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第9章 支配者の見る景色

249.戦力過剰とは贅沢なことだ

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 門はおろか、領地に入れる前に処理する。そう告げて、地図の上流部分を指差した。その場所は川幅が狭くなっており、2隻並んで通るのは危険だ。川幅が狭くなる場所は、急流であることが多かった。

 転覆を恐れ、1隻ずつ通過しようとするはずだ。船団がバラけるなら、ここが彼らの弱点となる。通過する数が制限される場所は、待ち伏せるにも襲撃するにも最適だった。

「この場所に魔法陣を仕掛ける。転移だ」

 種類を示したことで、気づいた者が顔を上げる。視線があった連中に頷いて、さらに説明を続けた。

「転移先をここに設定しろ」

 グリュポスへ続く川の流れの緩やかな部分へ繋ぐ。そう告げると、意図を察した数人が目を細めて唸った。

 川と川を繋ぐ。魔力が余っている魔王でなければ実現が難しい。逆に言うなら、オレが保有する戦力と魔力で十分に補える範囲だった。触れるまで発動させなければ、設置自体はほとんど魔力が要らない。発動条件をオリヴィエラの言った通り絞れば、漁に使う程度の小さな船が引っかかる心配もなかった。

「魔の森の中……マルコシアスは手一杯でしょうな」

 銀狼に任せすぎだと呟いたウラノスへ、オレはくつくつと喉を震わせて笑った。マルコシアスはオレと眷獣契約を済ませている。彼1匹でも十分だが、幸いにして戦力は余っていた。

「誰が行く?」

 オレは尋ねるだけでいい。見回した先に、候補者は溢れていた。

 オリヴィエラ、ウラノス、アルシエル、クリスティーヌ、バアル、アナト、ククル――黒竜リリアーナを除いても、これだけの面子が揃う。

「はい!」

「私も!!」

 アナトとバアルがすぐに手を挙げる。それを見て、ククルが焦った。

「ずるい! こないだ遊んできたじゃない。今度は私の番だよ!!」

 先着順ではないが、回復したばかりの子供達は元気だった。先を争って戦いの機会を得ようとする。

「私も、行きたい」

 クリスティーヌが控えめに主張する。自分一人では不安だが、誰かが一緒なら行きたいと名乗り出た。さっと膝をついた黒竜王アルシエルが許可を求める。

「私にお任せいただけませんか」

 選ぶ方が困るとは贅沢なことだ。苦笑いして、今回の役目をククルに命じた。クリスティーヌの同行を許せば、うたた寝していたリリアーナが飛び起きた。

「リスティ、行くの?」

「うん」

 マーナガルムが支配する魔の森の中央付近に行くのだから、大した危険はない。そう理解しながらも、リリアーナは不機嫌そうに眉を寄せる。その眉間を指で触れながら「許してやれ」と促した。渋々といった態度で頷くリリアーナの尻尾が、玉座の前の階段を叩く。

「私がいるんだもの、ケガなんてさせない」

 言い切ったククルをじっと見つめたリリアーナは、小さく頷いた。

「リリアーナは城の守りを。オリヴィエラは補助に入れ」

 続けて命じれば、短く承知の意思を伝えた彼女らが笑みを浮かべる。

「では、わしは魔法陣の仕掛けを用意しましょう」

 ウラノスは自分の担当を申し出て、隣のアルシエルを手招く。魔力を供給する手伝いを申しつけ、かつての弟子に頷かせた。
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