上 下
230 / 438
第8章 強者の元に集え

228.大樹、倒れる時を知る

しおりを挟む
 送り込んだ王女カリーナは使い物にならず、それどころか宣戦布告をしたため国を窮地に追い込んだ。国王が狂い、王太子を殺す。カリーナを返しにグリフォンが送り込まれ、その後攻めさせた三万もの兵が消えた。悪夢が続くビフレストの王弟は頭を抱える。

 バシレイアに魔王が召喚されてから、ろくなことはない。何をしても裏目にでて、すべての策が愚かにも自国を傷つけた。

 魔王自らドラゴンを連れて来訪した際は、さらに状況が悪化した。民は怯えて、王都から逃げる者も出る始末だ。三万五千の軍が絶滅した時点で繰り上げた新しい将軍も、魔王に一蹴された。

 やたらと顔の整った男だが、細身の身体のどこに隠していたのか。剣の腕は一流以上だった。この大国ビフレストで将軍まで登り詰めた者が、一蹴される。悪夢以外に表現のしようがない。

 大国の体面をかなぐり捨て、イザヴェルと軍事同盟を結んだ。軍を立て直して兵を送るが、イザヴェルはユーダリルとも同盟を結ぶ。両国を天秤にかけたのだ。強い国と組んで、弱い国を食い潰すために。

 ユーダリルのような小国と天秤にかけられた屈辱は、あの澄まし顔の魔王を血塗れにしても足りない。そう思い、徴兵してまで軍を送り込んだ。

 その結果は、まさかの全滅だ。ユーダリルと組んだイザヴェルが送り込んだ兵も、ほぼすべて消えた。テッサリアとビフレストが同盟に踏み切った経緯のひとつに、食糧難が考えられた。あの魔王の戦力なら、他国の援助は必要ない。ならば先に食料を奪おうと襲いかかった。

 策略として間違っていない。なのに追い込まれた現状は、なぜだ?

 炎上する城の中で、ビフレスト国の王弟は膝をついた。兄王の何がいけなかったのか。大国が小国を攻め占領するのは、過去にも正当化された当たり前のこと。小国は庇護下にはいり、代わりに献上品として美しい娘や食料を供給する。他国の脅威から小国を守る武力があれば、どんな無理難題も許された。

 車輪のように、疑問を持つことなく世界は回っていたのだ。

 めらめらと燃える炎が、美しいカーテンを溶かす。その先に見える庭は、人の血と怒号で満ちていた。薔薇は踏み倒され、お茶を飲んだ東屋は倒される。まだ蕾の花が倒され、踏みにじられた。

 決起した民が雪崩れ込んだ王宮内に、王族を守る兵も騎士もいない。間も無く彼らはこの玉座の間にたどり着き、俺を殺すのだろう。

 ただ死ぬつもりはない。周辺に突き立てた大量の剣が、光を弾いた。隔てるカーテンが燃えた部屋で、火は絨毯に燃え移ろうとしている。

 もう助からないのは分かっていた。逃げ場もない。王族が使う緊急用の脱出口は、すでに家族を逃して封鎖している。後を追えないよう、魔術師に入り口を溶かすよう命じた。

「王を見つけたぞ」

「「殺せ」」

 聞こえる怒号に混じり、兄の悲鳴が響いた。最後は狂って我が子を手にかけたが、それでも優しい兄だった。目を伏せて追悼し、深呼吸して前を向く。

 もう何も残っていない。この場にある剣をすべて使い、民を倒したら兄王の後を追おう。そう覚悟を決めた男の胸を、窓の外から射られた矢が貫いた。

「ぐっ」

 口元を押さえる手が赤く染まり、灼熱の痛みが王弟を襲った。膝を着かないよう堪える彼の背に、剣が突き立てられる。串刺しに床へ叩きつけられた身体を、怒りの形相で何人もの国民が踏みつけ、剣を突き刺し、罵った。

 燃え上がる王宮の炎と煙が、千数百年続いた大国の歴史に幕を下ろす。逃げ延びたとされる王弟の娘と妻のその後を知る者は、この国にはいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...