【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
277 / 438
第9章 支配者の見る景色

275.無自覚に伴った行為に意味があるか

しおりを挟む
 ドラゴンやグリフォンが発着所として利用する中庭へ出ると、後ろを振り返った。ドワーフ達が手がける元バシレイア王城は、間もなく魔王城として蘇る。外観の工事はかなり終盤に近かった。

 城の吹き抜け部分と高さを合わせた、召喚の塔がなくなったことで左右のバランスが悪い。対でデザインされた右の塔が消えれば、左側の主塔が目立った。しかし離宮の前に大きな建造物が建つ予定だ。翼ある種族の離発着は、頂上が平たい塔が望ましかった。

 羽をぶつけることなく広げて畳める環境は、さほど面積は要らない。ドラゴンの身体が降り立つ広さと、翼が当たらない環境が最適だった。そのため、中庭での発着は多少の苦労がある。

 その不具合を解消できる塔の建造は、当初から命じてあった。しっかりした土台を組んだ上に、石積みで作られる塔はシンプルだ。華美な装飾や彫刻は省くよう命じたため、見方を変えると煙突のようだった。

「もうすぐ、出来るね」

 にこにこと機嫌のいいリリアーナが、中庭の中央で竜化する。黒銀の鱗は以前より銀の輝きが増した。

「美しい」

 素直に口をついた言葉に、リリアーナが挙動不審になった。ばたばた手足を上げ下ろしする姿は、不格好ながら踊りのようだ。なにを興奮しているのか分からず待てば、見送りに来たアースティルティトが苦笑いする。

「陛下が女性を褒める姿を初めて拝見しました」

「女性……ああ、リリアーナも雌か」

 これがアルシエルでも同じように褒めたと気づき、リリアーナが「ぐぁああ」と抗議の声をあげた。自分の方が美しく、強くなると鳴くドラゴンは足を踏み鳴らす。尻尾で叩いた中庭の端がすこし崩れた。

「暴れるな、陛下の御前だ」

 しょんぼりしたリリアーナがぺたんと伏せた。空の覇者であるドラゴンとしての威厳は欠片もない。黒銀の鼻先に手を置いてぽんと叩く。その合図で察した彼女が背を向けて、乗れと羽を低く伸ばした。

「決裁権を授ける」

 片付けろ、何とかしろ。そう命じる前に、彼女は「承知しております」と頭を下げた。アガレスから上がった報告書や決裁書類に目を通したのだろう。

 バシレイア以外の内政問題が後回しになっている。食料の調達から、難民の管理、治安問題も含めて問題は山積していた。ある程度を力技で誤魔化してきたが、内政はアースティルティトの得意分野だ。一任すればよい。

 膝をついて両手をあげ、何かを受け取る仕草で待つ配下の正面に立つ。先ほど他の者がいる謁見の間で行うべきだった。過ぎたことを悔やむ必要はない。この場にオレと側近が揃っていれば、どんな環境であれ正式な授与と変わらないのだから。

 本来なら内政を司る分野の決裁印を渡すのは、貸与に当たる。代理権を与えられて動くのが部下だが、彼女には授けた。この印章を持つ者の決裁は、魔王サタンの決裁と同じ価値を持つ。そう宣言する行為に、彼女は受け取った印章をしっかりと握り頭を下げた。

「確かに頂戴いたしました。陛下の御世に幸いあれ」

 最上級の礼で見送る彼女を残し、リリアーナの背に飛び乗る。物言いたげなリリアーナは言葉を飲み込み、ふわりと上昇した。高く舞い上がる彼女の羽が風を受けて、ぐるりと上空で旋回する。見下ろした小さな城と都の周囲は、すでに新たな集落がいくつも形成されていた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...