【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
262 / 438
第9章 支配者の見る景色

260.魔族を恐れない民族もいるのか

しおりを挟む
 国王と魔王を見送り、人々は不安そうに顔を見合わせた。こういった事態を見越していたのだろう。スライマーンは声を張り上げた。

「この場で陛下のお帰りを待つぞ。そなたらは船から降りる女子供に手を貸し、手の空いた者から夜営の準備を始めよ」

 山の民であったがゆえに、キララウスの国民は質素な生活に慣れている。森の中を移動し、テントを張って遊牧民のような生活をしてきた。王太子が命じると、それぞれに持ち場を分けて動き出した。

 軍ほど統率されておらず、しかし足並みは揃っている。感心したアルシエルが近づき、スライマーンに声をかけた。

「何か手伝おう」

「あなた様は、黒い翼の方ですね。テント張りの人数が足りておりませんが、魔族の方にお願いするのは失礼では?」

「はは、俺が申し出たのだ。構わない。どれ……空からテントの屋根を支えてやろう」

 ドラゴンの姿に戻らずとも、人化したまま翼を出せば済む。簡単そうに提案し、自らテント張りの兵の手伝いに出向いた。かつて魔王の側近を務めた男の身軽な行動に、キララウスの民は親近感を抱く。声を掛け合いながら、大きな移動式住居を建てた。

「あら、黒竜王ったら……何をしてるの?」

 民に混じり荷運びまで始めた頃、ようやくオリヴィエラが到着した。用意した備蓄食料や敷物を大量に詰めた馬車を、爪で掴んで飛んできたのだ。船着場についてみれば、かつての上司が人に混じって荷下ろしをしている。

 黒竜王としての姿しか知らない、オリヴィエラが驚くのも無理はなかった。グリフォンのまま馬車を下ろし、彼女は鷲の爪でかつかつと音をさせながら近づいた。

「ご苦労、我が君は話し合いに入られたか?」

「ええ。だからロゼマリアも置いてきたわ。ウラノスがやたら機嫌よくて気持ち悪いけど」

 ウラノスと相性が悪いオリヴィエラは、嘴を鳴らして不満を表明した。しかしそれ以上絡んでいる時間はない。用意したもうひとつの馬車を取りに帰らなくてはならなかった。

「もうひとつあるから、行くわ」

「ああ」

 舞い上がるグリフォンが消えると、子供達が興奮した様子で指差して騒ぐ。それから数人がアルシエルに駆け寄った。背に羽があるので、魔族だと一目で分かる。しかし親達は何も注意せず見守るだけ。不思議な人間達もいるものだとアルシエルの興味は深まった。

 怖がる素振りなく、子供は手を伸ばして黒竜王の褐色の肌に触れる。自分達と肌の色が違い、種族が違うことを気に留めなかった。目を輝かせて手足に纏わり付き、羨ましそうに羽を眺める。その姿に、黒竜王アルシエルも驚いた。

 人間は魔族をみれば攻撃するか、嫌悪や畏怖の感情を露わに逃げ出すのが常だった。

「こちらの食料や敷物はお詫びの一部ですので、お納めください。返す必要はございません。数はまだありますから、皆様で公平に分けていただければ幸いです」

 馬車の中身を説明したマルファスが、荷をスライマーンに引き渡す。一部に子供服が混じっていたため、子供のいる親が集まってきた。積み重ねた資材を奪い合う様子はなく、落ち着いた民は1つずつ選んで持ち帰る。

「キララウスの者はみな、こうなのか?」
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...