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第8章 強者の元に集え

234.隠された意図を探るも配下の務め

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 命じられた作業を行うために、黒竜王はウラノスを爪で掴んで飛んだ。背に乗せてやるほど気を許していない。2代前の魔王に仕えた重鎮でありながら、最後の瞬間に主君を見捨てて封じられたと伝わる吸血鬼を放り出すようにして地上に降りた。

 上空を飛んだ際に大まかな地形は頭に入れた。池を作る予定地に舞い降りたドラゴンは、その方法を考え始める。池そのものは、魔王サタンが作り出した湖の半分以下の大きさで構わなかった。ならば、ブレスを2~3回放てば穴は作れる。

 問題は川の水をきちんと引き込み、戻すための支流作りだった。

「分担はどうする」

 ぐるると唸り、竜化したまま尋ねる。喉の震わせ方が人の姿の時と違うが、慣れれば簡単に操れる。魔力を使う念話も使えるが、2人しかいない場所で無駄な魔力を使う気はなかった。竜化していると声が大きく響いてしまうため、周囲の木々が振動に葉を揺らす。

 森が迫りくる一角は開拓するには最適だろう。目の前の木々を切り倒せば、家や魔物除けの柵を作る材料は足りた。少し入れば、動物や果物の木も見つけられる。木々が生える場所は落ち葉で土が豊かになるため、翌年には麦や野菜の収穫も見込めるはずだった。

 どこまで計算しておられるのか。主君の知識と計算に感心しながら、黒竜王アルシエルは小さな子供を見下ろす。少年と呼んで差し支えない外見だが、その年齢はアルシエルをはるかに凌ぐ長寿種族だ。白に近い銀髪をかしげて、ウラノスは土地にぺたりと座り込んだ。

 拾った木の枝で魔法陣を大地の上に描き、少し魔力を流す。何かを発動するほど大きな魔術ではなかった。そのためアルシエルは無言で見守る。

「水の流れる角度を考えると、先の案より大きく蛇行する必要がある」

 先ほどの木の枝で、がりがりと地形図を描き始めた。小さな記号に溜め息をつき、アルシエルは人化する。サタンが机に広げた地図の倍ほどのサイズで、川の流れと現在地が記された。指示された支流を描いてから、その蛇行する「つ」の部分を膨らませる。

「高低差がきつい。このまま作ると大雨で氾濫する」

 人の身長で低い位置から眺めると、上流に当たる森の方角はなだらかに上っている。後ろの荒野は明らかに低かった。つまり上流からの川の流れを小さな蛇行で引き込むと、普段は問題ないが大雨で勢いを増した水が決壊の原因となり得た。魔法で土地を固め護岸する手もあるが、魔力供給の問題もある。

「ふむ。これは課題か」

 ウラノスが呟き、アルシエルに肩を竦めて立ち上がった。

「我らの主は知っておられたはず。命じられたまま工事を行えば、無能のレッテルを貼られそうじゃ」

 少年の外見で、年齢相応の年寄りじみた話し方をするウラノスが、くつくつと喉を震わせて笑う。確かにあの魔王ならば、すべてにおいて見透かし試す可能性があった。今後も用心深く、注意して動くことにしよう。

 見限られる気はない。どこまでも魂尽きるまで従う覚悟はあった。ゆえに、問題点が浮かんだ今選べる言葉は決まっている。

「支流づくりは任せた」

 俺は池を作る。そう言い切ったアルシエルの狡さに、ウラノスは笑いを引きつらせて溜め息をついた。

「もう少し年長者を敬うものだぞ」
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