ。お勧めしないけれど」

 付け加えた後半部分を強く、言い聞かせるように口にしたアスタルテは表情が固かった。

「わかった、試さない」

 約束するようにクリスティーヌが頷く。ウラノスが重ねて孫娘に言い聞かせた。

「絶対に操るでないぞ」

 こくんと頷いたクリスティーヌは、周囲を見回して何かを見つけたらしい。掴んでいた袖を離して歩いていく。何となしに見守ったオレは、彼女が拾った破片に目を見開いた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...