上 下
219 / 438
第8章 強者の元に集え

217.憎むより、届かない事が悔しい

しおりを挟む
 複雑な感情を抱くリリアーナの気持ちは理解できる。しかし己を貶める感情をいつまでも抱くことは、今後の成長を止める要因だった。リリアーナに害になると知りつつ放置するのは、悪手だ。

「許さない。でも、認めてもいい」

 自分を放置して育てなかったことも、手足のように使ったことも、すべて飲み込んだ言葉を吐くと、リリアーナはくしゃりと顔を歪めた。腕を掴んで引き寄せ、抱き込むと大声を上げて泣き出す。外したマントで包んで抱き上げ、足早にこの場を後にした。

 リリアーナは誇り高い。解放した感情を吐き出す場所に、父親の存在は不要だ。慌ててついてくるクリスティーヌに、首を横に振って後にするよう示した。心配そうにしながらも、彼女は大人しく引き下がる。

 甲高い声で歌いながら庭先に佇むレーシーの横を抜け、庭の奥で足を止めた。古い東屋は存在を忘れられ放置された場所だ。彼女を腕に抱いたまま、今にも朽ちそうな椅子に腰掛けた。膝の上に横抱きにしたリリアーナが泣き止むまで、何も言わずに待つ。

 ひっく、ひっく。しゃくり上げながら顔を覗かせたリリアーナに、濡らしたタオルを渡せばまた
引っ込んだ。恥ずかしいのだろう。

「辛い決断をさせたか?」

 逃げ道を用意する。しかしリリアーナは否定するように首を横に振った。

「違う、あんなのでも父親。それが悔しい」

 憎む感情は強い。それより、あの男の方が強く役に立つことが悔しい。もし自分が強ければ、父親を凌ぐ実力者なら彼を不要だと断じて切り捨てることが出来たのに。そう呟いたリリアーナは強く拳を握った。

「ならば強くなれ」

 思うより、リリアーナは成長していた。12歳前後の少女姿相応の扱いをしても、ドラゴンとしては実質2歳児と同じ。どこかでそう考えて、愛でる対象とした。しかし彼女はオレの隣に立とうと必死で駆け上がる。

 結果がどうなろうと、リリアーナの努力を否定する権利は誰にもない。だから肯定して「早く追いつけ」と叱咤した。泣いたせいで赤い目元を綻ばせて、リリアーナはいつもの笑顔を浮かべる。

「うん」

 大きく頷いたリリアーナが空を見上げる。近づく魔力はグリフォンのものだ。一番早く動いたが、一番遠くへ出向いたグリフォンはぐるりと旋回し、徐々に高度を下げた。急降下しないのは、背にロゼマリアを乗せたためだろう。

「帰ったか」

「ローザ、大丈夫だったかな」

 心配そうに呟くリリアーナの目元に手を当て、治癒で腫れを消した。先ほど渡したタオルで涙の跡を拭えば、もうわからない。

「迎えに行ってやるとよい」

「ありがとう、サタン様」

 膝の上から降りたリリアーナが駆け出すのを見送り、らしくない己の行動に苦笑いする。アースティルティトがいれば「あなた様らしい」と肩を竦めただろうか。

 リリアーナの気配が離れたのを確認して、視線を林に向けた。庭の奥に作られた人工的に植樹された中にある大木の陰から、無骨な男が現れる。リリアーナが走った方角を見つめてから、軍服のマントを翻して膝をついた。

「我が君、娘を守っていただきましたこと御礼……」

「オレは方向を示したが、すべてはリリアーナ自身の努力だ」

「それでも御礼申し上げます。群れで孤立したあの子が仲間を作り、主君に仕える立派な姿を見られるとは思いませんでした」

 乗り越えた彼女の努力を、簡単に語るものだと目を細めた。複雑な感情を呼び起こす苛立ちに任せ、オレは身を起こす。

「親に育てられなかった子の苦しみを、お前が口にする権利はない」

 なるほど。何万年経とうと古傷は痛むものだと心配したアースティルティトは、知っていたのだろう。ひとつ大きく深呼吸して気持ちを切り替え、膝をついてオレの問いかけを待つ男へ望む言葉を吐いた。

「真名を寄越せ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

処理中です...