【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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第8章 強者の元に集え

237.警告を武力で踏みにじる代償だ

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 魔族だけでなく人と話が出来るのは、マルコシアスのみだ。今回この地の主に選ばれた理由は、ここにあった。鋭い牙を見せつけながら告げる傲慢な宣言に、人間は武力で応える。人語を話す巨狼に向けて矢を放った。

 先制攻撃を受けたマルコシアスの毛が、ぶわりと膨らんだ。魔王の眷獣となることで共有し、揮える魔力量は激増した。結界を張る程度の魔力は余っている。警告は武力をもって踏みにじられた。手出しせぬと宣言した言葉を、彼ら自身が破棄したのだ。

 かきん、甲高い音を立てて矢があらぬ方向へ飛ばされた。魔力が視えない人間の目には、逆立てた狼の毛が矢を弾いたように感じられる。そのため包囲網を築く狼達に怯え、弓を放り出す者もでた。人間の怯えを増幅させるため、マルコシアスが威嚇する。

『愚か! 忠告の意味も己の弱さも弁えぬ者らを滅ぼしてくれようぞ』

 同調した狼の唸り声や遠吠えが響く森は、慌てて逃げ出す小動物が揺らす茂みの音も相まって混乱した。

「い、いやだ!」

「逃げると罰が……」

「この場で食い殺されるよりマシだ」

 叫んで走った若者を呼び止める年長者へ、別の若者が吐き捨てた。その言葉を聞き取ったマルコシアスの耳がぴくりと揺れる。なるほど、指揮を執る者が自ら危険を冒さずに若者を差し向けたか。我が主の申された通り、人間とはなんと浅ましい生き物か。

 上に立つ者ほど、危険に近い位置に立つのを当然とする。魔族なら確認せずとも知る認識を、人間は簡単に覆す。金や権力を持つほど後ろに下がり、危険な場所に平民を追い立てた。後ろが安全だと、誰が決めたのか。マルコシアスの大きな身体が風のように森を抜ける。

 足元で泣き叫ぶ人間を追い出すのはいつでもできる。優先すべきは、森を脅かす愚者の元を断つことだった。群れを率いて命令を下す者が森の外にいるなら、直接それを叩く。

 群れに指示を出し、入り込んだ人間をすべて排除するよう命じた。その間に最も危険な場所を担当するべく、巨狼は走る。騒ぐ人間の声に混じり、弓が矢を飛ばす風切り音が大気を揺らした。結界で弾き飛ばし、一部を爪で叩き落しながら回り込んだ人間の群れに飛び込む。

 群れの後部、ひときわ大きなテントの前にいた男を一撃で吹き飛ばす。すぐに剣を抜いた今の男は護衛だろう。ならば中か? テントの柱を引っ張るロープを爪で切ると、倒れる布を潜って数人が飛び出した。見極めがつかぬため、全員を威圧で縛る。

 初老の男、金属鎧を抱えた少年、戦場にふさわしくない雌が2匹……唸りながら彼らの観察を続けた。どれを食らうか、いっそすべて殺せば後腐れがない。着飾った雌は怯えて小便を垂らした。あれらは除外できる。

 マルコシアスの目は、残る男らをひたりと見据えた。少年は震えながら鎧の影に隠れる。明らかに彼が身に着けるサイズの鎧ではなかった。成人男性用の鎧は、隣で震える男が纏う物だ。臭いで判断し、グルルと喉を鳴らした。

「我は森に入るなと警告した。先に攻撃したはそなたらだ」

 これは自業自得――与えられるべき罰だと宣言したマルコシアスの爪が、将の肉を裂いた。溢れる鉄錆びたぬめりを誇らしげに纏い、捕えた獲物を引きずったマルコシアスが帰還する。森の縁で出迎える同族へ肉を分け与え、その首を切り離して崖の上に持ち帰った。

 悲鳴を上げる形で強張った将の頭を無造作に転がす。首置き場として用意した場所には、同族が仕留めた先ほどの兵士の首がいくつも並んでいた。主に献上する時を待ちわびながら、銀灰色の大きな狼はごろりと寝転がる。

 蜂の巣を突いたような騒ぎを見せる人間達を、高い崖の上から観察した。あの様子ではしばらく落ち着かないだろう。森に入ってこなければ、これ以上襲う必要はなかった。豊かな森は餌が足りているのだ。クロスさせた前足の間に首を乗せ、暖かな日差しを浴びながら……いつもより遅い午睡を楽しんだ。
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