236 / 438
第8章 強者の元に集え
234.隠された意図を探るも配下の務め
しおりを挟む
命じられた作業を行うために、黒竜王はウラノスを爪で掴んで飛んだ。背に乗せてやるほど気を許していない。2代前の魔王に仕えた重鎮でありながら、最後の瞬間に主君を見捨てて封じられたと伝わる吸血鬼を放り出すようにして地上に降りた。
上空を飛んだ際に大まかな地形は頭に入れた。池を作る予定地に舞い降りたドラゴンは、その方法を考え始める。池そのものは、魔王サタンが作り出した湖の半分以下の大きさで構わなかった。ならば、ブレスを2~3回放てば穴は作れる。
問題は川の水をきちんと引き込み、戻すための支流作りだった。
「分担はどうする」
ぐるると唸り、竜化したまま尋ねる。喉の震わせ方が人の姿の時と違うが、慣れれば簡単に操れる。魔力を使う念話も使えるが、2人しかいない場所で無駄な魔力を使う気はなかった。竜化していると声が大きく響いてしまうため、周囲の木々が振動に葉を揺らす。
森が迫りくる一角は開拓するには最適だろう。目の前の木々を切り倒せば、家や魔物除けの柵を作る材料は足りた。少し入れば、動物や果物の木も見つけられる。木々が生える場所は落ち葉で土が豊かになるため、翌年には麦や野菜の収穫も見込めるはずだった。
どこまで計算しておられるのか。主君の知識と計算に感心しながら、黒竜王アルシエルは小さな子供を見下ろす。少年と呼んで差し支えない外見だが、その年齢はアルシエルをはるかに凌ぐ長寿種族だ。白に近い銀髪をかしげて、ウラノスは土地にぺたりと座り込んだ。
拾った木の枝で魔法陣を大地の上に描き、少し魔力を流す。何かを発動するほど大きな魔術ではなかった。そのためアルシエルは無言で見守る。
「水の流れる角度を考えると、先の案より大きく蛇行する必要がある」
先ほどの木の枝で、がりがりと地形図を描き始めた。小さな記号に溜め息をつき、アルシエルは人化する。サタンが机に広げた地図の倍ほどのサイズで、川の流れと現在地が記された。指示された支流を描いてから、その蛇行する「つ」の部分を膨らませる。
「高低差がきつい。このまま作ると大雨で氾濫する」
人の身長で低い位置から眺めると、上流に当たる森の方角はなだらかに上っている。後ろの荒野は明らかに低かった。つまり上流からの川の流れを小さな蛇行で引き込むと、普段は問題ないが大雨で勢いを増した水が決壊の原因となり得た。魔法で土地を固め護岸する手もあるが、魔力供給の問題もある。
「ふむ。これは課題か」
ウラノスが呟き、アルシエルに肩を竦めて立ち上がった。
「我らの主は知っておられたはず。命じられたまま工事を行えば、無能のレッテルを貼られそうじゃ」
少年の外見で、年齢相応の年寄りじみた話し方をするウラノスが、くつくつと喉を震わせて笑う。確かにあの魔王ならば、すべてにおいて見透かし試す可能性があった。今後も用心深く、注意して動くことにしよう。
見限られる気はない。どこまでも魂尽きるまで従う覚悟はあった。ゆえに、問題点が浮かんだ今選べる言葉は決まっている。
「支流づくりは任せた」
俺は池を作る。そう言い切ったアルシエルの狡さに、ウラノスは笑いを引きつらせて溜め息をついた。
「もう少し年長者を敬うものだぞ」
上空を飛んだ際に大まかな地形は頭に入れた。池を作る予定地に舞い降りたドラゴンは、その方法を考え始める。池そのものは、魔王サタンが作り出した湖の半分以下の大きさで構わなかった。ならば、ブレスを2~3回放てば穴は作れる。
問題は川の水をきちんと引き込み、戻すための支流作りだった。
「分担はどうする」
ぐるると唸り、竜化したまま尋ねる。喉の震わせ方が人の姿の時と違うが、慣れれば簡単に操れる。魔力を使う念話も使えるが、2人しかいない場所で無駄な魔力を使う気はなかった。竜化していると声が大きく響いてしまうため、周囲の木々が振動に葉を揺らす。
森が迫りくる一角は開拓するには最適だろう。目の前の木々を切り倒せば、家や魔物除けの柵を作る材料は足りた。少し入れば、動物や果物の木も見つけられる。木々が生える場所は落ち葉で土が豊かになるため、翌年には麦や野菜の収穫も見込めるはずだった。
どこまで計算しておられるのか。主君の知識と計算に感心しながら、黒竜王アルシエルは小さな子供を見下ろす。少年と呼んで差し支えない外見だが、その年齢はアルシエルをはるかに凌ぐ長寿種族だ。白に近い銀髪をかしげて、ウラノスは土地にぺたりと座り込んだ。
拾った木の枝で魔法陣を大地の上に描き、少し魔力を流す。何かを発動するほど大きな魔術ではなかった。そのためアルシエルは無言で見守る。
「水の流れる角度を考えると、先の案より大きく蛇行する必要がある」
先ほどの木の枝で、がりがりと地形図を描き始めた。小さな記号に溜め息をつき、アルシエルは人化する。サタンが机に広げた地図の倍ほどのサイズで、川の流れと現在地が記された。指示された支流を描いてから、その蛇行する「つ」の部分を膨らませる。
「高低差がきつい。このまま作ると大雨で氾濫する」
人の身長で低い位置から眺めると、上流に当たる森の方角はなだらかに上っている。後ろの荒野は明らかに低かった。つまり上流からの川の流れを小さな蛇行で引き込むと、普段は問題ないが大雨で勢いを増した水が決壊の原因となり得た。魔法で土地を固め護岸する手もあるが、魔力供給の問題もある。
「ふむ。これは課題か」
ウラノスが呟き、アルシエルに肩を竦めて立ち上がった。
「我らの主は知っておられたはず。命じられたまま工事を行えば、無能のレッテルを貼られそうじゃ」
少年の外見で、年齢相応の年寄りじみた話し方をするウラノスが、くつくつと喉を震わせて笑う。確かにあの魔王ならば、すべてにおいて見透かし試す可能性があった。今後も用心深く、注意して動くことにしよう。
見限られる気はない。どこまでも魂尽きるまで従う覚悟はあった。ゆえに、問題点が浮かんだ今選べる言葉は決まっている。
「支流づくりは任せた」
俺は池を作る。そう言い切ったアルシエルの狡さに、ウラノスは笑いを引きつらせて溜め息をついた。
「もう少し年長者を敬うものだぞ」
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる