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第9章 支配者の見る景色
275.無自覚に伴った行為に意味があるか
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ドラゴンやグリフォンが発着所として利用する中庭へ出ると、後ろを振り返った。ドワーフ達が手がける元バシレイア王城は、間もなく魔王城として蘇る。外観の工事はかなり終盤に近かった。
城の吹き抜け部分と高さを合わせた、召喚の塔がなくなったことで左右のバランスが悪い。対でデザインされた右の塔が消えれば、左側の主塔が目立った。しかし離宮の前に大きな建造物が建つ予定だ。翼ある種族の離発着は、頂上が平たい塔が望ましかった。
羽をぶつけることなく広げて畳める環境は、さほど面積は要らない。ドラゴンの身体が降り立つ広さと、翼が当たらない環境が最適だった。そのため、中庭での発着は多少の苦労がある。
その不具合を解消できる塔の建造は、当初から命じてあった。しっかりした土台を組んだ上に、石積みで作られる塔はシンプルだ。華美な装飾や彫刻は省くよう命じたため、見方を変えると煙突のようだった。
「もうすぐ、出来るね」
にこにこと機嫌のいいリリアーナが、中庭の中央で竜化する。黒銀の鱗は以前より銀の輝きが増した。
「美しい」
素直に口をついた言葉に、リリアーナが挙動不審になった。ばたばた手足を上げ下ろしする姿は、不格好ながら踊りのようだ。なにを興奮しているのか分からず待てば、見送りに来たアースティルティトが苦笑いする。
「陛下が女性を褒める姿を初めて拝見しました」
「女性……ああ、リリアーナも雌か」
これがアルシエルでも同じように褒めたと気づき、リリアーナが「ぐぁああ」と抗議の声をあげた。自分の方が美しく、強くなると鳴くドラゴンは足を踏み鳴らす。尻尾で叩いた中庭の端がすこし崩れた。
「暴れるな、陛下の御前だ」
しょんぼりしたリリアーナがぺたんと伏せた。空の覇者であるドラゴンとしての威厳は欠片もない。黒銀の鼻先に手を置いてぽんと叩く。その合図で察した彼女が背を向けて、乗れと羽を低く伸ばした。
「決裁権を授ける」
片付けろ、何とかしろ。そう命じる前に、彼女は「承知しております」と頭を下げた。アガレスから上がった報告書や決裁書類に目を通したのだろう。
バシレイア以外の内政問題が後回しになっている。食料の調達から、難民の管理、治安問題も含めて問題は山積していた。ある程度を力技で誤魔化してきたが、内政はアースティルティトの得意分野だ。一任すればよい。
膝をついて両手をあげ、何かを受け取る仕草で待つ配下の正面に立つ。先ほど他の者がいる謁見の間で行うべきだった。過ぎたことを悔やむ必要はない。この場にオレと側近が揃っていれば、どんな環境であれ正式な授与と変わらないのだから。
本来なら内政を司る分野の決裁印を渡すのは、貸与に当たる。代理権を与えられて動くのが部下だが、彼女には授けた。この印章を持つ者の決裁は、魔王サタンの決裁と同じ価値を持つ。そう宣言する行為に、彼女は受け取った印章をしっかりと握り頭を下げた。
「確かに頂戴いたしました。陛下の御世に幸いあれ」
最上級の礼で見送る彼女を残し、リリアーナの背に飛び乗る。物言いたげなリリアーナは言葉を飲み込み、ふわりと上昇した。高く舞い上がる彼女の羽が風を受けて、ぐるりと上空で旋回する。見下ろした小さな城と都の周囲は、すでに新たな集落がいくつも形成されていた。
城の吹き抜け部分と高さを合わせた、召喚の塔がなくなったことで左右のバランスが悪い。対でデザインされた右の塔が消えれば、左側の主塔が目立った。しかし離宮の前に大きな建造物が建つ予定だ。翼ある種族の離発着は、頂上が平たい塔が望ましかった。
羽をぶつけることなく広げて畳める環境は、さほど面積は要らない。ドラゴンの身体が降り立つ広さと、翼が当たらない環境が最適だった。そのため、中庭での発着は多少の苦労がある。
その不具合を解消できる塔の建造は、当初から命じてあった。しっかりした土台を組んだ上に、石積みで作られる塔はシンプルだ。華美な装飾や彫刻は省くよう命じたため、見方を変えると煙突のようだった。
「もうすぐ、出来るね」
にこにこと機嫌のいいリリアーナが、中庭の中央で竜化する。黒銀の鱗は以前より銀の輝きが増した。
「美しい」
素直に口をついた言葉に、リリアーナが挙動不審になった。ばたばた手足を上げ下ろしする姿は、不格好ながら踊りのようだ。なにを興奮しているのか分からず待てば、見送りに来たアースティルティトが苦笑いする。
「陛下が女性を褒める姿を初めて拝見しました」
「女性……ああ、リリアーナも雌か」
これがアルシエルでも同じように褒めたと気づき、リリアーナが「ぐぁああ」と抗議の声をあげた。自分の方が美しく、強くなると鳴くドラゴンは足を踏み鳴らす。尻尾で叩いた中庭の端がすこし崩れた。
「暴れるな、陛下の御前だ」
しょんぼりしたリリアーナがぺたんと伏せた。空の覇者であるドラゴンとしての威厳は欠片もない。黒銀の鼻先に手を置いてぽんと叩く。その合図で察した彼女が背を向けて、乗れと羽を低く伸ばした。
「決裁権を授ける」
片付けろ、何とかしろ。そう命じる前に、彼女は「承知しております」と頭を下げた。アガレスから上がった報告書や決裁書類に目を通したのだろう。
バシレイア以外の内政問題が後回しになっている。食料の調達から、難民の管理、治安問題も含めて問題は山積していた。ある程度を力技で誤魔化してきたが、内政はアースティルティトの得意分野だ。一任すればよい。
膝をついて両手をあげ、何かを受け取る仕草で待つ配下の正面に立つ。先ほど他の者がいる謁見の間で行うべきだった。過ぎたことを悔やむ必要はない。この場にオレと側近が揃っていれば、どんな環境であれ正式な授与と変わらないのだから。
本来なら内政を司る分野の決裁印を渡すのは、貸与に当たる。代理権を与えられて動くのが部下だが、彼女には授けた。この印章を持つ者の決裁は、魔王サタンの決裁と同じ価値を持つ。そう宣言する行為に、彼女は受け取った印章をしっかりと握り頭を下げた。
「確かに頂戴いたしました。陛下の御世に幸いあれ」
最上級の礼で見送る彼女を残し、リリアーナの背に飛び乗る。物言いたげなリリアーナは言葉を飲み込み、ふわりと上昇した。高く舞い上がる彼女の羽が風を受けて、ぐるりと上空で旋回する。見下ろした小さな城と都の周囲は、すでに新たな集落がいくつも形成されていた。
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