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第9章 支配者の見る景色

255.我が主への謁見をお望みか?

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 肌は全体に白い。髪色や瞳は濃茶が多かった。数人が一斉に頭を下げる。礼儀正しい一族だと見ててとるや、ククルは薄い胸を張った。

「ご挨拶いたみいる」

 軍のトップだったため、仕事モードだと口調が尊大になる。個人的な会話は幼く、リリアーナ達といい勝負だった。対外的には魔王軍の指揮官として振る舞うので、この口調で問題ないとアースティルティト達も直さなかった。魔王サタンの影響が出ている。

 彼らが頭を上げたのを見て、ククルは優雅に会釈して応じた。僅かに片足を引いた挨拶に、後ろで細い尻尾が揺れる。リリアーナがもつ太い尻尾ではなく、人差し指くらいの細い紐に似た尻尾だった。

 ちらりと尻尾に目を留めたものの、彼らはそこに言及しなかった。その態度に満足したククルだが、大事なことを忘れている。

 彼らを助けたのはククルだが、そもそも沈めた当事者なのだ。ここは詫びるべきか、彼らが気付いていなければ黙っているか。

 ウラノスは「黙っておれ」と合図し、黒龍王アルシエルは「潔く謝れ」と手を振った。迷うことなく、ククルは片方を選ぶ。ひとつ深呼吸して、さっと頭を下げた。

「申し訳ない。魔法陣から突然出現したため、敵と間違えて使者殿を攻撃した」

 自分が仕出かしたことは己で責任を取る。無理ならば最初から動くな――魔王から何度も教えられた。作戦ならば嘘をつき誤魔化すことを躊躇うな。しかし悪気なく行なった結果の失敗は、素直に謝罪する。養い親の言葉を思い出しながら、ククルは声がかかるまで頭を下げた。

「……気付いておりました。でもあなたが黙っておられるなら、それも仕方ないかと……事前通知なく国境を侵したのはこちらです。それも多くの同族を伴う船団の接近とあれば、ある程度の犠牲は覚悟しておりました」

 悲しそうに笑い、先頭に立つ青年がククルの顔の前に手を差し出す。身勝手に相手の身体に触れないのは、それがキララウスの作法だからだ。種族が違えど、最上級の礼を尽くす青年は一際豪華な衣装を纏っていた。

 長い布を巻きつけて装う民族衣装は、色が鮮やかだ。中間色より原色が多用され、目に美しく感じられた。目の前に差し出された手には、赤と紫に金が混じったブレスレットがついている。その白い手をそっと握った。

 顔を上げると、青年は困ったような顔で微笑んだ。使者として来たと断じた言葉は否定されなかったが、肯定もされていない。ならば違う可能性もあった。ただ戦支度がされていないなら、こちらへ攻撃する意思はないと捉えるのが正しい。

 アースティルティトに叩き込まれた反復による思考が、魔王軍将軍だった立場に合わせて答えを導いた。

 わからないのならば、使者として扱え――違ったら殺せばいい。使者だった場合に蔑ろにすれば取り返しはつかないのだから。

 ククルは川に目を向けた。使者の船としては数が多い。船の上には女子供も混じっている。沈めてしまった船と違い、後続になるほど弱者が多かった。

 頭に浮かんだ可能性を溜め息ひとつで横に避け、ククルは決まり切った挨拶を口にする。

「我々は貴殿らの入国を歓迎する――我が主への謁見をお望みか?」
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