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第8章 強者の元に集え

245.失敗を報告する覚悟は見事だ

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 鱗の上に貼り付いた溶岩は乾いて、ぺりぺりと音を立てる。もう一度身震いして吹き飛ばした時、ドラゴンの足元に魔法陣が浮かんだ。

 飛び退ろうとしたが、魔法陣から感じられるのは妹分であるクリスティーヌの気配。魔力がじわりと増えて、一瞬で飛ばされた。リリアーナは慌てて巨体を小さく丸める。徐々に小さくして、人化した彼女の上にワンピースが降ってきた。

「あり、がと!」

 黒髪の少女の厚意を素直に受けて、大急ぎでリリアーナは袖を通した。丸首のワンピースは少しきつそうだ。小柄なクリスティーヌのワンピースなので仕方ない。肩がキツくて、裾が短いけれど被ることが出来た。

「おかえり、リリー」

「ただいま」

 挨拶を交わすと、すぐにリリアーナはオレを見て顔をくしゃりと歪めた。

「ご、め……なさぃ。竜になっちゃ、った」

 しゃくり上げながら、ずるずると鼻を啜る姿は拾った時と大差ない。教育の成果がでて成長の足跡が見えると思ったが、まだまだ未熟な子供だった。だが不思議と苛立ちはない。

 失敗を取り繕うことなく、言い訳せずに謝罪する姿は好感が持てた。

 こつこつと靴音を響かせて数歩手前まで近づき、マントを揺らして伸ばした手を金髪の上に乗せた。左右に撫でて揺らすと、不思議そうな顔で見上げてくる。咎められない理由に思い至らないようだ。自分が悪いのに、どうして叱られないんだろう。見捨てられたのでは? もう要らないのかも。

 徐々に曇っていく表情が、手にとるように伝わる。金の魅了眼が潤んで、他人の目も憚らず涙を溢した。

「ドラゴンなのに、珍しいね」

「シャイターン様が凄いのか、この子が純粋なのか」

 双子はひそひそと小声で意見を交わす。それほど、ドラゴンの涙は印象深かったらしい。双子が驚くのは、彼と彼女が黒竜を追い回して仕留めた際の戦いに由来していた。この身を包む装備の素材の黒竜は、双子が狩った獲物だ。

 長きに渡る激戦や追いかけっこの間はもちろん、首を撥ねる瞬間も涙を溢さなかったドラゴンの長を知るから、強者である種族が涙を零す姿は衝撃なのだろう。見た目が10歳前後の少女であろうと、22年生きた事実は揺るがない。成長が人間より遅いドラゴン種は、非常に長寿で強大な力を有する。余計に違和感があった。

 この世界は、以前の世界に比べて生温い。全てにおいて劣っていた。人間の倫理観や常識も緩く、魔族も弱い。主君を変更することも厭わず、そのくせ忠義を主張した。双子にも理解しづらい世界だろう。

「前の世界より甘いのかな」

 ぽつりとバアルが指摘する。オレが感じたのと同じ違和感を、彼らも共有しつつあった。尋ねる眼差しに頷くと、双子は肩を竦める。しょうがない、そう言わんばかりの仕草だ。

「リリアーナ、もうよい」

 泣き噦る少女が抱きついて、マントに顔を押し付けた。約束を守れなかったことを、ここまで悔やめば忘れないだろう。次から危険を察知する方法を探る。それらを着実に身につけることで、リリアーナは最強のドラゴン種の名に恥じない黒竜になれるはずだ。

「も、しっぱ……い、しない」

 泣きすぎて苦しそうな様子で、必死に次の約束を取り付ける。自らの誓いを口にする強さは、まっすぐに育った彼女の財産だった。

「私も、一緒にやる」

 なぜかもらい泣きしたクリスティーヌが、リリアーナの反対側に抱きついた。おかげで動けなくなり、双子はその姿を見てげらげら笑い出す。

 ここまで純粋に懐かれると、突き放せない。彼女らの気の済むまで好きにさせ、死体が大量に残る城だけ潰して帰城した。
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